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LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
四・斜陽
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昏き兆し

 戦場から少し離れた高台で、舞と綾は龍之介とクロウの激しい攻防を見守っていた。


 綾の胸の奥がざわめく。


(なんだろう……胸がザワつく……嫌な予感がする……)


 目の前では、龍之介がクロウの猛攻を必死に凌いでいる。しかし、どこか——何かが引っかかる。


「このままじゃ……ダメ……龍ちゃんが……」


 あの悪夢が脳裏を過る。


(あれは……もしかしたら……)


 無意識に胸元の鈴へと手を伸ばす。


 ——その瞬間、視界がぐらりと揺れる。


 音が遠ざかり、まるで水の中に沈んでいくような静寂。

 色彩がぼやけ、意識が沈む。

 


 ——龍之介の足元がわずかに揺れる。


 一瞬の隙。


 そこに、クロウの手刀が猛然と迫る。


 咄嗟に拳を突き出す龍之介。


 交差する手刀と拳。


 次の瞬間——


 クロウの手刀が龍之介を貫いた。


「龍ちゃん!!!!!!」


 綾の悲鳴が戦場に響く。


 

 ——激しく弾かれるような感覚。


 現実の音が一気に押し寄せる。


 心臓が早鐘のように打ち、呼吸が荒くなる。


「綾!綾!!」


 舞の声が意識を引き戻す。


 肩で息をしながら、綾は震える唇を噛みしめた。


「龍ちゃんが……!」


 舞の静止を振り解くように、綾は龍之介の元へ駆け出した——


 ***


 静まり返った戦場で、龍之介とクロウは激しくぶつかり合っていた。


 互いに引かぬ、一進一退の攻防。


 拳と手刀が交差し、衝撃が空気を揺るがす。


 二人は距離を取ったまま、荒い息を吐きながら睨み合う。


「なかなか……やるじゃないか、犬っコロ」


 クロウが不敵に笑う。


「お前もな……カラス野郎」


 龍之介も負けじと応じる。


 互いに確信していた。次の一撃が勝負を決する。


 クロウの足が地を蹴る。


「死ねっ!!」


 龍之介も同時に前へ踏み込む。


「龍ちゃん!!」


 その声が、意識の端を揺さぶる。


 龍之介が僅かに目を向けると、そこに——綾の姿。


(綾……無事だった……)


 瞬間、龍之介の瞳に藍碧の炎が一層強く燃え上がる。


「綾を……守る! お前を……倒す!!!」


 クロウの動きがスローモーションのように見える。


 ギリギリで身を翻すが、クロウの手刀が龍之介の胸を抉る。


 だが、龍之介の拳もまた、渾身の力を込めてクロウの腹に突き立てられた。


 ——爆発的な衝撃。


 クロウの身が捩れ、衝撃波が周囲の砂埃を巻き上げる。


 龍之介の拳がそのままクロウの身体を突き通すように、強烈な打撃を浴びせる。


 クロウは物凄い勢いで吹き飛び——


 本部の壁に叩きつけられた。


 ドガァァンッ!!!


 壁が激しく砕け、粉塵が舞い上がる。


 クロウの身体が瓦礫の上に崩れ落ちた——。



「今の……感覚……」


 龍之介は拳を握りしめながら、先ほどの一撃の際に感じた違和感に戸惑いを覚えた。


 ——一瞬、時間の流れが遅くなったような……。


 これまでにない感覚。だが、それを考える暇もなく——


「龍ちゃん!!」


 綾の声が駆け寄ってくる。


「綾! なんでここに……」


「龍ちゃん、無事でよかった……また未来を変えたんだね……」


「ん? 変える?」


「ううん、なんでもない……とにかく、無事でよかった……」


 綾の瞳がわずかに揺れる。


 そのまま、龍之介の胸に飛び込むように抱きついた。


 戸惑いながらも、龍之介はそっと彼女の背中に手を回す。


 その温もりに、戦いの余韻が少しずつ遠のいていく——。


 ——が、その余韻をぶち壊すかのように、低い声が響いた。


「ねぇ2人とも……せっかくのところ申し訳ないんだけど……」


「俺たちのこと、忘れちゃいねぇか……?」


 苦しそうに地べたに這いつくばるジェイクとナディア。


「……あ!」


 龍之介がハッとして振り向く。


「わりぃわりぃ……でもどうすりゃ……」


 クロウが吹き飛んだ先に目をやる。


「……あいつの端末で、なんとかできるか……?」


 龍之介の視線の先、クロウはピクリとも動かない。


「綾は、少し離れてろ……」


 慎重に近づく龍之介。


 倒れ伏したクロウの姿に目を落とし、そこで龍之介は息を呑んだ。


「な……何だこれは……!?」


 先ほどの激闘で衣服が裂け、クロウの胸元があらわになっている。

 だが——龍之介が驚愕したのは、そこではなかった。


 クロウの心臓の上、胸部の中心——そこに藍碧色に輝く石が埋め込まれていた。


 ルミナイト——


 それはまるで、クロウの肉体に寄生するかのように脈動していた。

 心臓の鼓動に合わせるように、青白い光が明滅する。


「これは……ルミナイトなのか……?」


 これまで見たどのルミナイトとも違う。

 まるで生きているかのように、クロウの体と同期しながら脈打っている。


 ——何なんだ、こいつは……!?


 龍之介の胸に、言い知れぬ嫌悪感と戦慄が広がる。

 だが、その思考を遮るように——


 ピピピピピッ!!!


 突如、耳障りな警告音が鳴り響いた。


「何だ!?」


 辺りを見回す龍之介の視線が、クロウの腕に装着された端末へと向かう。

 端末のディスプレイが点滅し、赤い警告メッセージが表示されていた。


《ルミナスフィールド 異常出力警告——最大閾値を超過》


《制御不能——緊急停止プロトコル発動不可》


「……!?」


 画面上で、制御不能となったフィールドの出力値が異常な数値を叩き出していく。

 数値は加速度的に上昇し、警告音はより激しく鳴り響く。


「おい……まさか……!」


 龍之介が息を呑む中、クロウの体が微かに痙攣し、胸元のルミナイトが不気味に輝き始めた——。


 ピーーーーーッ!!


 警告音が一段と鋭い音に変わった、その瞬間——


 LUX全体が、藍碧のフィールドに包まれた。

 ルミナスフィールドの光が、龍之介の肌にも異常な熱を帯び始める。

 

「ぐああああ!!」

「いやぁぁぁ!!」


 背後からジェイクとナディアの悲鳴が響く。


 振り返ると、2人は膝をつき、苦しそうに身をよじらせていた。

 ルミナスフィールドの異常な出力が、非適合者である彼らの神経を容赦なく蝕んでいく。


「ジェイク!ナディア!!」


 必死に呼びかけるが、2人はもがきながら息を荒げるばかり。

 その様子に龍之介の胸が締めつけられる。


「クソッ……!」


 このままでは——


 龍之介が2人へ駆け寄ろうとした、その時。


「い、いや………」


 綾が龍之介の背後を見つめ、後ずさる。


 ——ザリ……


 ——ザリ……


 背後で、何かが動く気配がした。


 不気味な影が、ゆっくりと起き上がる——


 龍之介の背中に、冷たい戦慄が走る。


(まさか——)


 ゆっくりと振り向く。


 そこに立っていたのは——


 胸元のルミナイトを不気味に脈動させながら、蒼白い顔で立ち上がるクロウだった。


 その瞳は——


 藍碧を超え、赤黒く染まりつつあった——。


四・斜陽・完



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