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LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
四・斜陽
33/48

蝶のように舞い

 茂みの奥、レイラは耳元の通信デバイスを指で押さえながら、眉をひそめた。


(おかしい……何かが違う。)


 戦況を見極めながら指示を出してきた彼女だったが、どうにも違和感が拭えなかった。


「上から来る!躱して反撃して!」


 カインが瞬時に動き、彼女の指示通りに攻撃を回避する。だが——


「……っ!?」


 ナディアが同時に動き、完全にカインの動きを読んだかのように蹴りを叩き込んだ。


 レイラの目が見開かれる。


(なぜ!? 今のは、あの女の動きに合わせて最適なタイミングで——。)


 予測が、狂っている。


 彼女はずっと冷静に戦局を計算し、先を読んできた。だが、今起きた出来事は——


(まるで未来でも見えているような……)


 疑念が胸をざわつかせる。


 ナディアの動きは、ただの経験や勘では説明がつかない。何かが起きている——確実に。


 レイラは深く息を吸い、冷静に戦場を俯瞰する。


(あの女の動き……やはり異常だ。)


 戦場の経験と勘だけで、ここまで完璧に対処できるものか? 予測——いや、それ以上の何かがある。


(……何かがおかしい。)


 違和感が脳裏に焼き付く。その時——


 視界の端に、微かに動く影を捉えた。


 レイラは反射的にそちらに目を向ける。


(……誰かいる。)


 建物の影、僅かに覗く二つの人影。


 息を殺しながら戦場を見つめる女が二人——。


 ——そのうちの一人の瞳が、藍碧に光った。


「……ッ!!」


 心臓が跳ねる。


(あれだ……! あの女は適合者!)


 戦闘には加わらず、ただ戦況を見つめている。まるで——


(予測か、あるいは先読み……!)


 ならば、ナディアの動きの異常さにも説明がつく。あの適合者が、戦闘の流れを“読んで”指示を送っている——。


(私と同じか、それ以上の何かを……。)


 ***


『右!』


 綾の声が届くと同時に、ナディアの体が動いた。


 カインの右側へと回り込む。


「……ッ!?」


 目の前に突然現れたナディアに、カインの動きが一瞬止まる。


 ——ザシュッ!!


 ナイフの刃が、カインの額を浅く切り裂いた。


「ぐあっ!!」


 カインが顔を歪める。


(すごい……!)


 ナディアの胸が高鳴る。


 言われるままに動くだけで、敵の先を取れる。


 それは単なる予測ではない。もはや、“未来”そのものをなぞっているかのようだった。


 ——チッ。


 カインが低く舌打ちする。


 ナディアはすぐに追撃に移ろうとするが、HUD越しの綾の息が荒い。


「綾ちゃん! 大丈夫!?」


『……大丈夫……もう少し……』


 苦しげな声。


(未来視の使い過ぎ……!?)


 ナディアが綾に気を向けた、そのとき——


 カインが耳元のデバイスに手をやる。

 瞳が、一瞬鋭く光る。


 次の瞬間——


 迷いなく、一直線に駆け出した。


「——ッ!!」


 ナディアの表情が凍りつく。


(まずい! あの先には——!!)


 カインの声が響き渡る。


「お前かあああああ!!!!」


 ナディアの体が本能的に動いた。


 カインを追いかけながら、素早く周囲を確認する。


(何か、止める手段——!)


 HUDが素早く情報を拾い上げる。


 カインの頭上、外壁塗り替え用のゴンドラがある。その上には、ペンキ缶。


(……これよ!)


 ナディアの指が引き金を引く。


 ——シュンッ!!


 ワイヤーが一直線に放たれ、ゴンドラ上のペンキ缶に絡みつく。


 瞬時にワイヤーを引き絞ると——


 ——ドンッ!!


 重力に引かれたペンキ缶がカインの目前に落下。


「ッ!!」


 飛び散る塗料に反射的に足を止めるカイン。


(今よ!)


 ナディアが背後から飛び込み、手にした二本のパルスナイフを——


 ——ザクッ!!


 カインの背中に突き立てた。


「ぐっ……!」


 カインの肩がわずかに震える。


 ナディアの唇が歪む。


「お仕置きの時間よ♡」


 最大出力のパルスエネルギーを流し込む。


「ぐあああああああ!!」


 雷光が弾け、カインの体が震え、叫びながらその場に崩れ落ちる——。


 ***

 

「くそっ!カインの奴、ヘマしたわね……!」


 草むらの陰から戦況を見ていたレイラが、小さく舌打ちしながら後ずさる。


 その瞬間——


「あらぁ、あなたがあのぼくちゃんに指示してたのね♡」


 背後から甘く響く声。


 ——ゾクリ。


 背中を冷たい感覚が這い上がる。


 レイラが反射的に振り向く。


 そこには、薄く微笑むナディアの姿があった。


「くっ……!」


 咄嗟に腰のホルスターに手を伸ばし、拳銃を構える。


 しかし——


 ——シュンッ!


 ナディアのワイヤーが疾風のように伸び、レイラの手首を絡め取る。


「っ……!」


 強く締め付けられ、指先から力が抜ける。


 カチャッ——!


 拳銃が地面に転がった。


 ナディアは軽く肩をすくめ、笑みを深める。


「ふふっ、どうやらあなたの能力は戦闘向きではないみたいねぇ?」


 レイラが抵抗しようと体をひねるが——


 ——ドスッ!!


 ナイフの柄が、容赦なくみぞおちに突き刺さる。


「ぐっ……!」


 息が詰まり、レイラの膝が崩れる。


 視界が揺れ、意識が薄れていく。


「少しおやすみしててね♡」


 ナディアの囁きが、耳元で微かに響いた——。


 ***


 カインとレイラをしっかりと縛り上げたナディアは、ふぅと一息ついた。


 それから、ちらりとHUDを確認しながら綾の方へ目を向ける。


 綾の肩がわずかに上下していた。呼吸が浅い。


「綾ちゃん、大丈夫?」


「うん、大丈夫……龍ちゃんは?」


 その言葉に、ナディアの意識が切り替わる。


(あっ、そういえば男の子たちは……)


 HUDを操作し、ジェイクと龍之介の位置を確認する。


 少し離れたところにジェイクのマーカーが表示される…が、龍之介のマーカーが見当たらない。


(どういう事……?)


 ナディアは眉をひそめながら素早くHUDにアクセスし、ジェイクへと通信を入れる。


 ピッ。


 HUDの画面に、ジェイクの顔がポップアップする。


「ジェイク、状況は?」


『おお、ナディア!無事だったか!』


「龍之介ちゃんのマーカーが見当たらないわ」


 その言葉に、隣の綾が不安げにナディアを見つめる。


『ああ……さっきまで確認できてたんだが、突然消えちまった。本部近くだ。』


 ナディアの脳裏に不安がよぎる。


(突然消えた……? 何があったの……?)


「分かったわ。私も向かう。そっちで落ち合いましょう」


 ジェイクが短く頷き、通信が切れる。

 

 その言葉に、綾が勢いよく顔を上げる。


「私も……行く!」


 舞がすかさず制止する。


「綾!そんな調子で行っても何もできないわよ!」


「でも……行かないと……そんな気がするの」


 綾の瞳には、迷いのない光が宿っていた。


 舞が深く息をつき、諦めたように肩を落とす。


「はぁ……分かったわ。でも絶対に近くには行かないこと。さっきだって危なかったんだから」


「分かりました」


 綾が小さく頷く。


 ナディアがくるりと踵を返し、いつもの調子で軽やかに笑った。


「さ、じゃあ行きましょ♡」


 3人は龍之介の元へと走り出した。

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