エピローグ
闇の中、そびえ立つ巨大な塔。
その頂点には、藍碧色に光るルミナイトの輝きが満ちている。
その塔を中心に広がるのは、広大なドームに覆われた都市——ルミナシティ。
かつて原発事故の跡地だったこの場所は、今やアルカディアの手によって再生され、彼らの掲げる理想が形になりつつあった。
だが、それはまだ未完成だ。
ドームの内側には、最新鋭のルミナイト技術で整備された中枢区域が広がっている。
整然とした街路、人工的に制御された気候、そして純白の高層ビル群。
アルカディアのために作られた都市。
その周囲には、一般居住地の建設が進められている。
中核部の輝きが象徴する未来の都市に相応しい街並みを作るべく、多くの作業員が昼夜を問わず働いていた。
そのさらに外側には、建設労働者たちが寝泊まりする区域が広がる。
そこはまるで都市の影のように、仮設の住居や粗末な建物が密集し、どこか荒廃した雰囲気を漂わせていた。
狭い路地には、今日の仕事を終えた男たちが、煙草の煙を燻らせながら夜をやり過ごしている。
都市は拡張を続けている。
いずれは、先進国の首都にも匹敵する規模の巨大都市へと成長する計画だ。
だが今はまだ、その全貌すら見えない。
完成された中核区域と、建設途中の一般居住地、そして仮設の外郭部。
その境界線は、まるで世界の"選別"を象徴しているかのようだった。
ジェイクとナディアは、その最外郭部——労働者たちの居住区から、ルミナシティの中核を見上げていた。
「……随分立派なもんを建てたなぁ」
タバコを咥えながら、ジェイクがぼそりと呟く。
「しかも、まだ中心部だけだっていうんだから……どれだけのものを作るつもりなのかしらねぇ」
隣でナディアが肩をすくめる。
「まあ、天下のアルカディア様だ。世界の中心を気取るくらいのことはするだろうよ」
ジェイクは煙を吐き出しながら、藍碧に輝く塔を見上げた。
「最近じゃキナくせぇ噂も絶えねぇ」
ジェイクはタバコを指で弾きながら、ぼそりと続けた。
「世界のあちこちで紛争が勃発、エネルギー危機が加速して、アルカディアの需要は更に高まってるようね」
ナディアが低く呟く。
「しかもだ、紛争地域じゃ国際条約で禁止されてるはずのルミナイト兵器や人工適合者が使われてるってなぁ」
ジェイクの言葉に、ナディアが小さく鼻を鳴らす。
「まるで、アルカディアにとって都合のいい世界になっていってるみたいね」
「どうにも……偶然にしちゃ出来過ぎてるよなぁ」
ジェイクは塔を見上げながら、ぼそりと呟いた。
「ま、ARCを抜けた私達にはどうでもいい事だけどね」
ナディアが肩をすくめ、軽く笑う。
「ハンッ! 奴らのやり方は気に入らねぇが、触らぬ神に祟りなしってな」
ジェイクはタバコを口に咥え、気だるそうに煙を吐く。
「私達は私達のやり方で楽しく生きましょ♡」
ナディアは軽やかに言いながら、夜空を見上げた。
「ああ………ちげぇねぇ」
ジェイクがタバコの灰を落としながら応える。
ナディアはふと、ジェイクの横顔を覗き込む。
「今、あの子のこと思い出してたでしょ?」
「……あの子だ?」
ジェイクが視線を逸らす。
「とぼけちゃって……三年前のあの日、いなくなったまま……とうとう戻ってこなかったわね」
ジェイクは吸った煙を、ゆっくりと吐き出した。
「まぁ、生きてりゃそのうちどっかでまた会うだろ」
ナディアはくすっと笑い、ジェイクの横顔を覗き込む。
「ジェイクったら……寂しいのね?」
「寂しかねぇよ!」
ジェイクはすぐに否定した。
指先でタバコを弾き、灰を落とす。
ナディアは微かに笑ったが、それ以上は何も言わなかった。
しばらく沈黙が続いた後、ジェイクがぽつりと呟く。
「寂しかねぇが……つまんねぇなぁ」
タバコの煙が、夜の闇へと溶けていく。
その揺らめきが、どこか儚げに見えた。
ジェイクはタバコを足元に落とし、靴の先で踏み消す。
「さぁて、そんじゃそろそろ行くか」
ナディアは軽く伸びをしながら、肩をすくめる。
「そうね、次は何しようかしらねぇ?」
ジェイクはニヤリと笑い、空を仰ぐ。
「そうだなぁ……独立宣言書に隠された謎でも解いて、伝説の秘宝でも探すか?」
ナディアも唇の端を上げる。
「イギリスの高級スーツ店に行って、スパイごっこも良いんじゃない?」
二人は顔を見合わせ——
ニヤリと笑った。
そして、夜の静寂の中へと、軽やかに歩き出した。
世界の変革は止まらない。
ある者はその中心に、またある者は傍観者として、そしてある者は目を逸らしながら、それでも生き続ける。
それぞれの選択は、いずれまた交わり、絡み合う。
——藍碧の光のもとで。
LUMINESCENCE:PHANTPM ECHO前編・完




