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LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
四・斜陽
29/48

虚いのリング

 ——爆発から数分後。


 龍之介はARCの他の隊員と共に、ATT-Vに乗り込み、街へと急行していた。


 エンジンの低い唸りが車内を震わせる。

 外の景色が猛スピードで流れていく中、龍之介はHUDに映し出された映像に目を奪われていた。


 ——銃を構え、民間人に向けて引き金を引くNoctaの戦闘員たち。


「……一体どうなってんだ……」


 なぜ彼らが街の人間を襲っているのか——そして、なぜ武装しているのか。


「なんで奴らが銃なんて持ってんだ……」


 龍之介の拳が無意識に強く握られる。


 はやる気持ちと、目に映る光景への不安が胸を締め付ける。

 心臓が爆発しそうなほどに鼓動するのを感じながら、龍之介の脳裏には熊さんやおかみさんの顔が浮かんだ。


(……熊乃家は? おかみさんは!? 無事なのか!?)


「くそっ!!」


 黒煙が次第に濃くなり、炎が立ち昇る建物が視界に入り始める。

 そして、その手前でジェイクとナディアが前線を張っているのが目に映った。


「あそこだ!」


 龍之介は運転している隊員に指示を出す。


「全速で行け!」


 エンジンがさらに唸りを上げ、ATT-Vが加速する。


 前方の戦線へ猛スピードで突っ込み、タイヤがスリップするように横滑りしながら道を塞ぐ。


 ——急停止。


 ドンッ!!


 車体が僅かに揺れると同時に、後部ドアが勢いよく開く。


「行くぞ!!」


 龍之介が先頭を切って飛び出し、続けて他の隊員たちも駆け出した。


 Noctaの戦闘員たちが、彼らに気付き銃口を向ける。


 龍之介がジェイク達が身を隠している車の影に滑り込む。

 

「おせぇぞ、龍之介!!」


 ジェイクが怒鳴りながら、撃ち合いの最中に龍之介を振り返る。


「どうなってる!?」


 弾丸がアスファルトを弾き、銃声が耳をつんざく中——

 ナディアが冷静な声で分析を口にした。


「正直よく分からない状況ね」


 彼女は俊敏な動きで銃撃を避けながら、観察を続ける。


「彼ら、全く訓練を受けている様子がないの」


 龍之介が改めて敵を注視する。

 確かに、動きがバラバラだ。

 統率もなく、銃口の向きもデタラメ。


 ジェイクが、パルスマグナムを撃ち込みながら叫ぶ。


「ああ、銃は下手くそでどこ狙ってんのかわかんねぇし、統率も全くとれてねぇ」


 ナディアが鋭く続ける。


「ただめちゃくちゃに暴れているだけに見えるのよ……」


 確かに、彼らはただ恐怖と混乱の中で銃を振り回し、破壊衝動に駆られているようだった。


 混乱の渦中——

 突然、一人の暴徒が血走った目で空に向かって叫んだ。


「アルカディアを潰せ!!」


 その叫びに呼応するように、周囲の連中が次々に声を上げる。


「アルカディアは悪だ!!」


「ルミナイトを解放しろ!!」


「我々は解放せし者!!」


 そして——


「Noctaだ!!」


 Nocta——!


 龍之介の胸に電流が走る。


 やはりNoctaか。

 しかし——この声に、何かが足りない。


 強い意志も、確固たる信念も感じられない。


 これはまるで、何かに取り憑かれたような、暴走した理念に陶酔しきった狂信者の叫びだった。


(……こいつらは、本当に”戦士”なのか?)


 龍之介の中で、疑念がさらに膨らんでいく——。


 暴徒の叫びを受けながらも、龍之介のHUDが微かなルミナイト反応を捉えた。


「……ん?」


 反射的に視線を走らせる。


 Noctaの暴徒たちの奥——さらにその向こう。

 煙の向こうに、細身のシルエットが浮かび上がる。


 長身の女。

 鋭い眼光。

 まるで獲物を見据える猛禽のような視線。


 あの女だ——!


 龍之介の脳裏に、研究棟襲撃の夜の記憶が蘇る。


「ジェイク!」


「ああ、見えてる」


 ジェイクもすでに、彼女の存在を確認していた。

 隣でナディアが目を細める。


「あの女が例の適合者?」


「ああ、デカブツと一緒にいた片割れだ」


「ってことは……クロウも……?」


 龍之介が言いかけた、その時——


 ふと脳裏に舞の言葉がよぎる。


『相手の仕掛けが見つかるのが早すぎる……』


 ——違和感。


 まるで最初から”見つかること”を前提に仕掛けられたかのようなバックドア。


 その考えが繋がった瞬間——龍之介の全身に戦慄が走った。


「まずいっ!」


 龍之介は即座にジェイクとナディアに向け、怒鳴るように伝える。


「こっちは囮だ! LUXに戻るぞ!!」


 ジェイクが一瞬目を見開き、ナディアも驚いたように眉を上げる。


「……なるほどな。そういうことか」


 ジェイクが舌打ちをし、パルスマグナムをホルスターに戻す。


「畜生……クソが。やっぱりそういう手かよ」


 ナディアもワイヤーを巻き戻しながら、静かに頷いた。


「つまり、本命はLUXってわけね」


 龍之介の拳が自然と強く握り締められる。


(奴らの目的は、最初からここじゃない……!)


「——急げ!!」


 龍之介の叫びと同時に、3人はATT-Vに飛び乗った。


 ナディアが素早くHUDを操作し、本部への通信を試みる。


「こちらナディア、聞こえる!? 至急応答して!!」


 ——ERROR: SIGNAL JAMMED


「……おかしいわ、本部と繋がらない」


 ナディアが眉をひそめながら、再度通信を試みる。


「ちょっと待って、LUXのモニター映像を確認するわ」


 彼女が端末を操作すると、HUDにLUXの監視カメラのフィードが表示され——


 ——ザーッ!!


 突然、ノイズが走った。


 画面が一瞬乱れ、途切れ途切れに映像が映る。


 ——銃撃戦——

 ——倒れるARC隊員——

 ——逃げ惑う研究者達——


 ナディアが息を呑む。


「これ……LUX、もう襲撃されてる……!」


 ジェイクが舌打ちしながら低く唸る。


「くそっ……まさか手遅れじゃねぇだろうな……」


 龍之介の胸の奥が急激に冷たくなる。


 ——LUXには、綾がいる。


(くそっ……無理にでも休ませればよかった……!)


「いそげえええええ!!!」


 龍之介の怒声が響き渡る。


 アクセルを踏む足に、容赦なく力が掛かる。


 ATT-Vが悲鳴を上げるように加速し、LUXへと疾走していった——。


 そのHUDには、「通信エラー - SIGNAL JAMMED」の赤い警告が、未だ点滅し続けていた。

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