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LUMINESCENCE:PHANTOM ECHO  作者: ハナサワリキ
ニ・黎明
11/48

枯れ落ちる

 秋の風が、燈の森をやわらかく吹き抜けていた。


 中庭の木々は色づき始め、黄色や赤の葉が、朝の光を浴びてわずかに揺れている。

 吹き抜ける風が、乾いた葉をさらりと転がしていった。


 食堂には、朝の日差しが淡く差し込み、ほのかに秋の匂いを運んでいた。


 室内には、子供たちの話し声と、食器が触れ合う軽やかな音が響く。

 焼きたてのパンの香ばしい匂いと、湯気を立てるスープの香りが、少し肌寒い朝の空気に混ざっていた。


 龍之介たちは、いつもの席に座り、トレーの上に並んだ朝食を黙々と口に運んでいる。


 そんな中、ふと翔がスプーンを口に運びながら視線を向けた。

 綾の胸元で、小さな鈴が揺れているのに気づく。


「綾ちゃん、それどうしたの?」


 スプーンを口に運びながら、翔が綾の胸元に揺れる小さな鈴を指さした。


「あ、これ?」


 綾は嬉しそうに鈴を指でつまみ、そっと鳴らした。

「チリン」と小さく澄んだ音が響く。


「龍ちゃんからもらった鈴。舞さんがペンダントにしてくれたの」


「そうか、いいね……」


 翔は一瞬、表情を変えた。

 だが、それをすぐに隠すように、軽く微笑む。


「うん!ね、龍ちゃん!」


「んー、そうだな」


 龍之介は大して気にする素振りもなく、食事を続ける。


 翔はそれを見て、ふっと息を吐くように笑った。


「ごちそうさま。先に出るね」


 そう言って、トレーを片付けると、翔は食堂を後にした。


 綾は首を傾げる。


「翔くん、どうしたんだろ?」


「さぁな。腹でも痛いんじゃね?」


 龍之介は適当に言って、またスプーンを口に運んだ。

 だが、綾はどこか落ち着かない表情をしていた。


 ***

 

 食堂を出て、翔は静かな廊下を歩いた。


 子供たちのいない朝の廊下は、ひんやりとした空気が漂っている。


 ——龍之介からもらった鈴。


 先ほどの綾の言葉が頭に残っていた。

 綾にとって、それは特別なものなのだろう。


 何の気なしに、自分の首元に手をやる。


 ルミナイトのペンダント。

 両親が残してくれた、唯一の形見。


「……嫉妬…なのかな」


 小さく呟いて、翔は苦笑する。

 こんなことを考えるなんて、子供っぽいなと自嘲するが、拭えない違和感が胸の奥にこびりついていた。


 意識するでもなく、足が屋上へと向かう。


 燈の森の校舎の屋上は基本的に立ち入り禁止だが、翔はよくここに来ていた。

 理由は単純。

 空を見上げるのが、好きだったから。


 地上の喧騒を離れ、ただ広がる空を眺めていると、考え事がまとまる気がした。


 重い鉄の扉を開けると、心地よい風が吹き抜ける。

 空は澄み渡り、遠くにはLUXのビル群がそびえている。


「……ルミナスリアクターの試験運用、始まってるんだっけ」


 校庭の端にある大きな異物に目を向け、そこから屋上に置かれた、それより小さな機械に視線を移す。


 翔は屋上の端にある、その機械——レシーバーへと歩み寄った。


 リアクターから無線送電を受ける装置。

 今、この燈の森の一部の電力は、それで賄われているはずだった。


「……僕がこんな感情になるなんてな…」


 小さく呟きながら、ペンダントを握りしめる。


 次の瞬間。


 「バチッ!!!」


 鋭い電流の音が響いた。

 視界の端で、レシーバーが小さな火花を散らすのが見えた。


「……え?」


 静寂を引き裂くように、レシーバーの表面が赤く熱を帯びる。


 そして——


 轟音とともに、爆発が起きた。


 爆風が翔の身体を弾き飛ばす。

 空が回転し、視界が逆さになる。


「っ──!」


 気づけば、屋上の端ギリギリに倒れ込んでいた。


 危なかった……。


 ほっと息をついた、その瞬間——


「——ッ!!」


 再びレシーバーが爆発音を上げる。

 衝撃で、翔の身体が屋上の外へと投げ出される。


「っ……!」


 咄嗟に手を伸ばし、屋上の縁に指を掛ける。

 だが、力が入らない。


 ——上がれない。


 下を見る。


 ——高すぎる。


 頭が真っ白になる。


 マズい、このままじゃ……。


 手が、小刻みに震えた。

 指先に力を込めようとするが、滑る感触が止まらない。

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