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第一九章 進軍 6

女騎士の鋭い鉛色の目からは全く内心がうかがわれなかった。

 アーデルハイトもハインツも応えに窮している。


 アマーリエはわずかに躊躇ってから答えた。

「ええ。そのつもりです」


「西岸にはいつからいなかった? 四か月前、私とアヌビルが、ロージオンの王弟を道案内としてイストモスの森を訪ねようとしたこときには、もう旅に出ていたのか?」

 シグルーンが探るような視線を向けてくる。


 アマーリエは恐怖を感じた。


 素性を疑われているのだ。



 ――嘘はつかないほうがいいわ。整合性がとれなくなる。事実を恣意的に並べ直すの。相手がいいように解釈してくれるように……



 考えれば考えるほど答えに窮してしまう。

 シグルーンの眉がしかめられる。


 後ろからアーデルハイトが慌てて口を挟む。

「え、ええ。わたくしども、その頃にはもう西岸を離れておりました」


「そうか。ゼンテス西岸の現状は分かっているのか?」

「ええと、なんだか胡乱な黒い雲に覆われて、とても天気が悪いみたいですけれど」

 アーデルハイトが狼狽えながら応える。

 シグルーンは重々しく頷いた。

「その通りだ。その雲の下で家畜たちがばたばたと死に、そなたらが属すると主張するヴェヌーレスの民をはじめとした西岸の諸氏族がみなゼンテスの渡し場へ逃れていることは知っているのか? かの渡し場を守護する祭司は、この事態はみなイムールドの仕業だと主張しているが」


「あの女王様の? ばかばかしい、何を根拠に――」

 ハインツが堪えかねたように口走ったとき、女騎士がぴくりと眉をあげた。


「……そなたら何者だ?」


「え、あ、ですから、こちらの方が薬師で、わたくしは御世話役、こっちの男は道中の護衛で」


「偽りを申すな!」

 シグルーンが鋭く一喝し、腰に吊るした鞘からすらりと刀を抜き放った。


「何をなさる!」と、ハインツが両腕を広げて女二人を庇う。


 その手が剣へと伸びようとするのを、アマーリエは慌てて後ろから止めた。「やめてハインツさん、シグルーン様、何ゆえわたくしどもが偽りを申していると?」


「そなたら、イムールドが森エルフの女王の名と知っているのであろう? その名は代々のロージオンの王族のみが語り伝えてきたとジェフリーが誇っておった。秘すべき名であるわりに、あれは割合そこここで気安く口にしておったが――」と、女騎士がわずかに懐かしさをにじませた声音で言い、すぐさま表情を一転させ、また厳しい声で続けた。


「四か月前すでに西岸にいなかったのならば、そなたらが森エルフの女王の名を知っている道理はない。ここには二〇〇名の軍団兵(レギナリウス)があり、何よりこのシグルーンがある。命が惜しければ答えよ。そなたら何者だ? とりわけその黒髪の娘だ。年若く見えるが落ち着いている。人にすがたをやつしたエルフではないのか?」

 女騎士が諸刃の刀の切先を突きつけながら訊ねてくる。


 声音は極めて静かだというのに、狼が身を低めて牙をむいているかのような迫力がある。

 両腕を広げて前に立つハインツの指先がわずかに震えていた。


 アマーリエは意を決してその肩を叩いた。

「ハインツさん、どいてください。―-この方には本当のことをお話するしかないわ」


「そうだ退けハインツとやら。女主人が命じているぞ?」と、シグルーンが鼠をいたぶる猫みたいな余裕をみせて揶揄う。

 アマーリエは眉を吊り上げた。

「わたくしたちは誰が主人でもありません。帰るところを同じくする旅の仲間です。協力して同じ場所に帰ろうとしているのです」

「どこにだ。イムールドの元にか?」

「――いいえ」

 アマーリエはごくりと唾を飲んでから答えた。「未来にです」

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