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LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
四・斜陽
26/48

新オモチャ、解禁

「私は藤堂修一、技術開発部門の主任をしている」


 倉庫内の明かりに照らされながら、少し神経質そうな男が静かに口を開いた。


 彼は手に持った端末を操作しながら、視線をモニターに向けたまま話し続ける。

 その仕草はどこか事務的で、無駄な感情を挟まない冷静なものだった。


「昨晩の侵入者事件、あんた達——適合者と戦ったんだろ?」


 ジェイクが腕を組みながら、軽く頷く。


「ああ、まぁな」


 その返答を聞きながらも、藤堂は端末の画面をスクロールさせ、何かのデータをチェックしていた。


「私たちは以前から、対Nocta向けの装備開発を進めていてな」


 彼はコンテナの方へと視線を向ける。


「今回の侵入事件を受けて、急遽それらを現場に配備することになった」


 そう言いながら、コンテナのひとつを指差した。

 どうやらその中には、ARCの技術が詰め込まれた最新の武装が収められているようだ。


「とはいえ、この国じゃ民間人が殺傷能力のある武器を持つことは許可されていない」


 藤堂の声には、微かな苦悩が滲んでいた。


「普通の人間相手なら、あそこにある武装でも十分対応可能だろうが——」


 端末を閉じ、龍之介たちに真正面から向き直る。


「適合者相手となると、話が違う」


「そこでだ——」


 藤堂が静かに言いながら、指でメガネのブリッジをクイッと押し上げる。


「恐らくARC内でも、唯一適合者に対応できるであろう君たちのために——」


 間を置き、彼はわずかに口角を上げた。


「専用の武装を開発したんだよ」


 その言葉に、ジェイクの反応は早かった。


「なんだと!?」


 目を輝かせながら、勢いよく藤堂に詰め寄る。


「一応、君らの戦闘データに合わせたものになってるはずだから……」


 藤堂は淡々と続ける。


「気に入ってもらえると思うよ」


「どこだ? 早く見せろ!!」


 ジェイクはまるで子供のように食いつき、コンテナの前へと急ぐ。


「……まったく、やれやれだ」

 

 藤堂は呆れたようにため息をつきながら、指で端末を操作する。


 ——ガシャン!


 コンテナのロックが解除される音が響いた。


 龍之介とナディアも、一歩前へと踏み出し、中を覗き込む。


 ——適合者に対抗するための武装。


 コンテナの中には、いくつかの黒いケースが整然と並んでいた。

 重厚な外装に、ARCのロゴが刻まれている。


 藤堂は無言でそのうちの一つを手に取り、カチャリとロックを外した。


「まずは、これからだ」


 ケースの蓋が開く。


 その内部に収められていたのは、一丁の無骨な拳銃だった。

 マットブラックのフレームに、銃身の側面には「A-TD PM-02」の刻印。

 通常のハンドガンよりも一回り大きく、重厚感のあるフォルムが特徴的だ。


 藤堂が銃を片手に持ち、軽く構えながら説明を始めようとした——その瞬間。


「おおお! これか!!」


 ジェイクが素早く腕を伸ばし、銃を奪い取った。


「……はぁ」


 藤堂は深いため息を吐きながら、呆れたように眉間を押さえる。


 それでも、仕方なく説明を続けた。


「それは《パルスマグナム》——一般配備のパルスライフルの技術を応用した、ハンドガンタイプの非殺傷武器だ」


 ジェイクは手の中にある銃を、興味深そうに眺める。


「ライフルを拳銃サイズにしたってことか?」


 藤堂は頷き、続けた。


「そういうことだ。ただし、単なる縮小版じゃない」


「これは『一点集中型パルスショット』を搭載していて、従来のパルスライフルとは違い、収束率を高めてる」


「一発の威力は桁違いだぞ」


 ジェイクがニヤリと笑う。


「ほぅ……どれくらいの威力なんだ?」


 藤堂は冷静な表情のまま答えた。


「至近距離なら成人男性を壁まで吹っ飛ばす」


「ただし、威力が高すぎて連射は不可能だ」


「一発撃つごとに、最低でも3秒のリチャージが必要になる」


 ジェイクは満足そうにマグナムを握り直し、試しに構えてみる。


「3秒か……まぁ、当てれば十分ってことだな」


「もっとも、君以外にはまともに扱えないと思うがな」


 藤堂の皮肉交じりの言葉に、ジェイクはさらに楽しそうに笑った。


 そんなジェイクを横目に藤堂は無言のまま、もう一つのケースを開いた。


 その中に収められていたのは、無骨なナックルガードのような武器だった。

 金属とポリマーを組み合わせたフレームが特徴的で、拳に装着するタイプの近接戦闘用ギア。

 龍之介はケースの中を覗き込み、眉をひそめる。


「次はこれだ——《エネルギーナックル》」


 藤堂はナックルをケースから取り出し、龍之介へと差し出した。


 龍之介は少し怪訝そうにそれを手に取る。

 見た目は、ただのナックルガードにしか見えない。


「……ただのナックルガードじゃないのか?」


 拳にフィットする形状は、確かに格闘用の武器としては自然だ。

 だが、それ以上の特別な何かがあるようには思えなかった。


 藤堂は無表情のまま言葉を続ける。


「これは単なるナックルじゃない」


「内部にパルスブースターを搭載していて、打撃時に瞬間的にエネルギーを収束・解放することで、威力を強化するギアだ」


 ジェイクが横から覗き込み、興味深そうに呟く。


「ふぅん、つまり殴るだけで威力が増すってわけか」


 藤堂は頷くと、さらに説明を続ける。


「普通の人間が使っても十分な破壊力を発揮するが——」


 ここで、藤堂は一瞬だけ龍之介を見やる。


「君が使えば、その威力はさらに跳ね上がる」


 龍之介の眉がわずかに動く。


「どういうことだ?」


「君のルミナセンス——物理強化に特化した適合能力が、このナックルと相性がいい」


「ルミナス波とパルスエネルギーが共鳴すれば、単純な殴打の威力は“倍増”する」


「倍増……?」


 藤堂は淡々と続ける。


「要するに、君が本気で殴れば、普通のナックルの比じゃない破壊力が出るってことだ」


 龍之介はナックルを見つめたまま、黙り込んだ。

 これまで、武器など持たずに戦ってきた。


 しかし——


 (自分のルミナセンスを、最大限に活かせる武装か……)


 指を動かし、ナックルを装着する。

 しっくりと拳に馴染む感触。

 これまでの素手とは違う、武器としての重量感が確かにそこにあった。


 龍之介は静かに息を吐き、口元にわずかな笑みを浮かべた。


「……面白いな」


 彼の言葉に、藤堂は淡々と頷いた。


「こいつは君専用の武装というわけではないが、君が使うことで存分に真価を発揮するだろう」


「使いこなせるかどうかは——君次第だ」


 龍之介は拳を握りしめ、軽く空を殴るように動かしてみる。

 ナックルが手の動きに違和感なく追従し、フィット感も申し分ない。


(これなら……いける。)


 龍之介はゆっくりと頷いた。


 藤堂はナックルの説明を終えると、少しだけ口元をほころばせた。

 次のケースに手を伸ばしながら、どこか得意げな表情を浮かべる。


「さて、次は君の番だ」


 ナディアが興味深そうに前のめりになり、ケースを覗き込む。


「ふふ、私にもあるのね?」


「もちろん」


 カチャリ——ロックが外れる音。


 蓋が開くと、中には二つの異なる武器が収められていた。

 一つは流線型の短剣が二本、もう一つは見慣れない細いワイヤーデバイス。


 ナディアが目を輝かせる。


「へぇ……これはまた、素敵なプレゼントね」


 藤堂は無言で短剣を持ち上げ、ナディアの手元へと滑らせるように渡した。


「これは《デュアルブレード・パルスナイフ》」


「君の戦闘スタイルに合わせて開発した、スピード特化型の武器だ」


 ナディアは片方を逆手に持ち、もう片方を正眼に構えながら試しに振る。

 軽い。刃が空を切る音すらほとんどない。


「ふぅん、確かに軽いわね。でも……ただのナイフってわけじゃないんでしょ?」


 藤堂は満足げに頷き、説明を続ける。


「当然だ。刃部分には微弱なパルスエネルギーが流れていて、対象に接触した瞬間、スタン効果を発生させる」


「ただし、適合者にはそこまでの効果は期待できない。せいぜい、一瞬動きを鈍らせる程度だな」


 ナディアは短剣のエネルギーブレード部分を指先でなぞりながら、小さく笑う。


「つまり……急所を狙えば、相手の動きを封じるチャンスが増えるってことね」


「そういうことだ」


 藤堂はもう一つのケースに手をかけ、今度は細長いデバイスを取り出した。

 銀色の金属フレームに、細かく巻き取られた極細のワイヤーが組み込まれている。


「こっちは《モノフィラメント・ワイヤー》」


 ナディアが眉を上げる。


「ワイヤー?」


 藤堂はナディアの前にデバイスを差し出した。


「君の腕部に取り付けられる超極細・高強度のワイヤーだ」


「対象を絡め取る、武器を弾く、移動補助に使う……用途は多岐にわたる」


 ナディアはワイヤーデバイスを手に取り、慎重にワイヤーを伸ばしてみる。

 目視ではほとんど見えないほどの細さだが、確かにしなやかで強靭な感触が指先に伝わる。


「これは……面白いわね」


 藤堂は腕を組みながら、淡々と続ける。


「適合者を完全に拘束するのは難しいが、一時的に動きを封じたり、武器を絡め取るには十分な性能がある」


「また、建物の構造を利用して高速移動することも可能だ。君の機動力をさらに活かせるだろう」


 ナディアはワイヤーを戻しながら、満足げに微笑んだ。


「ふふ……まるで私のために作られたみたいじゃない」


「実際、君専用の装備だ」


 藤堂はさらりと言い放つ。


「開発中は、君がどう使いこなすか想像しながら調整した」


「だから、しっかり使いこなしてくれよ」


 その言葉に、ナディアは楽しそうに笑う。


「へぇ……藤堂くん、そんなに私のこと考えてくれてたの?」


「……性能を最適化しただけだ」


 藤堂は無表情のままメガネを押し上げる。


 しかし——


 その耳の先が、ほんのわずかに赤くなっていた。



 藤堂は腕を組み、3人の表情を一通り確認した。


「さて、武器の説明は以上だ」


 静かに言いながら、視線をジェイク、龍之介、ナディアへと向ける。


「試したくて仕方ないという顔をしているな……」


 その言葉に、ジェイクはニヤリと笑い、龍之介は少し気まずそうに視線を逸らし、ナディアはいたずらっぽく唇を尖らせる。


 藤堂はそんな3人を見て、軽くため息をついた。


「ついてきたまえ。特別に設備を用意している」


 そう言い残し、静かに歩き出す。

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