表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
四・斜陽
34/48

死を告げる黒き影

 ジェイクとナディアと別れ、龍之介は綾のいる研究棟へと向かっていた。


「綾……無事でいてくれ……」


 不安を押し殺しながら走る。心臓の鼓動が、焦燥を煽るように速まっていく。


 その時、背後から低いエンジン音が迫ってきた。

 ATT-V——ARCの装甲車両が横付けされ、隊員の一人が窓から身を乗り出す。


「おい、龍之介! 乗れ!」


 迷う暇はなかった。龍之介は走りながら手をかけ、車両の後部座席へと飛び乗る。


「状況はどうなってる?」


 荒い息を整えながら尋ねると、隊員は険しい表情で答えた。


「敵の数は多くないが、手練れだ。街での騒ぎに対応するため、LUX内の隊員はほぼ出払ってる。ATDの機能も一部が使えなくなっていて、応戦が難航してるって話だ」


「研究棟は無事なのか?」


「奴ら、最初は研究棟を襲ってたらしいが、すぐに目標を本部に切り替えたようだ」


 その言葉に、龍之介の背筋が凍りつく。


「なんだと!? じゃあ研究棟の連中は……?」


 龍之介の問いに、隊員はわずかに眉を寄せながら答えた。


「分からん……ただ、研究棟の奴らも避難指示は出てたはずだ」


 その言葉に、龍之介は強く握りしめた拳をゆっくりと緩め、僅かに息を整える。


「……なら、綾も……無事、か……?」


 胸の奥にある不安を押し込めるように、自分に言い聞かせるように呟いた。


(けど……なぜ本部が狙われてる? Noctaの目的はなんなんだ……?)


 研究棟ではなく、急遽本部にターゲットを変えた敵。

 その判断の裏にある意図を考えようとするも、答えはまだ見えない。


 昼下がりの陽光がLUXの建物群を照らす中、ATT-Vは施設内の道を駆け抜け、本部へと向かっていた。


 ***

 

「本部が見えてきたぞ!」


 前席の隊員が声を上げる。


 龍之介が視線を向けると、LUX本部の前庭にある広大な駐車場が戦場と化していた。

 黒い戦闘服を纏ったNoctaの戦闘員たちが、ARCの隊員と激しく交戦している。

 銃声とエネルギー兵器の閃光が交錯し、地面に無数の焦げ跡が刻まれていた。


「あれは……本部が占拠されてるのか!?」


 龍之介が思わず身を乗り出す。


「いや、本部には頑丈な隔壁があるはずだ。あの様子だと、敵はエントランスで足止めを喰らってるんだろう」


 隣の隊員が冷静に答える。


 確かに、本部の入り口は厚い装甲シャッターによって防御されている。

 Noctaの兵士たちは正面突破を試みているようだが、突破口を開くには至っていない。

 

「なら、敵が本部に突入する前になんとかしなきゃか……」


 龍之介は歯を食いしばりながら状況を分析する。


 Noctaの兵士たちは街で暴れていた雑多な連中とは違う。統率が取れ、訓練された動きだ。

 このまま正面から突っ込めば、ひとたまりもない。

 だが、悠長に構えていれば敵は本部の隔壁を突破し、LUX本部が占拠される。


 時間はない——どうする?


 ATT-Vの中から戦場を見渡しながら、龍之介は考えを巡らせる。

 手持ちの武装だけでは戦況を覆せない。

 ならば、何か——。


 その時、視界の端に映ったのは、駐車場に停められた一台の小型トラック。


 ——あれだ!


 龍之介の脳裏に、一つの策が浮かぶ。


「あのトラックの横につけてくれ!」


 龍之介が運転席の隊員に叫ぶ。


「……? どうするつもりだ?」


「早くしろ!」


 緊迫した声に、隊員は一瞬戸惑いながらも即座に指示に従う。


「……了解!」


 ATT-Vがトラックの横に滑り込むように停車する。龍之介はすぐさま車外へ飛び出した。


「これから敵に隙を作る! その間に、他の連中と一気に攻め込め!」


 駐車場に響く龍之介の声に、隊員たちが振り向く。


「隙ったって、何をするつもりだ!?」


「いいから、他の連中に伝えてくれ!」


 龍之介の言葉に、隊員は歯を食いしばりながら頷き、交戦中の部隊のもとへと駆け出す。


 敵の猛攻の中、龍之介はエネルギーナックルを装着した拳を固く握りしめ、目の前のトラックを睨みつける。


「ふぅ…いくぞ…!」


 ひとつ息を吐き、意識を集中させる。

 全身の血流が逆流するような感覚。熱が脈打ち、体の奥から湧き上がる力が、右腕に集中していく。


 ——瞳が藍碧に輝いた。


 ナックルの表面が青白く発光し、エネルギーの余波が周囲の空気を震わせる。


「……おおおおおっ!!!」


 次の瞬間——


 龍之介の拳がトラックの側面に叩き込まれる。

 

 ——べコォォォンッ!!!!!


 鋼鉄のボディが、一瞬にして拳の形に歪む。


 叩き込まれた衝撃がフレーム全体に波紋のように広がり、車体が軋みを上げる。


「——なっ……!?」


 Noctaの戦闘員たちが、目を見開く。


 ——ゴゴゴッ!!!


 宙に浮いたトラックが回転しながら、Noctaの隊列へと一直線に飛んでいく。


「逃げろ!!!」


 誰かが叫ぶ間もなく——


 ドガァァァァァンッ!!!!


 トラックが地面に激突し、衝撃波が爆風のように駐車場を吹き抜ける。


 爆音と共に土煙が舞い上がり、Noctaの隊員たちは一斉に吹き飛ばされた。


 龍之介は、ゆっくりと拳を解く。


「……っはぁ……」


 白い息が、熱を帯びて宙に消える。


 

 土煙の向こうで、敵の隊列は完全に乱れていた。


「今だ!制圧しろ!!」


 ARC隊員の声が戦場に響く。

 龍之介の奇策により、拮抗していた戦況が一気に動いた。


「押せぇぇ!!」


 ARC隊員たちが一斉に銃撃を開始する。

 パルスライフルが唸り、次々とNoctaの戦闘員が崩れ落ちた。

 劣勢を悟った敵の隊列が乱れ、混乱が広がっていく。


「よし!これで——」


 勝利を確信しかけたその時——。


 ——ゾクリ。


 龍之介の背筋に、鋭い寒気が走った。


 次の瞬間——


「ぐああっ!!」


 悲鳴が響く。


 それまで鳴り響いていた銃声が、一瞬だけ止んだ。

 まるで、何か得体の知れないものが戦場に降り立ったかのように。


 龍之介の視線が、自然とそこへ引き寄せられる。


 ——視界の先。


 隊員の胸を貫いたまま、静かに佇む男の姿があった。


 黒い戦闘服、紫がかった黒髪、病的なほど青白い肌。

 ——そして、藍碧に輝く瞳。


「クロウ……!」


 隊員の体がズルリと崩れ落ちる。

 クロウは血に濡れた手を払うと、無造作に指を鳴らした。


「……楽しいショーだったぞ」


 その声は静かで、だが研ぎ澄まされた刃のような冷たさを孕んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ