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LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
四・斜陽
31/48

腹にイチモツ

 しばらく走った後、ジェイクは足を止め、ゆっくりと肩を回す。


 LUX中央、噴水広場。


 周囲は静まり返り、わずかに風が水面を揺らしていた。


「……この辺でいいか」


 呟いた瞬間——


「ふん、逃げるのはもう終わりか?」


 背後から、地を踏みしめる重い足音が響く。


 振り返ると、そこには巨漢——コールが立っていた。


 堂々とした佇まい。

 まるで逃げる必要などないとでも言いたげな、静かな闘志を滲ませた表情。


 だが、ジェイクはただニヤリと笑う。


「逃げる……ねぇ?」


 その瞬間——


 ——ドンッ!!!!


 轟音。

 パルスマグナムが唸りを上げ、高圧のパルスショットが放たれる。


「……ぐっ!!」


 命中。

 コールの肩に、炸裂したパルスエネルギーが直撃する。

 一瞬、空気が震え、爆ぜるような閃光が広がった。


 コールの巨体がわずかに揺らぐ。

 

 肩口の布が焼け焦げ、蒸気が微かに立ち昇るが——皮膚は裂けてもなお動きを止めない。


 ——ズッ!!


 コールが地を蹴る。


 その膂力のままに、獣のような勢いで飛び込んでくる。


 だが——


 ジェイクは、避けない。


 真正面から、両腕を広げるようにコールの突進を受け止めた。


 ズガァッ!!!


 衝撃が地面を伝い、噴水の水面が爆発したかのように波打つ。

 石畳が軋み、細かなヒビが広がる。


 コールの筋肉が膨れ上がり、圧倒的な体重と筋力でジェイクを押し潰そうとする。

 その腕には、鉄の塊のような重みが乗っていた。


 ジェイクがニヤリと笑う。

 

「…余裕だな……だが」


 コールの目が鋭く細められる。

 その瞳が、藍碧に輝いた。


 ——ズシンッ。


 途端に、コールの組んだ腕が異様な重さを帯びる。


 「……っ!」


 ジェイクの体が、まるで鉄の塊に締め上げられたかのように動きを封じられた。


 次の瞬間——


 コールの腕が弾けるように動く。

 ジェイクの巨体を宙へと放り投げた。


「ぐっ……!!」


 ——ドガァンッ!!!!


 背中から噴水の石造りに叩きつけられる。

 水が弾け、衝撃で周囲に飛び散る。


「ぐはっ……!」


 激しい痛みが背骨を駆け抜ける。

 肺から空気が抜け、呼吸が一瞬詰まる。


 しかし——


 ジェイクは呻きながらも、すぐに立ち上がった。


 だが、その動きを見計らったかのように、コールが再び飛び込んでくる。


「……っ!」


 ジェイクはすんでのところで身をひねり、拳をかわした。


 その瞬間——


 ——ドゴォン!!!!


 噴水が、粉砕される。


 コールの拳が直撃した噴水の石造りは粉塵と化し、砕け散った。

 その余波だけで、ジェイクの体は吹き飛ばされる。


「……っ、チッ!!」


 地面を転がりながら体勢を立て直し、ジェイクは立ち上がる。


「とんでもねぇ馬鹿力だな……」


 乱れたオールバックをかきあげ、額の水を拭う。


 そのまま、ジェイクが拳を構えた、その刹那——


「……っ!!」


 コールが、猛烈な勢いで距離を詰めてくる。


 その速さに、ジェイクの眉が一瞬動く。


 (速ぇ……!)


 コールの巨体からは想像もできない圧倒的な加速。

 だが——


「……甘ぇな!!」


 ジェイクはその突進を冷静に見極め、身をひねる。


 コールの拳がわずかに外れる——その瞬間、ジェイクの膝がコールの側頭部を捕えた。


 ——ガツッ!!!


 重い衝撃音が鳴り、コールの首がわずかに揺らぐ。


 しかし、それも一瞬だった。


「……っ!!」


 体を翻し、すぐさま反撃に転じるコール。


 大振りの拳が、唸りを上げてジェイクの顔面を狙う。


「……っと」


 一歩、後ろに重心をずらし、ジェイクはその拳をギリギリでかわす。


 同時に——


「お返しだ!!」


 ジェイクの拳が、コールの腹部に鋭く差し込まれる。


 ——ゴムタイヤを殴ったような感触。


「……っ!? こりゃ……タフだな……!!」


 想像以上の硬さと反発力。

 まるで、分厚い防弾装甲を相手にしているような打撃感覚。


 ジェイクはすぐに踏み込むのをやめ、距離を取る。


「速ぇ上にタフか……ちと骨が折れそうだな」


 肩を回しながら、コールを睨む。


 コールは鼻を鳴らし、静かに答えた。


「お前とは経験が違う」


「……あんた、軍人か?」


 ジェイクが探るように問いかける。


 コールは一瞬沈黙し——


「以前はな」


 短く答える。


 ジェイクは口の端を吊り上げ、オールバックをかきあげた。


「なるほどね……通りでカタブツなわけだ」


 静かな睨み合い——


 今度は——


 ジェイクが仕掛けた。


 ——ドンッ!!!!


 パルスマグナムの轟音が噴水広場に響く。

 同時に、ジェイクが飛び込む。


 コールは横に跳び、弾丸を回避。


 だが——


 その軌道を読んでいたジェイクが、右ストレートを放つ。


 コールはその一撃を僅かに後ろへ反らし、ギリギリでかわす。


 ストレートの勢いをそのまま利用し——


「……っと!!」


 鋭い回し蹴り。


 コールは即座に腕を上げてガード。


 ——バキッ!!!


 衝撃で広場の地面が微かに振動する。

 コールの巨体が僅かに揺れる。


 その隙を——


 ジェイクは見逃さなかった。


 至近距離。

 回避不能。


 パルスマグナム、トリガーを引く。


 ——ドンッッッ!!!!


 閃光とともに、コールの胸に直撃。


「ぐっ……!!」


 コールの巨体が弾かれるように吹っ飛ぶ。


 ——ドシャッ!!


 重い音を立てて地面に倒れ込む。


 ジェイクは拳を振り解き、息を整えながら睨みつけた。


「あの距離でも、立つのか……」


 目の前の巨漢がゆっくりと起き上がる。


 パルスマグナムの威力は十分に伝わったはず——


 身構えようとするが、微かに足元が揺れる。


「くっ…貴様…一体何者だ……」

 

 だが、その表情には、まだ確かな闘争心があった。

 

 確実にダメージは与えている。


 ジェイクはニヤリと笑い、再び拳を構える。


「……効いてないわけじゃねぇ、か」


 ——ピッ!


 唐突にHUDに画像がポップアップする。


 ジェイクの視界に映し出されたのは——


 クロウと対峙する龍之介。


 その顔には、明らかに余裕がなかった。


「……龍之介っ!!」


 ジェイクが低く唸るように叫ぶ。


 画面越しでも分かる、切迫した表情。

 間違いなく、追い詰められている。


「クソ……のんびりやってる場合じゃねぇか……」


「ふん、考え事か?」


 低く、静かな声。

 しかし、その奥に潜むのは、戦士としての獰猛な闘志。


 ジェイクは、苦笑しながら目を細める。


「……仕方ねぇ」


 何かを決めた表情で、コールを真っ直ぐに睨む。


「おい、デカブツ……次で決めるぞ」


 挑発するように言い放つ。


 コールの瞳が、さらに鋭く光る。


「貴様……舐めるなよ!!」


 次の瞬間——


 ——ズッッッ!!!!


 コールの筋肉が膨れ上がり、爆発的な加速でジェイクへと飛び込んできた。


(——なっ!!)


 先ほどまでの比ではない。


 そのスピードに乗せた、破壊の拳。


 ——ドゴォォン!!!!


 ジェイクの腹部に、コールの拳が突き刺さる。


「ぐはぁっ!!」


 轟く衝撃。


 噴水広場の石畳がひび割れ、ジェイクの体が仰け反る。


 だが——


 ジェイクの表情が、苦痛ではなく笑みに変わった。


「終わりだ」


 視線を落としたコールの目に映るのは——


 ——みぞおちに突きつけられたパルスマグナム。


「——ッ!?」


 ——ドンッ!!!!!!


 凄まじい轟音と共に空気が爆ぜる。


 衝撃波が広場全体に炸裂する。


 コールの身体が弓なりにしなり、吹き飛んだ。


 ジェイクの零距離カウンター・パルスマグナム。


 コール自身の突進速度を利用し、その勢いごと全身に叩き込んだ一撃。


 その巨体が、空中で激しく回転しながら噴水跡の瓦礫へと激突する——。

 

 ジェイクはゆっくりと息を吐き、コールの倒れた方へ視線を向ける。


 瓦礫の山と化した噴水跡——その中に埋もれるように、コールは微動だにしない。

 わずかに胸が上下するが、それ以外の反応はない。意識は完全に途切れている。


「……流石にもう起き上がれねぇだろ」


 ジェイクは、口元を歪めながら呟いた。


 しかし、次の瞬間——


「くっ……!」


 腹の奥から鈍い痛みが広がり、思わず足を止める。


 息を吸い込む——瞬間、激痛が走った。


「肋骨、何本かイッてるか……」


 痛みに顔をしかめながら、ゆっくりと身体を起こす。

 脇腹を押さえながら、少しずつ呼吸を整える。


「肉を切らせて……ってな好みじゃねぇんだがな……」


 自嘲気味に笑いながら、HUDを起動する。


 龍之介の位置を確認——まだ戦闘中。

 そして、ナディアの反応も確認できる。


「ま、あいつは大丈夫だろ……」


 痛みをこらえながら、一歩踏み出す。


「龍之介、すぐ行くからな……」


 腹を庇いながら、ジェイクはLUXの奥へと走り出した。

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