雷閃、翔ける
「貴様……何が目的なんだ!」
龍之介の声が戦場に響く。
クロウは僅かに首を傾け、唇の端をわずかに歪めた。
「……お前が知る必要はない」
言葉と同時に、その姿が消える——否、閃光のような速さで駆けた。
「——ッ!!」
直後、悲鳴が上がる。
「ぎゃあっ!!」
「うわぁ!!」
ARC隊員たちが、見えざる刃に切り裂かれるように次々と倒れていく。
鮮血が舞い、地面を赤く染める。
龍之介の心臓が高鳴る。
——速い。尋常じゃない速さだ。
クロウの動きを目で追おうとするが、残像すら捉えられない。
否——目に映るよりも早く、事が起こっている。
隊員の絶叫が次々と響く。
誰も止められない、誰も抗えない。
「やめろ……!」
握った拳が震える。
「やめろおおおおお!!!」
その叫びと同時に——龍之介の視界が、藍碧の光に染まった。
龍之介の体が弾かれたように前へと飛び出す。
藍碧の瞳がクロウを捉え、一瞬の迷いもなく拳を振るった。
——スカッ
クロウは微動だにせず、最小限の動きで紙一重に避ける。
龍之介はすぐに次の打撃へと繋げた。右ストレートから左フック。流れるようなコンビネーション。しかし——
——ヒュッ、ヒュッ
クロウの体はまるで風のようにしなやかに動き、寸前で拳の軌道から消えていく。
「遅いな」
軽く吐き捨てるように言いながら、クロウの手が龍之介の死角から伸びる。鋭く振り下ろされた手刀が龍之介の肩を狙う——
「くっ!」
ギリギリでバックステップ。刃のような一撃がわずかに肩を掠める。痛みが走るが、致命傷には至らない。
——追えないわけじゃない……!
「ほう…お前、適合者だったのか」
クロウが余裕の笑みを浮かべながら腕を組む。
「なら——少し遊んでやるか」
言葉と共にクロウの姿勢が変わる。先ほどまでの柔らかな動きとは違う、研ぎ澄まされた獣のような気配。
龍之介は拳を握り直し、浅く息を吸った。
(やるしかない……!)
二人の間の空気が張り詰める。
次の瞬間——互いに、再び飛び込んだ。
クロウの手が龍之介の顔面を狙って鋭く振り下ろされる。
(見える!)
龍之介の脳内に、確かな軌道が描かれる。
それを躱すべく身を逸らした、その瞬間——
——バチッ!!
手刀の先が激しくスパークした。
「くっ!!」
突如視界が揺らぎ、反射的に後退しようとしたその刹那、肩に突き刺さる鋭い衝撃!
「ぐあぁっ!!」
クロウの手刀が龍之介の肩口へと深く突き込まれる。
次の瞬間——
——ビリビリビリビリッ!!!
全身に凄まじい電流が奔る。
「うああああああっ!!!!」
龍之介の筋肉が異常なほどに収縮し、制御不能な痙攣が身体を襲う。
喉が張り裂けるような悲鳴が響いた。
龍之介の膝が地面に落ちる。
「で…電気…!?」
痺れに満ちた肩を押さえながら、荒い息をつく。
クロウが薄く笑う。
「フフフ…どうだ?痺れるだろう?」
龍之介は歯を食いしばりながら立ち上がる。
(くそ…厄介だな……)
肩の痺れが完全には抜けていない。それでも構え直す龍之介。
「どうした?来ないならこちらから行くぞ!」
クロウの瞳が鋭く光る。
次の瞬間、再び電撃を纏う手刀が襲いかかる!
——シュッ! シュッ! シュッ!
猛スピードで繰り出される手刀の連撃。
龍之介は必死にその攻撃を躱す。
だが——
——バチッ!
「うわぁっ!!」
胸元をかすめた手刀の刃先が、わずかにスパークする。
瞬間、龍之介の身体が弾かれるように後方へ飛ばされた!
(かすっただけでこれか…電撃を喰らう前に攻撃できれば……)
龍之介は、ナックルをはめた拳を強く握りしめた。
(けど、奴の動きは速い。避けるので精一杯だ…どうする……)
クロウが薄く笑う。
「フッ、打つ手がないようだな」
次の瞬間、クロウの姿がかき消える——!
「なら…これで終わりだっ!」
凄まじい速さで飛び掛かるクロウ。
(電気…電気……そうだ!)
——ザクッ!!
鋭い手刀が龍之介の肩へと突き刺さる——はずだった。
しかし——
——バチッ……
電気が流れない。
「……なに?」
クロウの表情が、一瞬だけ凍りつく。
「……バカな……!!?」
彼の電撃は、確実に相手の神経を焼くはず。
だが、龍之介の体には——何の反応もない。
クロウが驚愕する視線の先——
龍之介の手には、自身が履いていたゴム製のブーツがあった。
「へへっ…もらったぜ…!」
絶縁体。電気を通さないゴム製のブーツが、クロウの手刀と龍之介の間に挟まっていた。
「……フッ、何が……」
クロウの言葉が終わるより早く、龍之介の拳に力が漲る。
瞳が鋭く光を放つ。
「——喰らえっ!!!」
渾身の一撃が、クロウの腹に突き刺さる——!!
「ぐっ!! うおおおぁ!!」
凄まじい衝撃。
クロウの身体が弓なりにしなり——
——ドガァァァンッ!!!!
地面を転がるように吹き飛び、そのまま後方の車両に激突する!
「ッ……!!」
鈍い金属音が響き、車のボディが歪む。
クロウは腹を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
その口元にわずかな笑みを浮かべた。
「フッ…なかなか楽しませてくれるな……」
余裕を装った言葉。しかし、確実にダメージは残っている。
(いける…!)
龍之介は確信した。ここで押し切れば——勝てる!
「うおおお!!」
龍之介が一気に攻めに転じる。
猛攻——勢いのある打撃がクロウへと襲いかかる。
しかし——
クロウも冷静だった。
絶妙なフットワークで龍之介の攻撃を受け流し、カウンターを狙う。
龍之介はそれを読んで対応し、攻防は拮抗する。
拳がぶつかり合い、足技が交差し、火花が散るような激しい戦い。
クロウの手刀が空を切る。
(今だ!)
龍之介はチャンスを逃さず、ナックルに力を込めて拳を振り上げる。
しかし——
「甘い!」
クロウがニヤリと笑った。
(フェイント——!?)
気づいた時には遅かった。クロウの手刀が龍之介の胸を斬り裂くと同時に、強烈な電撃が全身を駆け抜ける。
「ぐああっ!」
龍之介の体が弾け飛び、地面を転がる。
(くそっ……やっぱり、こいつ……強い……)
痺れる身体を無理やり起こしながら、龍之介は歯を食いしばる。
その時——
聞き慣れた声が戦場に響いた。
「龍之介!」「龍之介ちゃん!」
——ジェイクとナディアだ!
声のした方を向くと、二人がこちらへ向かって駆けてくるのが見えた。
「ジェイク!ナディア!」
「チッ……」
クロウも新たな二人の存在を確認し、舌打ちする。
ジェイクが苦笑しながら龍之介に声をかけた。
「おいおい、ボロボロじゃねぇか」
ナディアも腕を組み、わざとらしく溜息をつく。
「随分苦戦してたみたいねぇ、龍之介ちゃん?」
「うるせぇ!お前らも人のこと言えるかよ!」
いつもの調子の二人の言葉に、龍之介はわずかに口元を歪める。
肩で息をしながらも、自然と力が湧いてくるのを感じた。
(まだ、やれる!)




