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LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
四・斜陽
32/48

未知なるがゆえに

「くそっ! 何なんだ、あの女……!!」


 カインは焦っていた。


 目の前を、縦横無尽に飛び回る影。


 ——ナディア。


 速さには、自信があった。

 生まれつきの体の弱さを克服するため、訓練を積み、鍛え抜いた。


 誰よりも素早く、誰よりも翻弄する。

 それが自分の戦闘スタイルのはずだった。


 だが——


「……追いつけねぇ!?」


 ナディアは、視界の端を掠めるように跳び、弾けるように消える。

 その動きが、まるで重力さえ無視しているかのように感じるほど、掴めない。


「レイラさえいれば……っ!!」


 苛立ちが込み上げる。

 

 ——その瞬間。


「!!」


 ——背後に気配。


 反射的に身を翻す。


 次の瞬間——


 スパッ!


 ナディアの持つナイフが、カインの肩を掠める。


「ぐあっ!!」


 ビリビリッ——!!


 肩周りに電流のような衝撃が走る。


「……ちくしょう!! スタンナイフか!?」


 舌打ちしながら、感覚の鈍った肩を押さえる。


(まずい……このままじゃ、ジリ貧だ……!!)


 荒い息を吐きながら、再びナディアを睨みつけた。


「さっきから逃げてばかりじゃないの……大丈夫? ぼくちゃん♡」


 ナディアの声が、軽やかに響く。


 ——挑発。


 カインは舌打ちし、苛立ちを隠さずにナディアを睨みつけた。


「ハンッ! ちょっと様子を見てやってるだけだ……すぐに跪かせて、命乞いさせてやるさ」


 ナディアは、小さく肩をすくめた。


「ふぅん……」


 次の瞬間——


 ナディアの姿が消えた。


「……っ!?」


 その時だった。


『上よ。』


 耳元の通信機に、静かな声が響く。


 (レイラ…!)

 

 反射的に上を向く。

 同時に、飛び退く。


 ——スパッ!!


 さっきまで立っていた場所を、ナディアのナイフが切り裂いた。


「……っ、あぶねぇ」


 冷や汗が背を伝う。


「あら……まんざら強がりでもなかったみたいね?」


 ナディアが、楽しげに微笑む。


「おせぇぞレイラ!」

 

『遅れて悪かったわね。』


 さして悪びれた様子も無くレイラが言う。

 

「クク…ここから、反撃開始だぜ…?」


 笑うカインの顔から焦りが消えた。

 


 カインの背後で、通信機から再び静かな声が響く。


『1.2秒後、左から来る。バックステップ、そのままカウンターを狙って。』


 レイラの冷静な指示。


 カインの目が鋭く光る。


(左……!)


 即座に足を引き、バックステップ。


 ——ヒュンッ!!


 ナディアの刃が空を切る。


 そして——


「喰らえ!!」


 カインの指先が、勢いそのままにナディアの横腹を狙う。


 ——シュッ!!


 鋭い一撃が、ナディアの制服を掠める。


 その瞬間——


 ジリッ……!!


「熱っ!!」


 反射的に、ナディアが飛び退く。


 次の瞬間、彼女の制服から仄かな煙が上がる。


「……やだっ、燃えてる!?」


 驚きながら、素早く手で払う。


 カインはニヤリと笑い、拳を鳴らした。


「ハッ! 驚いたか? 俺は触れたものを燃焼させられるのさ!」


 誇るように、自分の指先を見せつける。

 そこには、まだ微かに赤熱した残滓が揺れていた。


「クク……今度は、その綺麗な髪でも燃やしてやろうか?」


 ナディアは、少しだけ目を細めた。


「……へぇ、面白いじゃない」


 言葉と同時にナディアの姿が消える。

 

『次、右後方からくる。回避は不要、前進してナイフの間合いを潰せ。』


 レイラの冷静な声が通信機に響く。


 カインは即座に指示を実行し、躊躇なく前進する。


 ——ナディアの刃が、僅かに空を裂く。


 

『今、左足に重心が乗ってる。踏み込みが甘くなる、右に回り込め。』


 レイラの指示通り、カインは鋭く右へ回り込む。

 ナディアの軌道がズレる。


 

『この攻撃は囮。1.5秒後に上からくる、本命は頭部への一撃。』


 カインはナディアの動きを読み切ったかのように、あえてその場に踏みとどまる。


 

『回避より迎撃、ナイフが振り切る前に腕を掴め。』


 ナディアの刃が振り下ろされる——その瞬間、カインの腕が素早く動く。


 ナディアの軌道を読んだカインの手が、彼女の腕を掴む。


「いけるぞ……!」


 手応えを感じたカインの顔が、歓喜に歪む。


『左肘、軽く開いた。そこに飛び込めばカウンターの隙ができる。』


 レイラの声が冷静に響く。

 その瞬間、カインは全身のバネを使い、躊躇なく間合いへ飛び込んだ。


 ナディアの動きが、一瞬遅れる。


 カインの手刀が、鋭く薙いだ。


 ジリッ——!!


 またも、ナディアの制服が焦げる。


 見れば、彼女の制服は既にあちこちが焼け焦げ、裂け、下の肌が露わになっていた。


 カインの口元が吊り上がる。


「ククク……あんた、いい女だな」


 彼はナディアの肌を舐めるように眺めながら、ニヤリと嗤う。


「燃えてく姿が、たまらねぇよ」


 その言葉に、ナディアは静かに笑った。


「あら、ありがと。でも残念……」


 彼女は刃を軽く回しながら、唇の端を持ち上げる。


「私、あなたみたいなもやしっ子は好みじゃないのよね♡」


 挑発するような声色。

 だが、その瞳は微かな焦りの色を浮かべていた。


 ***

 

(あの子の動き、急に変わった……。まるで私の動きを先読みしてるようだわ。)


 ナディアは刃を軽く回しながら、目の前のカインを見据えた。

 これまでの彼の動きとは明らかに違う。

 感覚ではなく、確信を持って攻撃を仕掛けてきている。


「どうしようかしら……」


 その瞬間——


 ピッ——!


 HUDにポップアップが表示される。


 ナディアの視界に、見慣れた顔が映った。


『ナディアさん!』


 ——綾!?


「綾ちゃん!?」


 一瞬、戦闘中であることを忘れそうになる。

 なぜ彼女がここに?


「なんであなたが……?」


 綾の必死な顔が映る。

 背景には、見覚えのある建物——LUX研究棟の一角。


『研究棟がNoctaに襲われて、舞先生と逃げてたら——ナディアさんが戦ってるのが見えて……。今、舞先生のATDを借りて通信しているの!』


「何ですって!?」


 ナディアの目が鋭くなる。

 研究棟が襲撃されていた……?


 彼女が視線を巡らせると、建物の影に小さく身を潜める綾と舞の姿が見えた。


「そんなとこにいたら危ないわ! 早く逃げなさい!」


 思わず声を荒げる。

 だが、綾の表情には迷いがなかった。


『ううん、ナディアさん……私も戦う!』


 ナディアは一瞬言葉を失った。


 だが、綾の瞳には強い決意の光が宿っていた。


「でも、戦うって言っても……どうやって?」


 ナディアは戸惑いを隠せなかった。


 綾は戦闘経験もない。

 それに、彼女は一般人だ。

 戦場にいるべき人間じゃない。


『……私には見えるから。』

『数秒先なら……ナディアさんが動く前に、相手の反応も分かるかもしれない。』


 ナディアの表情が一瞬だけ硬直する。


 ——未来視。


 綾の力があれば、彼の動きの更に先をいけるかもしれない——


 ナディアは、ふっと口元を緩めた。


「……分かったわ」


 そして、悪戯っぽく微笑む。


「頼りにするわよ、綾ちゃん♡」


 綾も、強く頷いた。


『はい!』


 ナディアは息を整え、肩を軽く回しながら不敵に笑う。


「信じてるわよ…」


 

 綾が、そっと胸元に手を伸ばす。

 指先が触れたのは、小さな銀の鈴。


(お願い……ナディアさんを守って。)


 鈴をぎゅっと握りしめ、そっと目を閉じる。


 ——視界がぐらりと揺れる。

 音が遠ざかり、世界が水の中に沈むような静寂に包まれる。

 色彩がぼやけ、時間の流れが歪む感覚。


 未来が、広がる。



 ナディアが飛び込むが、カインが間合いを詰め、右腕を掴む。

 瞬間、ナディアの袖が炎を纏い、彼女は思わず手を離す。

 その隙にカインの膝蹴りが腹にめり込む——。


(駄目……!この未来じゃ、ナディアさんが負ける!)



 ナディアがワイヤーを絡め、カインの動きを封じる。

 だが、火の力でワイヤーごと燃やされ、すぐに解除される。

 さらに、ワイヤーの焼けた切れ端が跳ね、ナディアの頬を裂く。


(これも駄目……ワイヤーだけじゃ止めきれない……!)



 カインが地を蹴り、ナディアの死角へと回り込む。

 ワイヤーが絡め取ろうとするが、ギリギリの距離で躱される。

 ナディアが反撃に転じた瞬間、背後から灼熱の手が伸びる——。


(このままだと、ナディアさんは肩を掴まれる!)


 綾の胸が締めつけられる。


 どれも危険な未来ばかり。

 でも——


(この中で、最善なのは……)


 ——綾は意識の中で、一つの道を選んだ。


『ナディアさん、右へ!飛んで!』


「ちょっと焦らしすぎよ、綾ちゃん♡」


 言葉と同時に、ナディアは反射的に右へ跳ぶ。


 ——バッ!!


 カインの指先が、ほんのわずかにナディアの肩を掠める。


 ジリッ……!!


 制服の生地が焦げ、煙を上げる。


(ギリギリ……でも避けられた!)


「くそっ!なんで読まれた!?」


 カインが舌打ちし、距離を取る。


 ナディアは軽くウィンクしながら、ナイフをくるりと回した。


「さて、ゲームの難易度を上げましょうか♡」


 通信越しに綾の息が上がる。


(まだいける……!もう少し先を見せて……!)


 再び、未来視が発動する——。

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