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LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
終・黄昏
41/48

覚醒

 クロウが、一気に距離を詰める。


 鋭い踏み込み。


「クゥゥゥ……!」


 低く唸るような声とともに、手刀の突きが繰り出される。


 龍之介は反射的に身を捻る。

 耳の横を風が切る。


 間髪入れず、狂気に満ちた速さで繰り出される突きの連撃。


「ッ……!」


 龍之介はギリギリのタイミングで、それを躱し続ける。

 最小限の動きで、確実に回避する。


 ——その時。


 クロウの顔が、一瞬だけ歪む。


 動きが鈍った——


「はぁッ!!」


 クロウの腹に拳を突き刺す。


 衝撃が、拳を通して響く。


 さらに、流れるように回し蹴りを叩き込む!


 ドガッ!!


 クロウの体が吹き飛び、地面を転がる。


 荒い息を吐きながら、クロウがゆっくりと起き上がる。

 その胸が、大きく上下している。


 ゴフッ——


 クロウの口からドス黒い血が吹き出した。


 龍之介は一瞬、拳を握り直す。

 だが、これは自分の攻撃によるものではない。


(……何かに、内側から侵食されている……?)


 まるで身体そのものが壊れかけているかのようだった。


 だが——クロウはそれを気にする素振りすら見せない。

 ただ、狂気に染まった瞳で龍之介を睨みつける。


(……様子がおかしい。)


 動きが鈍っている気がする。


 クロウが、再び飛び出した。

 だが——


(やはり……)


 その動きには、先ほどのような鋭さがない。


 龍之介は突進を躱す。

 すれ違いざま、クロウの背後に回り込み、拳を振りかぶる——


 ——その時。


『殺せ……』


 クロウの言葉が、脳裏に蘇る。


『お前は助けろ。』


 ジェイクの言葉。


 目の前で崩れ落ち、二度と動かなくなった——あの時の暴徒たち。


 一瞬で、無数の記憶が龍之介の頭を駆け巡った。


 拳を振り下ろそうとした腕が、止まる。


 代わりに——


 龍之介は拳を解き、クロウの背後から羽交い締めにした。


「もうやめろ、クロウ!!」


 全身の力を込め、暴れるクロウを抑え込む。

 

「これ以上は無意味だ……」


 龍之介は必死にクロウを抑え込みながら、低く絞り出すように言った。


「俺には……殺すなんてできない……」


「……龍ちゃん」


 二人の戦いを見守っていた綾が、かすかに呟いた。


「クァァァァァ!!」


 クロウが再び激しく暴れる。


「くそっ! 大人しくしろ……! クロウ!!」


 だが、徐々に——クロウの力が弱まっていく。


「グァ…ァ……ぁ……」


 荒い呼吸。

 そして、赤黒く染まっていた瞳に、わずかに意思の光が戻った。


「……ぁ……甘いな……犬っ……コロ……」


 震える声で呟くクロウ。


「クロウ! 頼む、そのまま……!」


 龍之介は必死に呼びかける。


 だが——


 クロウは、かすかに笑った。


「お、俺は……もう……引き返せん……」

「くっ……そ……ぅ……」


 声が震える。

 そして——


「だ…だまさレ……グォァァァァ!!」


 再び狂気の咆哮が響き、クロウの体が暴れ出した。


「クロウ!!」


 龍之介が叫んだ、その瞬間——


 クロウの瞳がさらにどす黒く染まる。


 ——ビリビリビリッ!!


 次の瞬間、全身から激しい電撃が放たれた。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 凄まじい衝撃が龍之介の腕を焼く。

 それはクロウ自身の身体すら焦がすほどの、制御を失ったエネルギーの奔流だった。


 耐えきれず、龍之介の腕が緩む。


「龍ちゃん!!!」


 綾の声が響いた。


 その瞬間——


 クロウの動きが止まる。


「綾! 逃げろ!!」


 龍之介の声が響くより早く——


 クロウは、跳んだ。


 目の前の標的に向かい、一直線に。


 ——綾が、動かない。


 迫る異形を前に、咄嗟に動こうとするが身体がすくむ。


(……あの悪夢は……これだった……)


(……私が……死ぬ……)


「綾ぁ!!!!」


 龍之介が叫ぶ。


 クロウの腕が、綾を貫かんと振りかぶられた——


 ——瞬間。


 ドクンッ。


 龍之介の心臓が激しく鼓動する。


 ——全身の血が熱を帯び、駆け巡る。


 全身が熱を持ち、心臓がはぜるように脈打った瞬間——視界が藍碧に染まる。


 龍之介の感覚が極限まで研ぎ澄まされる。


 考える間もなく、身体が動いた。


 世界が静止したように、すべての動きがスローモーションになる。

 ——いや、違う。


 龍之介の研ぎ澄まされた感覚が、世界をそう見せている。


 刹那——


 龍之介はクロウの前に立ちはだかる。


 拳を握る。


 静かに、藍碧の粒子が拳に収束していく。


「だあああ!!」


 龍之介の拳がクロウの顔面を撃ち抜く。


 ——時が動き出す。


 同時に、龍之介の軌跡を追うように、吹き荒ぶ突風。


 衝撃に煽られ、綾が後方へと弾き飛ばされる。


 龍之介の拳がクロウの顔面を貫いた瞬間、空気が震えた。


 グシャアッ!!!


 鈍い音と共に、クロウの顔面が歪み、拳の衝撃が身体を捻じ曲げ、大きくひねられながら吹き飛ぶ。


 地面を転がり、荒れ狂うように暴れるクロウの体が、瓦礫の山に突っ込み、砂埃を撒き散らす。

 

 龍之介は息を荒くしながら、前に突き出した拳を緩め、その姿を見据えた。

 

 衝撃でクロウの端末が壊れたのか、ルミナスフィールドがゆっくりと消えていく。


 あれほど張り詰めていた空気が、少しずつ緩んでいった。


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