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第十九章 進軍 3

 ドワーフたちが築いたのだろうよく舗装された路は、ときおりうねりながらも、谷の縁をほぼまっすぐに南へと下っていた。三人人間はすっかりと寛いだ気分で続くままに路を辿っていった。


 しかし、そののんびりとした旅の気分は昼までしか続かなかった。

 路を下れば下るほど寒さが増しているのだ。


「ねえこれ、あのときと逆じゃない? ペラギウ山脈に上ったときは、上れば上るほど暖かくなったよね?」

 ドワーフたちが贈ってくれたあの上等の毛織物のケープの襟を首の前でかき合わせながら、アーデルハイトが不安そうに空を仰ぐ。

 空は曇っていた。

 どんよりと重い青灰色の雲がかかって陽光が射してこない。

「平地に近いのに吐く息が白いよ。どうなっているんだろう……」


「《死を運ぶ黒い雲》とやらの影響が、こちらの岸にまで及んでいるのかしら?」

 アマーリエが思わず呟くと、ハインツの薄青色の目に見たことのないような悲痛な色がよぎった。

「――隊長殿(シェフィン)は」と、堪えかねたように呟く。「隊長殿は無事だろうか。その《雲》とやら、あの人の力だけで本当に払えるんだろうか?」

「ハインツ、それは今考えたって仕方がないよ」

 アーデルハイトが低く諫める。「フレデリカは大丈夫。あの()なら心配ない。ともかく道を急ごう」

「天気も悪くなりましたしね」と、アマーリエも慌てて付け加えた。「カムラク殿の教えてくださった谷口の木立を見つけて今夜の寝場所を確保しましょう」

「そうそう。しっかり元気をつけて、明日の朝一番に発てるようにさ」と、アーデルハイトが親しい姉さんみたいにハインツの肩を叩く。痩せ男はぎこちない表情で笑い返してみせた。




 谷口の木立には日暮れの前に着けた。

 入り口の円陣に気をつけながら石造りの祠の中で一夜を明かしたアマーリエたちは、夜明けと同時に出立して一心に南をめざした。


 天候は相変わらず酷い状態だった。

 空一面が重い黒雲に覆われ、あまつさえ風まで吹いてくる。

 真正面から吹き付けるかなり強い南風だ。


 頭の上で雲が流れているのに、なぜか全く通り過ぎない。

 まるで無限の雲が南から流れ続けてくるかのようだ。


「大丈夫かアマーリエ」と、前を行くハインツが気遣ってくれる。「できるだけ俺の後ろを来いよ」

「ありがとうございます」

 アマーリエはどうにかそれだけ応えた。


 外套のフードが風にあおられて背の後ろでハタハタと音を立てる。

 ケープも後ろへ靡いてしまう。

 念のため一本の三つ編みにしておいた長い黒髪も後ろに靡いて、見えない手でぎゅっと引っ張られているかのように痛い。


「どうなっているんだよ、一体」と、アーデルハイトが呟く。「南風? 春先のランサウで? 普通じゃありえないよ」

 アーデルハイトの嘆きを聞きながら、アマーリエはぼんやりと予測していた。


 吹かれても吹かれても流れ続けてくる雲が意味するところは――



 ――回転しているんだわ。渦上に。わたくしたちは巨大な渦の外縁の下にいる……



 ――これは隊長殿(シェフィン)の力? それともあの《風の乙女》の? ゼントファーレンは今どうなっているの? アルベリッヒとエーミールは? みな無事にしているの?



 考えれば考えるほど不安が募ってくる。

 考えるな、とアマーリエは自分に言い聞かせた。


 考え過ぎるな。

 足を止めるな。

 自分自身が今できる精いっぱいの努力をしろ――

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