表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
終・黄昏
39/48

トクベツ

「はぁ…はぁ……」


 翔は息を切らしながら、LUX中心部の噴水広場へと駆け込んだ。


 昼下がりの光が、瓦礫の散らばる広場を静かに照らしている。

 荒れ果てた噴水の縁に手をつき、翔は振り返った。


(……追ってきていないようだな)


 背後に異様な気配は感じない。

 慎重に周囲を見回しながら、呼吸を整える。


(……あれは、何だったんだ)


 あの赤黒い瞳。

 皮膚を焼くような攻撃。


 適合者にも思えたが——何かが違う。

 あの二人からは、意志のようなものが感じられなかった。


「!…もしや……」


 翔は思わず声を漏らした。

 その瞬間——


 ガラガラ……


 低い音が広場に響いた。

 崩れた噴水の瓦礫が、ゆっくりと動く。


 巨躯の男が立ち上がった。


 瓦礫をものともせず、ゆっくりと顔を上げる。

 岩のような筋肉。人間離れした厚み を持つ肩。


 そして——


 その男の瞳も、赤黒く光っていた。


「また……あの瞳……」


 翔の喉が、かすかに鳴った。


「くそっ…またか……!」


 翔は歯を食いしばり、反射的に駆け出した。

 だが——


 ドンッ!!


 視界が揺れる。


 次の瞬間、目の前に巨大な影が立ちはだかっていた。

 翔の逃走を見越したかのような速さ。


「なっ!?」


 信じられない——あの巨体で、この速度…!?


 翔の動きが止まる。

 そして、男はゆっくりと拳を振り上げた。


 影が広場の地面に伸びる。


 その影を見た瞬間、全身が凍りついたように動かなくなる。

 足が重い。

 喉が詰まる。

 心臓の音だけが耳の奥で響く。


(こんなところで……死ぬのか……)


 胸の奥が締めつけられる。


(まだ何も成していない……)


(まだ何も得ていない……)


(僕は、特別なはず なのに……こんなところで——)


 父と母の言葉が脳裏をよぎる。


『翔、お前は特別なんだ』

『きっと素晴らしい人間になるわ』


 何度も聞かされた言葉。

 繰り返し刷り込まれた、自分の価値。


 男の拳が、音を置き去りにするように振り下ろされる。

影が翔を覆い尽くす。


(僕は……)


(僕は……!!)


(特別なんだ!!)


 無意識に——翔はその拳に向かって手を掲げた。


 瞬間——


 ——拳の周りの空気が歪む。


 シュオッ——


「え?」

 

 何かが弾けるような音。


 次の瞬間——


 拳が消えた。


「グォォォォッ!!」


 男の喉から、人間のものとは思えない悲鳴が上がる。

 空間がわずかに震え、重力が歪んだ痕跡だけが残っていた。

 

(何だ今のは……)


 翔は自分の手を見つめた。

 先ほどまで振り下ろされていた巨大な拳が、跡形もなく消えている。


(何が…起きたんだ…?まさか…もしかして……)

 

「僕が……やったのか……?」


 呟くと、胸の奥底から何かが込み上げてきた。

 不安でも、恐怖でもない。


 それは——高揚感。


(これは……)


 苦しみに悶える大男を見下ろす。

 腕を失ったその異形の身体が、痙攣するように震えている。


 翔は、ふっと口元を歪ませた。

 そして——


 今度は、反対の腕へと手を向ける。


(消えろ……!)


 強く意識を集中させる。

 さっきの感覚を思い出すように、力を意識的に感じる。


 すると——


 シュオッ——!


 またしても弾けるような音。


 男の腕が、跡形もなく消えた。

 支えを失った拳が、地面を転がる。


「グガァァァァァ!!」


 男が苦しそうに叫ぶ。


(これは……これは力だ……!)


(特別な力……龍之介とは違う、僕だけの力……!!)


 翔の口元が緩む。


「ハハ……ハハハハ……!」


 抑えきれず、笑いがこぼれた。

 胸の奥に渦巻いていた焦燥感が、少しずつ快感へと変わっていくのを感じた。


「グ…ググ……」


 大男が赤黒い瞳をギラつかせ、翔を睨みつける。


「ウオォォォォ!!」


 獣のような咆哮が広場に響いた。

 血の気の引くような、凶暴な怒り。


 ——次の瞬間、大男が地を蹴った。


 凄まじい勢いで翔に向かって突進してくる。


 翔は微動だにしなかった。

 ただ、冷たく光る藍碧の瞳で相手を見据え、静かに言い放つ。


「うるさいよ」


 手のひらを、真正面に向ける。


 シュオッ——


 空間が歪んだ。


 ——そして


 大男の頭が消えた。


 巨体が急に制御を失い、膝を折る。

 そのまま、何の支えもなく——


 ドサッ…!


 地面に崩れ落ちた。


(どうだ、龍之介……僕も選ばれたぞ……!)


 翔は震える指先を握りしめる。

 まだ残る熱の余韻が、確かな力の証明のように思えた。


(いや、これは君以上だ……!!)


 胸の奥で膨れ上がる優越感。

 今までずっと後ろを歩いていたはずの道が、今は違う景色を映している。


 翔は足元に転がる頭部を失った巨体を見下ろした。


 血の気が引いたような皮膚。

 だが、それでもまだ動き出しそうな不気味さが残っている。


(あの光は……ルミナスフィールドだろう)


 思考を巡らせる。


(そして、こいつらは恐らく……)


 断片的な情報が繋がる。


(であれば、奴らの狙いは……)


 翔は口元を歪ませた。


「そういうことか、アルカディア」


 静かに呟き、不敵な笑みを浮かべる。


 その瞬間——


 スッ——


 目の前に、先ほどの男と女が現れた。


 赤黒い瞳。

 静かに佇みながら、冷たい光を宿している。


「…………フッ」


 翔は口元を歪める。

 圧倒的な確信。


 迷いなく、翔は二人に向けて手を掲げた。


 静まり返った噴水広場に、二つの影が倒れ込む音が響いた…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ