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第二十章 白鳥の戦士たち 2

 街道を西に進むにつれて明るさが増し、右側からつねに吹き付けている風の勢いが衰えてゆく。


 右手に列なるポプラ並木の幹のあいだに東丘がはっきり見える辺りに差し掛かったところで唐突に暗雲が途切れて、暗がりに馴れた目には痛いほど眩しい陽光が乾いた道と野原を照らしていた。


「こいつはまた――」と、ハインツが呆れた声をあげる。「まるで傭兵の宿営地だな! 一体何人いるんだ?」


 嵐の目さながらに風の止んだ野原――逆茂木に囲まれた渡し場の集落の東側――には、二日前に後にしたランセウスの市場町の門前よりもはるかに多くの天幕が張られ、馬や家畜が繋がれ、そこここから炊ぎの煙が立ち上っているのだった。

「ざっと見た感じ千人は越えていそうだ」と、アーデルハイトがフードを深くかぶり直しながら眉を顰める。「この人数の避難民が一か所にいるとなると、草も薪もそう長くはもちゃしないよ。まずいね。そうなったらすぐ暴動だ」

「さすがハイジさん、読みが深いね。アマーリエ、ここからどうする? まずは集会堂に向かうか?」

「いえ」

 アマーリエは慎重に考えながら答えた。「状況が全く読めませんから、まずは確実に味方だと思われる相手を捜しましょう」

「そんなのどこにいるんだ?」

 ハインツが焦れた声で問い返す。

 アマーリエは南部地方きっての古き剣の貴族の出自たる矜持を滲ませて答えた。

「決まっております。わたくしの身内ですわ。ヴェヌーレス氏族の族長の天幕を捜しましょう」




 南部諸氏族はそれぞれのトーテムである鳥獣の一部を同族の印として身に着けている。

 アマーリエ・フォン・ヴェルンの1308年を隔てた遠い同族であるヴェヌーレス氏族の印は狼だ。


 狼の頭付きのマントを纏った戦士たちの護る幕屋はすぐに見つかった。


 護衛たちはアマーリエがフードを外して名乗ろうとするなり顔色を変え、

「姫君、お顔は隠されよ。すぐさま長に取り次ぐ」と、だけ言い置いて幕屋の奥へと駆けこんでいった。

 アマーリエは不安を感じた。

 ハインツとアーデルハイトも張りつめた表情を浮かべている。




 ややあってすぐに護衛が戻ってきた。

「御三方、入られよ」と、恭しい態度で幕屋へと導き入れる。


 幕屋の内は広々としていた。

 真ん中に石を丸く並べた地炉が掘られて炭火が燃えている。

 ゆらゆらと立ち上る煙の向こうに、雪のように白い髭を長く伸ばして狼の牙を連ねた首飾りをかけた老人が胡座していた。

「……――氏族長さま!」

 アマーリエは自分でも思いがけないほどの安堵にかられて声をあげた。


 老人――ヴェヌーレス氏族の長が皴深い目をさらに細めて微笑む。

「久しいな、わが遠い子孫よ。無事でなによりだ」

 氏族長はそこまで口にしたところで、やおら顔を歪め、ふさふさとした眉を寄せて深く頭をさげた。


「まずは詫びておく。そなたらと同行していたあのエルフの娘、あれを生贄に捧げることが民会で決まってしまった」


 アマーリエは一瞬相手が何を言っているのか理解できなかった。

「エルフって――」

 ネル様のこと?


 戸惑いながら背後の同行者たちを交互に見あげる。

 アーデルハイトも困惑している。

 ハインツはなぜが薄青の眸をいっぱいに見開き、半開きの唇をわなわなと震わせていた。


「ハインツ殿」

 どうしたのです? と問おうとしたとき、痩せ男が拳を握りしめ、腹の底から低く振り絞るような声で訊ねた。


「それは、隊長殿(シェフィン)のことか? 短い灰金髪の、風使いフレデリカのことか?」

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