第五章 再び迷宮へ 1
四組の親たちが大探索したところ、四人の子供が共通してポシェットに隠し持っていた宝物らしき品が発見された。
虹色がかった光沢を帯びた半透明の硬い剝片だ。
大きさは子供の掌の四分の一ほどで、揃いのひし形に切り整えられている。鋭角の一点のすぐ下に小さな穴が穿たれていた。
「――こいつは《白竜の鱗》ですな」
高価な素材に慣れ親しんでいる宝飾細工人のフランツが、一人息子のポシェットから出てきたキラキラ輝く剥片をランプの燈にかざして矯めつ眇めつしながら呟く。「形からして鎧の札のようだ」
「ベルガーさん、こりゃ随分高価なものなのですよね?」と、大工のノイマン父が怖ろしそうに訊ねる。フランツは頷いた。
「一枚でハルコニア金貨ほども高価です」
「ハルコニア金貨!」キルヒマンの母が叫んでから、縋りつくような声音でアマーリエに訊ねてきた。「それで姫君、この鱗とやらを地下迷宮へ戻せば、わたくしどもの娘は無事に目覚めるのですね?」
「ええ」と、アマーリエは覚悟を決めて頷いた。「エルンハイムに伝わる伝承を信じれば、必ず目覚めるはずです。ただ――」
「ただ、なんなんです?」
「宝物はおそらく、もともとあった場所に戻さなければならないはずです。子供たちが迷宮のどこからこの宝物を持ちだしたのか、はっきりしたことは――」
「そんな」と、キルヒナー母が口元を抑える。
と、それまでじっと聞いていたアーデルハイトが、不意に立ち上がったかと思うと、うなだれるキルヒナー母の後ろへ近づいて、元気づけるように両手で肩を叩いた。
「大丈夫ですよキルヒナーさん。そういう探索はフレデリカならお手の物です。幸い、地下迷宮の一層目の地図なら私がもうざっと拵えておりますしね。我らの《赤翼》に任せましょうよ。子供の通った痕跡を辿って宝物庫を探すくらい、あの娘は簡単にやってくれますって!」
アーデルハイトがまるで自慢の妹を誇るような口調で言う。
その声は過剰なほど明るかった。
必死で自分にそう言い聞かせているかのような声音だった。
親たちは短い話し合いのあとで、四枚の《白竜の鱗》を、施療院の外で待機するフレデリカ隊に託して地下迷宮のどこかへ戻してもらうことに決めた。
報告を受けた小市参事会も賛同したため、フレデリカたちは、アーデルハイト作成の地図を携え、埠頭地区の倉庫から地下迷宮へと入った。
そして、半日後に悄然と戻ってきた。
「二人とも、すごく言いにくいんだけど――」
施療院の入り口を挟んで内と外とで対峙しながら、フレデリカは本当に言いづらそうに言った。
「まさか見つからなかったの?」と、アーデルハイトが絶望的な声音で言う。
「まさか見つけたよ! 心外だな」と、フレデリカがむっと応じる。
「じゃ、何が問題なんですの?」
アマーリエがちょっとイライラしながら促すと、女傭兵隊長は深い長いため息をついてから、肩を落としたまま言った。
「狭いんだよ。宝物庫への入り口らしき通路が。察するにドワーフサイズなんだ」
「じゃ、人間には?」
「通れない」と、フレデリカはきっぱり言い、しばらく躊躇ってから、なぜかちらっとアマーリエを見てから続けた。
「子供以外は」