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LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
四・斜陽
27/48

藤堂の誤算

 藤堂に続いて外へ出ると、そこには屋外に設置された簡易的な訓練設備があった。

 中央には標的用の射撃レンジが設けられ、奥の壁際には衝撃吸収材で補強された訓練用の打撃パネルが並んでいた。

 その隣には檻のような大きな籠の中に複数のダミーが設置された設備がある。


 藤堂は無言のまま端末を操作し、レンジ内のターゲットを起動させる。

 人型のターゲットが一定間隔で前後に動き出し、試射の準備が整ったことを示す。


「さて、まずはパルスマグナムの試射からだ」


 藤堂がそう言うや否や——


「待ってました!」


 ジェイクが素早くパルスマグナムを抜き、ターゲットに向かって"片手で"構えた。

 その動作は迷いなく、まるでずっと前から使い慣れていたかのように自然だった。


 藤堂が眉をひそめる。


「……おい、片手じゃ腕がふっとぶ——」


 ——ドンッ!!


 藤堂の制止が終わる前に、凄まじい爆音が辺りに響き渡った。

 パルスマグナムが火を吹き、目の前のターゲットに命中する。


 ゴォンッ!!!


 次の瞬間、ターゲットが後方の防弾壁まで吹き飛び、激しく衝突した。


 ジェイクはマグナムの反動で腕をわずかに揺らしながらも、満足げにニヤリと笑う。


「……ははっ、こいつはいいな」


 (信じられん…普通の人間なら身体ごと吹っ飛ぶような衝撃のはずだぞ…)

 

 藤堂が呆れたようにため息をつく。


「……言っただろう。至近距離なら成人男性を壁まで吹っ飛ばす威力があると」


 ターゲットが傾いたまま、警告音を鳴らしながら停止する。


 ジェイクは満足げに銃を回し、龍之介の肩を軽く叩いた。


「さて、お次はお前の番だぜ、龍之介」


 龍之介は拳を開閉しながら、ナックルの感触を確かめる。

 手のひらの内側で微細なパルスが振動し、指先にじんわりとした熱が伝わる。


(……なるほど、エネルギーが拳に同調するのか。)


 藤堂が端末を操作し、衝撃吸収材を内蔵した打撃パネルを作動させる。


「このパネルは、衝撃の強さを数値化できる。エネルギーナックルの性能を最大限引き出せるか、試してみろ」


 龍之介は静かに息を吐き、拳を構えた。


 拳を握りしめる。


 その瞬間——


 体の奥から熱が湧き上がる。

 まるで身体中の血が沸騰し、燃え滾るような感覚が広がっていく。

 筋繊維の一本一本が熱を帯び、細胞が覚醒していくのがわかる。


 全身を駆け巡る力が、龍之介の拳に一点集中する。


 ——瞳が藍碧に輝いた。


 光を宿した龍之介の視界が研ぎ澄まされる。

 目の前のターゲットが、まるでスローモーションのように映る。


(——いくぞ。)


 一歩、足を踏み込む。

 地面が僅かに沈み込み、全身の力が拳へと集約される。


「はああああっ!!!」


 ドゴォォッッ!!!


 凄まじい衝撃音が響き渡った。


 エネルギーナックルが炸裂した瞬間——


 ターゲットは爆発的な衝撃を受け、砕け散った。


 ボロボロに粉砕されたダミーの残骸が飛び散り、訓練場の地面に無惨に転がる。

 警告音が鳴り響くが、それすらかき消されるほどの衝撃だった。


 藤堂が端末を確認し、目を見開く。


「……馬鹿な。数値が……これは…」


 スクリーンには、ERRORの文字が点滅していた。


 ジェイクが目を見開き、口笛を吹く。


「おいおい、こりゃ思ったより派手にぶっ壊れたな……」


 ナディアは腕を組みながら微笑む。


「ふふっ……やるじゃない、龍之介ちゃん」


 龍之介は拳を握りしめたまま、微かに眉をひそめる。


(すごい…インパクトの瞬間、確かにパワーが増幅されてた。)


 単なる武器ではない。

 これは、龍之介のルミナセンスと完全に融合する戦闘ギアだ。


 静かに息を吐きながら、龍之介は拳を開いた。


「……悪くない」


 だが、その声を聞いた藤堂は腕を組みながら、複雑な表情を浮かべていた。


(……これは予想以上だ。)


 適合者の力に抗うために開発した武装。

 だが、それが適合者の能力と共鳴した時——その力は、未知の領域に達する。


「……なるほどな」


 藤堂はそう呟きながら、静かに眼鏡を押し上げた。


 龍之介の圧倒的な一撃の余韻がまだ訓練場に残る中、藤堂は端末を操作しながら、淡々と口を開いた。


「さて、こっちは少し動きのあるテストだ」


 カチャリ。


 彼が設定を切り替えると、先程の檻の中の複数のダミーターゲットが作動する。

 今回は静止目標ではなく、適合者の動きを模倣するAIが組み込まれたダミーだった。

 それぞれがバックステップで距離を取ったり、素早く左右に動いたりしながら、一定の間隔で間合いを詰める。


 ナディアは腕を組みながら、ターゲットの動きを見つめる。


「へぇ、面白そうじゃない」


 そう言いながら、軽やかにステップを踏んで檻の中に入り、デュアルブレードを抜いた。

 同時に、腕の内側からワイヤーが音もなく伸びる。


「準備はいいか?」


 藤堂が確認する間もなく——


 シュンッ!!


 ナディアのシルエットが一瞬にして消えた。


 ——超高速のヒット&アウェイ。


 ナディアはまず、ワイヤーを射出。

 一本はダミーの足元へ、もう一本は天井へと伸ばし、それを起点に空中へと跳躍した。


 重力に逆らうように体を翻しながら、ワイヤーで吊り上げたダミーを空中へ引きずり出す。


「——捕まえた♡」


 シュバッ!!


 ナイフの刃が、音もなくダミーの胴体を走る。


 切断されたターゲットが、そのまま重力に引かれて地面へ落ちた。


 しかし、ナディアは止まらない。


 ワイヤーを引き戻し、次の足場へと一瞬で移動。


「——さて、お次は?」


 次のダミーが間合いを詰めてきた瞬間、ナディアはワイヤーを地面に打ち込み、それを起点に高速スピンをかけながら急接近。


 ヒュンッ!!!


 刃が閃く。


 ダミーの首元に走った一閃が、エネルギーの光を残して消えた。

 次の瞬間、ダミーがガクンと膝をつき、制御不能になったかのように崩れ落ちる。


 ジェイクが軽く口笛を吹く。


「おいおい……動きがえげつねぇな」


「フフッ、ありがと♡」


 ナディアはワイヤーを巻き戻しながら、最後のターゲットを見据えた。


(あと一体……。)


 ダミーがステップで距離を取る。


 しかし、ナディアのワイヤーは、次の一手を既に準備していた。


 彼女は天井へとワイヤーを射出し、ターゲットの正面ではなく、あえて死角に回り込む軌道を作る。


 ダミーが動いた瞬間——


「おしまい♡」


 スパァッ!!


 ナディアのナイフが、背後からダミーの胴体を走る。


 刃に帯びたエネルギーが、ダミーのセンサーを狂わせ、動作停止のエラーを引き起こした。


 それと同時に——


 最後のターゲットが、地面に崩れ落ちる。


 沈黙。


 空中で一回転しながら着地したナディアは、ワイヤーをすばやく収納し、刃をひと振りして納めた。


 訓練エリアには、バラバラになったターゲットだけが残っていた。


「……君が使うと、もはや人間の動きじゃないな」


 藤堂が呆れ混じりに言う。


 ナディアは軽くウインクしながら、微笑んだ。


「お褒めにあずかり光栄ね♡」


 藤堂は腕を組みながら、端末に映し出されたデータを見つめる。


「……想定していた動きの範疇を超えている。特に、ワイヤーの使い方が異次元だな」


 ジェイクが腕を組みながら、興味深そうにナディアを見やる。


「ま、適合者相手の実戦でも、それなりにやれそうじゃねぇか?」


 ナディアは肩をすくめながら、微笑む。


「そうね……けど、実戦はこんなに甘くないんじゃないかしら」


 藤堂は端末から目を上げ、ゆっくりとメガネを押し上げた。


「正直言って、君達がここまで使いこなせるとは想定していなかった…これなら適合者にも十分通用するだろう」


 

 訓練場に静寂が戻る中、ジェイクが腕を組みながらナディアを指差した。


「なぁ、あいつのナイフなんだが……」


 藤堂が端末のデータを確認しているのを見ながら、軽く顎をしゃくる。


「ありゃしっかり殺傷力あんじゃねぇか?」


 ナディアが扱ったデュアルブレード・パルスナイフは、ダミーを寸断するほどの切れ味を発揮した。

 

 藤堂は目を細め、ナディアのナイフを一瞥する。


「……あのブレードはナノセラミック加工が施されていて、本来あれほどの切れ味は無いはずなんだ……」


 彼の言葉には、明らかに想定外の結果への疑念が含まれていた。


 ナディアは、そんな藤堂の困惑をよそに、くるりとナイフを指先で回しながら笑う。


「ま、要は使い方次第ってコトよね♡」


 まるで、当たり前のことを言うように、軽やかにナイフを鞘に収める。


 藤堂は僅かに眉をひそめ、3人の戦闘データをもう一度確認した。


(…ナイフの切れ味だけじゃない。彼らのテストでのデータは、我々の想定を遥かに上回っている……。)


 ジェイクが肩をすくめながら、ニヤリと笑う。


「まぁ、そういうこったな。こいつの戦い方は“仕様外”ってワケだ」


 ナディアはウインクしながら、「当然でしょ?」といった表情を浮かべた。


 藤堂は、メガネのブリッジを押し上げながら、静かに言葉を絞り出した。


「……面白い」


 技術者として、彼の中に芽生えたのは、理論では説明できない実戦の“感覚”への興味だった。


 藤堂は端末を閉じ、静かに息を吐いた。


「……やはり、実戦での適応力こそが鍵か」


 ジェイクはパルスマグナムを軽く回し、ナディアは満足げにワイヤーを巻き戻す。

 龍之介はエネルギーナックルを見つめながら、拳を握りしめた。


 それぞれが新たな武装を手にし、感じ取った手応え——

 そして、その奥に潜むまだ見ぬ可能性。


 藤堂が腕を組みながら、最後に静かに告げる。


「武器は使い手によって真価を変える。お前たちがどう戦うか……見せてもらうとしよう」


 冬の冷たい風が、訓練場を吹き抜ける。

 空は曇天。新たな嵐の予兆を孕んでいた——。

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