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LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
終・黄昏
43/48

真実の行方

 部屋の奥、デスクに座る舞が静かに口を開いた。


「正式な報告が出たわ」


 淡々とした声。


「LUX襲撃事件は『Noctaによるアルカディアへの妨害工作』として処理された」


 その言葉に、ジェイクが鼻で笑う。


「ハッ、事件の事後処理は警察任せ、俺たちは現場の後片付けやらされてクタクタだよ」


 ソファに深く腰掛け、疲れた様子で肩を回す。


 ナディアもため息混じりに続けた。


「ほんとよねぇ、メディアは『ARC大活躍!』なんて騒いでるけど、ちょっとこき使いすぎなんじゃないの?」


 適当にカップを手にしながら、ぼやくように言う。

 

 龍之介は腕を組みながら、眉をひそめた。


「アルカディア妨害のため、適合者を率いたNoctaがLUXを襲撃……」


 ゆっくりと息を吐く。


「アルカディア私設組織のARCがこれを見事鎮圧……随分とアルカディアに都合の良いシナリオだな」


 部屋の空気が、微かに重くなる。


 舞が視線を落としながら、静かに言葉を続ける。


「一般市民に被害が出たことで、ルミナイト技術や適合者の軍事利用に対する懸念が広がっているわ」


ジェイクが肩をすくめながら、皮肉っぽく笑う。


「アルカディアはルミナイトの研究を独占することで、安全な運用を訴える……ってわけか」


 ナディアがカップを揺らしながら、ぼんやりと呟いた。


「ルミナイト技術は人類の発展には欠かせないものね……」


 微かに沈む空気。


 龍之介は静かに口を開いた。


「俺たちのところに、本社の情報管理部を名乗る人間が来た」


 舞が目を細める。


「事件の詳細を根掘り葉掘り聞かれて、最後にこの件は口外するなと口止めされたよ」


 部屋の空気が、さらに重くなる。


 龍之介は真っ直ぐに舞を見つめた。


「舞先生、一体何が起きてるんだ?」


 少しの間、沈黙が落ちる。


 やがて——舞は静かに息を吐いた。


「……分からないわ」


 その表情はどこか険しい。


「アルカディア内部でも情報が統制されていて、私も全てを把握はできないの」


 ジェイクが腕を組み、苦々しく口を開く。


「ルミナイト研究を統括してるあんたですら分からないってこたぁ、何かが裏にあるんだろうな」


 誰もが、目に見えない“別の意図”を感じ始めていた。


「クロウは死ぬ直前に『騙された』と言っていた」


 その言葉が、頭から離れない。


 胸の奥に張り付くような違和感。

 まるで、何か大事なピースが欠けたまま、答えが出せずにいるような感覚。

 

「それに、胸に埋め込まれたルミナイト……あいつは一体何者だったんだ?」


 舞は静かに目を閉じ、少し考え込むような仕草を見せる。


「クロウの言葉の真意については分からない」


 ゆっくりと視線を上げる。


「けど、胸のルミナイトに関しては思い当たる節があるの」


 その言葉に、龍之介、ジェイク、ナディアの3人が息を呑んだ。


 舞は一瞬の沈黙の後、決定的な言葉を口にする。


「彼は……恐らく人工適合者よ」


 ナディアが眉をひそめる。


「人工適合者?」


 舞は静かに頷いた。


「ええ、適合者の発見は私たちにとって衝撃的なものだったわ」


 ゆっくりと言葉を続ける。


「けれど、ルミナセンスの発現は、多くの偶発的な事象が重ならないと起きないことが分かった」


「だから、その発現プロセスを人工的に起こせないかという研究が始まったの」


 ジェイクが腕を組みながら聞き入る。


「でも、研究途中で倫理的な問題があることが分かり、研究は打ち切られたのよ」


 龍之介が眉を寄せる。


「倫理的な問題?」


 舞の表情がわずかに曇る。


「そう。人工適合者はルミナセンスを発動させる際に——生命エネルギーを燃焼させる」


 ジェイクが低く呟いた。


「つまり……寿命が短くなるってことか?」


 舞は静かに頷く。


「ええ。その力の強さにもよるけれど、普通の人間より遥かに早く死に至ってしまう」


 ジェイクとナディアが、ハッとした表情で龍之介を見る。


 舞は彼の反応を確認しつつ、静かに言葉を続けた。


「龍之介たち普通の適合者とは違うわ」


 龍之介は無意識に胸元に手をやる。


 舞はさらに説明を続けた。


「人工適合手術は、ルミナイトコアと呼ばれる特別な処理を施したルミナイトを心臓と繋げるの」

「そして、ルミナス因子の代わりとなるナノマシンを注入する……」


 ジェイクが眉をひそめる。


「そいつが寿命を縮める原因ってわけか」


 舞は頷く。


「そうよ。ルミナイトコアの負荷、ナノマシンの代謝、両方が身体に大きな負担を与えてしまう」


 龍之介は、少しだけ胸を撫で下ろす。

 彼自身がその影響を受けることはない……。

 だが、別の疑問が浮かぶ。


 ジェイクが腕を組み、険しい顔で言った。


「しかし、研究が打ち切られたってんなら、あいつらはどこでその手術を受けたんだ?」


 舞は小さく息を吐く。


「分からないけど……Noctaにそんな技術があるとは思えない」


 ナディアが静かに呟く。


「つまり、Noctaに協力する組織がいるってことね」


 ナディアがさらに言葉を続ける。


「しかも、その組織は相当な技術力を持ってる……」


 誰も反論できなかった。


 沈黙が落ちる。


 この件の裏には、単なるテロ組織Nocta以上の、もっと大きな存在が絡んでいる。

 その確信だけが、静かに空気を支配していた。


 ——その沈黙を破ったのは、龍之介だった。


「翔は……あいつはどうなんだ?」


 あの時の翔の瞳が、脳裏をよぎる。

 冷たく、揺るぎなく、そして、どこか別人のような目……。


 舞がデスクの端に手をつきながら答える。


「あの後、彼の検査をしたわ」


 ジェイクとナディアも耳を傾ける。


「彼は人工適合者ではない……けれど、普通の適合者とも少し違う」


 龍之介が眉をひそめる。


「違う? どういうことだ?」


 舞は慎重に言葉を選びながら続けた。


「元々、彼の適合率は低かったの」


「あれほどの力を発現できるはずがなかった」


 舞の言葉に、部屋の空気がさらに緊張を孕む。


「それが、あの時——何かが起きて、適合率が急激に上がった」


 龍之介は息を詰まらせる。


「翔はルミナスフィールドの影響だと言っていたけれど……それだけとは思えないわ」


 舞の言葉が、部屋の奥深くまで静かに響いた。


 ジェイクが大きく息を吐きながら言う。


「結局、何もかも分からないことだらけか」


 ナディアも肩をすくめる。


「せっかく事件解決と思ったのに、謎は深まるばかりねぇ」


 舞は静かに頷いた。


「そうね……」


 少しの間を置いて、言葉を続ける。


「ただひとつ言えるのは、適合者相手にあれだけ渡り合ったあなたたちを、アルカディアは放っておかないでしょうということ」


 その言葉に、龍之介が微かに表情を強張らせる。


「特に龍之介と綾……あなたたちは元々強い適合率を持つ適合者だわ」


「アルカディアから、何かしらの接触があるかもしれない」


 部屋に静かな緊張が漂う。


 舞は龍之介の顔を見つめ、少し声を落とした。


「その時、どんな選択をするかはあなたたち次第だけれど……心しておいた方がいいかもしれない」


 舞の言葉が、何かを暗示するかのように、龍之介の心に影を落とした。

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