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第二十章 白鳥の騎士たち 4

「それは矛盾していますわ」と、アマーリエは鋭く切り込んだ。

「ペラギウ山脈のドワーフの最長老様のお話では、海エルフの王女が《冥王の眸》を手に入れたのは王国が滅んだあとだということです」


「……――おいアマーリエ」と、ハインツが堪えかねたように口を挟む。「あの巫女がエルフだろうが人間だろうが、そこはどうだっていいだろう? 俺たちにとっての問題は、今現に隊長殿とあの馬鹿二人が囚われていることだ」


「そこのところが、私はちょいと腑に落ちないんだよね」と、アーデルハイトが首を傾げる。「あのフレデリカが半月近くも唯々諾々と捕まり続けているっていうのがさ。しかもーーちょっと頼りないとはいえーー部下が二人もいるのに。あの娘のことだから、大人しくつかまっているフリをして内情でも探っているんじゃないか?」

「あ、ああ!」

 アマーリエは思わず歓喜の声をあげた。「ありえますわ、隊長殿でしたら。きっとご自身で脱出の方法だって――」


「いや、ぬか喜びをさせてすまんが」と、氏族長が心底申し訳なさそうに遮る。「捕囚たちは地下牢で眠らされているらしい。風の巫女の調合する眠り薬によってな」


「――畜生!」

 ハインツが耐えかねたように吐き捨てて拳で床を叩く。


「《エルフの芥子》――ですわね」

 アマーリエは失望と怒りを堪えながら囁き、わなわなと震えるハインツの肩をそっと叩いた。「ハインツどの、落ち着いてください。使われている薬が《エルフの芥子》なら、わたくしが解毒薬を調合することができます。森からの帰り、《惑わしの霧》を抜ける前に、後で万が一目覚めない者があったときのためにと、ネル様から調合法を教わっていますから」


「本当か?」と、ハインツが顔をあげ、アマーリエの両肩に手を乗せて揺さぶりながら繰り返す。「本当に目覚めさせられるのか?」

「ええ。材料を集めて調合するまでに少し時間がかかりますけれど」

「手が必要ならわがヴェヌーレス氏族が動こう」と、氏族長が力強く請け合う。「しかし、捕囚たちは、今はもう集会堂の地下ではなく風神殿の地下にいる。忍び込むのは難しいぞ。《白鳥の戦士たち》が十重二十重に護っているからな」

「白鳥のトーテム? どこの氏族ですの?」

「どこでもない」と、氏族長は苦虫を嚙み潰したような顔で応えた。「先に生贄に捧げられた白鳥の羽を印にした、雑多な氏族の若者たちの寄り合い所帯だ。連中は狂ったような熱意で《風の乙女》を崇めている」

「それじゃ、入り込んだあとで逃げるのも相当難しそうですね……」

 アーデルハイトがうつむく。

 ハインツは無言で考えこんでいる。

 アマーリエも必死で思考を巡らせた。



 ――どうすればいい? どうすれば隊長殿(シェフィン)たちを助けて、東丘の洞穴へと戻ることができる……



 考えても考えても、フレデリカたちを助けて逃げおおせる巧い方策は思い浮かばなかった。アマーリエが焦りと惨めさを感じたとき、不意にアーデルハイトが言った。

「ねえ、フレデリカが言った通り、源を断てばいいんじゃない?」

「源?」

 ハインツが問い返す。「どういうことだ?」

「だから、あの()たちが生贄に捧げられそうなのは、変な暗雲が空に立ち込め続けているからでしょう? で、巫女は《冥王の眸》とやらを使って、あの変な雲を湧き出させているらしい。アマーリエさま、そういうことですよね?」

「え、ええ」

 急に畳みかけられて少々頭がグルグルする。

 アマーリエが気圧されながらも頷くと、アーデルハイトはぱっと破顔し、心底得意そうな声で告げた。

「それなら、《冥王の眸》を奪い取って壊せばいい!」




「……――壊せるものなのか?」と、氏族長が心許なそうにアマーリエに訊ねる。


「わたくしも詳しくは存じませんが、素人がそうやすやすと破壊できるとも――」

 そこまで口にしたところでアマーリエははっと思いついた。

「いえ、できますわ! ああいいえ、できませんけど」


「どっちなんだよ!」と、ハインツが苛立つ。


「壊すのは、たぶんできないと思うんです。でも、一時的に効力を失わせることならできる気がします」


「どうやって?」


「わたくしたち皆よく知っている方法ですわ」と、アマーリエは微かな得意さを押し隠して告げた。「方陣聖域(カトルサンクテ)です」

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