第十八章 冥王の眸 6
言葉が終わると沈黙が落ちた。
重苦しい沈黙だった。
やがて静寂を破ってガウフリドゥスが呟いた。「真実を知る方法がひとつある」
「なんだ?」と、カムラクが斬りこむように訊ねる。
「アナイス・ニレノールご自身に訊ねるのだ。かのきみはイストモスの森に今もって住まっていると聞いた」
「どなたから?」と、アーデルハイトが訊ねる。
「エススどのからだ。彼女はもう二度と死すべき種族とは関わらないと決めている――との、ありがたい前置き付きだったが」と、ガウフリドゥスが舌打ちする。「しかし、その《冥王の眸》なる呪具がアマーリエの言うように堕ちたる造物主を奈落界から呼び戻せるほどの悍ましくも強大な力を秘めていて、なおかつ、もし我らの遠い母祖がそのことを知らずにいるというなら、私はどうしても報せて差し上げなければならない。――もしそれがロージオンの人間の元にあるというなら、一刻も早く異母兄上に――当代国王アイストゥスフスに申し上げねばならない」
ガウフリドゥスの琥珀色の眸には使命を見出した騎士らしい強い光が宿っていた。
「そうなりますと、殿下はここで我々と路を分かつということで?」と、ハインツがわざとらしく軽い口調で訊ねる。
アマーリエの胸がどきりと跳ねた。
――え、今ここで? これきりもうお別れなの?
そんな言葉が喉元まで出かかる。
ガウフリドゥスは厳しい表情のまま頷いた。
「そうなるな。そなたらが未来へ戻ればアヌビルも戻ってくるのだから、そちらには、私はもういなくても大丈夫だろう。姫君がたを最後まで護衛できなくて相すまぬ」
わざとらしいほど他人行儀になぜかハインツに詫びる。
アマーリエは場所柄も弁えずに泣きわめきたくなった。
同じころ―
ゼンテス川の下流の風神殿の地下で、一人の女が水晶球と向き合っていた。
女の白い小さな両掌で包み切れるほどの小さな球の芯に、焔の瞼に縁取られた黒い、黒い眸がみえる。
奈落の底の深淵の闇だ。
闇は今閉ざされている。
女は思い出す。
遠い、遠い昔――死すべき人の子の基準では遠い昔、地の底へとつづく長い長い階段を独りで降りた夜のことを。
そこは完全な闇のなかだった。
女は――その頃はまだ《乙女》と呼ばれていた少女は、ぬめるような闇の中、左手で冷たく湿った岩壁を必死で撫で続けながら、何も見えない闇の底へと独りで下っていた。
やがて地の底に蒼褪めた光を見つけた。
黒い四角い石の台座の上で光る蒼褪めた水晶球を。
少女が球に掌を振れると頭のなかに声が響いた。
――言葉もつ種族よ、名を何という……
私に名はない、と少女は答えた。
種族の名もない。
家の名もない。
私自身の名もない。
すると頭の中の声が嗤った。
――そうか。名の無きものよ。汝は何を望む……
滅びを、と少女は答えた。
この世のすべてを滅ぼして新しく造り直してほしいと。
「奈落にましますわがあるじよ、万物の造物主よ、あなた様の造ったこの世は不完全です。あまりにも哀しみが多い」
女は――金髪のジュニーヴルは甘く細い声でなじる。
愛らしいエルフの姫君に相応しい声で。
「どうかすべてを造り直してください。そのためならばわたくしは何でも捧げますから」
両腕で球を抱きながら跪いても応える声はない。
ジュニーヴルは喉を震わせて泣く。
遠い遠い昔、白い王宮の奥つ城で幾夜もそうしたように。




