絶対領域
「さぁて、そんじゃとっとと片付けちまうか」
ジェイクがニヤリと笑う。
「そうね、私、お風呂入りたいわ」
ナディアも余裕の笑みを浮かべる。
(こいつら……)
クロウの強さを知りながらも、この二人の態度には不思議な頼もしさがあった。
「フンッ、犬が三匹に増えたところで……!」
クロウが地を蹴る。瞬時にジェイクへと詰め寄り、鋭い手刀を振り上げる。
「ジェイク! そいつの手は…!」
龍之介が叫ぶ。
「!」
ジェイクの耳に龍之介の警告が届いた瞬間、彼はパルスマグナムの銃身を盾にするように構えた。
バチッ——!
銃身がクロウの手刀を弾く。
「チッ……!」
クロウが僅かに怯んだ、その背後。
「隙あり♡」
ナディアがワイヤーで瞬時に回り込み、パルスナイフを振り下ろす。
「ぐあっ!」
刃がクロウの背中をかすめ、彼は反射的に飛び退る。
——その先には、ジェイクのパルスマグナムが狙いを定めていた。
「ほらよ!」
——ズドンッ!!
パルスマグナムの弾丸が炸裂し、クロウの胸部に直撃する。
「ぐっ……!」
クロウの体が大きく吹き飛び、地面に転がる。
(こいつら……こんなに強かったのか……)
自分が苦戦した相手に対し、ジェイクとナディアは息の合った連携で的確に攻め込んでいた。
その圧倒的な手際に、龍之介は呆気に取られる。
地面に転がったクロウが苦しげに身を起こし、歯を食いしばる。
「くそっ……なんなんだ、あいつら……適合者でもないのに……」
その言葉を呟いた瞬間、クロウの目がわずかに見開かれる。
「!……フフフ……そうか、適合者じゃない……」
次の瞬間、彼は不敵な笑みを浮かべた。
ジェイクがそれを見て眉をひそめる。
「なんだあいつ? 笑ってやがるぞ」
ナディアが肩をすくめ、軽く笑う。
「頭打っておかしくなっちゃったんじゃない?」
クロウは腕にはめたATDに似た端末を操作する。
その指の動きは自信に満ちていた。
「フハハハ……終わりだ!」
言葉が放たれた瞬間——
辺り一帯に淡い光の波が広がる。空気が揺らぎ、空間そのものが歪むような錯覚を覚える。
「うおっ……これは……」
ジェイクが咄嗟に腕で顔を庇う。
「……入り口の時と同じ……」
ナディアの顔が苦痛に歪む。その瞬間、2人は同時に苦しげに呻き、膝をついた。
「ジェイク! ナディア! どうした!?」
龍之介が驚きの声を上げ、駆け寄ろうとする。
クロウは勝ち誇ったように口角を吊り上げる。
「フフフ……ルミナスフィールドだ」
「ルミナスフィールド……!?」
龍之介の目が見開かれる。
クロウは余裕の笑みを浮かべながら、腕の端末を操作する。
「ああ、そうだ」
龍之介を見据え、低く嗤う。
「適合者の戦場支配を目的として作られた環境制御装置さ」
フィールド内の空気が圧縮されるような感覚が広がる。ジェイクとナディアの表情が苦悶に歪む。
「フィールド内では電子機器が無効化され、発生した重力場と神経への負荷により——」
クロウが指を鳴らすように端末を操作した瞬間、2人の身体が僅かに痙攣する。
「非適合者の行動を著しく制限する」
ジェイクが奥歯を噛みしめ、苦しげに肩を震わせる。
「くそっ……これは……っ!」
ナディアも額に汗を浮かべながら立ち続けていたが、明らかに呼吸が乱れている。
「……つまり…この中は我々適合者の独壇場と化すわけだ!」
クロウが不敵な笑みと共に、龍之介を睨み付ける。
「なるほど……じゃあ結局、俺がお前をぶっ飛ばすしかないってことか」
目の前のクロウを睨み据える。
クロウは嗤うように鼻を鳴らした。
「フンッ……やれるものならな」
背後でジェイクが苦しげに声を上げる。
「龍之介……!」
龍之介は振り返らず、ゆっくりと息を吐いた。
「大丈夫だ、やってやるよ」
足元に力を込め、構えを取る。
「——あんた達も、LUXも、そして綾も……俺が守る!」
「ハッハハ!犬っコロ一匹で……何が出来る!?」
クロウの瞳が鋭く光る。
瞬間、クロウが地を蹴った——!!
龍之介の視界からクロウの姿が消える。
次の瞬間——
——ヒュンッ!!
強烈な突風と共に、背後に鋭い殺気。
(後ろ——!!)
龍之介は反射的に身を屈める。
直後、クロウの手刀が空を裂く。わずか数センチ差、肩を掠めるようにしてかわす。
龍之介は即座に反撃。ナックルを装着した拳を振り上げる。
——ゴッ!!
衝撃音と共に、拳がクロウの腕に弾かれる。
(硬い……!)
瞬時にバックステップし、再び間合いを取る。
しかし、クロウも間髪入れずに動く。
——ズバッ!!
低く鋭い蹴りが龍之介の足元を狙う。地を払うような軌道。
(読める——!)
龍之介は跳躍。
わずかに空中で体を翻し、クロウの蹴りをかわしつつ、真上から拳を振り下ろす。
——ドンッ!!!
拳がクロウの肩に叩き込まれる。
「……ッ!」
クロウの体がわずかに沈む。しかし——
(手応えが薄い!?)
龍之介が驚く間もなく、クロウの足が龍之介の腹へと伸びる。
——ドガァッ!!
龍之介の体が吹き飛ぶ。
宙を舞い、背中から地面へ激突。
(クソ……このままじゃ……!)
すぐさま立ち上がる。
クロウも、すでに間合いを詰めていた。
——バキィッ!!!
拳と手刀がぶつかり合い、衝撃波が周囲に広がる。
龍之介のナックルがクロウの腕を弾き、クロウの電撃を纏った手刀が龍之介の拳を僅かにかすめる。
——ジリッ……!!
空間が歪むほどの強烈な摩擦音。
互いに跳び退る。
同時に地を蹴り、再びぶつかり合う。
——ゴッ!! ——バシュッ!! ——ドンッ!!
鋭い拳撃と回し蹴りが交差し、衝撃が弾ける。
拳と拳、蹴りと蹴りがぶつかり合うたびに、地面が小さく揺れる。
互いに譲らない。
呼吸は荒く、汗が額を伝う。
龍之介が拳を握りしめ、クロウが静かに姿勢を低くする。
視線が交差する。
——ピクリ。
どちらが先に動くのか——
空気が張り詰め、戦場が沈黙に包まれる。
風が吹き抜け、砂塵が舞い上がる。




