枯れ落ちる
秋の風が、燈の森をやわらかく吹き抜けていた。
中庭の木々は色づき始め、黄色や赤の葉が、朝の光を浴びてわずかに揺れている。
吹き抜ける風が、乾いた葉をさらりと転がしていった。
食堂には、朝の日差しが淡く差し込み、ほのかに秋の匂いを運んでいた。
室内には、子供たちの話し声と、食器が触れ合う軽やかな音が響く。
焼きたてのパンの香ばしい匂いと、湯気を立てるスープの香りが、少し肌寒い朝の空気に混ざっていた。
龍之介たちは、いつもの席に座り、トレーの上に並んだ朝食を黙々と口に運んでいる。
そんな中、ふと翔がスプーンを口に運びながら視線を向けた。
綾の胸元で、小さな鈴が揺れているのに気づく。
「綾ちゃん、それどうしたの?」
スプーンを口に運びながら、翔が綾の胸元に揺れる小さな鈴を指さした。
「あ、これ?」
綾は嬉しそうに鈴を指でつまみ、そっと鳴らした。
「チリン」と小さく澄んだ音が響く。
「龍ちゃんからもらった鈴。舞さんがペンダントにしてくれたの」
「そうか、いいね……」
翔は一瞬、表情を変えた。
だが、それをすぐに隠すように、軽く微笑む。
「うん!ね、龍ちゃん!」
「んー、そうだな」
龍之介は大して気にする素振りもなく、食事を続ける。
翔はそれを見て、ふっと息を吐くように笑った。
「ごちそうさま。先に出るね」
そう言って、トレーを片付けると、翔は食堂を後にした。
綾は首を傾げる。
「翔くん、どうしたんだろ?」
「さぁな。腹でも痛いんじゃね?」
龍之介は適当に言って、またスプーンを口に運んだ。
だが、綾はどこか落ち着かない表情をしていた。
***
食堂を出て、翔は静かな廊下を歩いた。
子供たちのいない朝の廊下は、ひんやりとした空気が漂っている。
——龍之介からもらった鈴。
先ほどの綾の言葉が頭に残っていた。
綾にとって、それは特別なものなのだろう。
何の気なしに、自分の首元に手をやる。
ルミナイトのペンダント。
両親が残してくれた、唯一の形見。
「……嫉妬…なのかな」
小さく呟いて、翔は苦笑する。
こんなことを考えるなんて、子供っぽいなと自嘲するが、拭えない違和感が胸の奥にこびりついていた。
意識するでもなく、足が屋上へと向かう。
燈の森の校舎の屋上は基本的に立ち入り禁止だが、翔はよくここに来ていた。
理由は単純。
空を見上げるのが、好きだったから。
地上の喧騒を離れ、ただ広がる空を眺めていると、考え事がまとまる気がした。
重い鉄の扉を開けると、心地よい風が吹き抜ける。
空は澄み渡り、遠くにはLUXのビル群がそびえている。
「……ルミナスリアクターの試験運用、始まってるんだっけ」
校庭の端にある大きな異物に目を向け、そこから屋上に置かれた、それより小さな機械に視線を移す。
翔は屋上の端にある、その機械——レシーバーへと歩み寄った。
リアクターから無線送電を受ける装置。
今、この燈の森の一部の電力は、それで賄われているはずだった。
「……僕がこんな感情になるなんてな…」
小さく呟きながら、ペンダントを握りしめる。
次の瞬間。
「バチッ!!!」
鋭い電流の音が響いた。
視界の端で、レシーバーが小さな火花を散らすのが見えた。
「……え?」
静寂を引き裂くように、レシーバーの表面が赤く熱を帯びる。
そして——
轟音とともに、爆発が起きた。
爆風が翔の身体を弾き飛ばす。
空が回転し、視界が逆さになる。
「っ──!」
気づけば、屋上の端ギリギリに倒れ込んでいた。
危なかった……。
ほっと息をついた、その瞬間——
「——ッ!!」
再びレシーバーが爆発音を上げる。
衝撃で、翔の身体が屋上の外へと投げ出される。
「っ……!」
咄嗟に手を伸ばし、屋上の縁に指を掛ける。
だが、力が入らない。
——上がれない。
下を見る。
——高すぎる。
頭が真っ白になる。
マズい、このままじゃ……。
手が、小刻みに震えた。
指先に力を込めようとするが、滑る感触が止まらない。




