第四章 ドワーフの呪い 3
門の外に立っていたのは、緑色がかった褐色の毛織の外套をまとってこげ茶の革の背嚢を背負った背の高い男だった。暖かみのある枯れ草色の髪を一つに束ねて、髪よりやや色の濃い髭を疎らに生やしている。
男の背後にフレデリカもいた。
何となく申し訳なさそうな面持ちで細い肩を竦めている。
「……婚約者?」
フランツが戸惑い気味に呟く。
「ええ。当人が仰せになるには」と、フレデリカが答え、立ちはだかる青年の右側に進み出ながら訊ねてきた。
「アマーリエ、こちらの若殿はロージオン王国の騎士、シャルル・ド・ベルナールさまと仰せだ。あんたの婚約者――で、間違いないのかな?」
「なに、アマーリエ?」と、青年――推定シャルル・ド・ベルナールーーが目を瞠る。「アマーリエというと、わが婚約者たるフォン・ヴェルンの姫君か? 姫君はいずこにおいでに?」
と、青い目をきょろきょろさせる。
すぐ鼻先に立っている質素な青灰色の毛織のドレス姿のアマーリエの姿は館の備品みたいに素通りされる。
--何よこの方、わたくしの肖像画を見ているんじゃないの?
アマーリエはむっとしたが、すぐに思い至った。
今は顔の下半分を布で隠しているのだった。
「ベルナールの若殿、わたくしはここにおります」
苛立ちを隠さずに答えながら口元の布を外す。
途端、青年の目が零れんばかりに見開かれた。
肖像画で見た通りの明るい青い目だった。
勿忘草の青だわー―と、アマーリエは不意に思った。
シャルル・ド・ベルナールはその目を一杯に見開き、幾度か瞬きをしたあとで、まるで急激な吐き気にでも襲われたかのように掌で口元を抑え、背をかがめってウウウ、と呻いた。
アマーリエは仰天した。
「若殿!? どうなさいました、どこかお加減でも?」
「あ、いや、大事ない」と、シャルルは掠れた声で応じ、眉間に深い皴を寄せていきなりむせび泣き始めた。
「なんと、なんとお労しい……」
「……はい?」
アマーリエが反応に困っていると、シャルルはやおら顔をあげるなり、いきなりつかつかと足を進めてくる。
「あ、ちょっと、ベルナールの若殿!」と、フレデリカが泡を食った声で叫び、後ろからシャルルの右腕を掴む。「駄目ですって、隔離所に踏み込んだら出られないんですよ!?」
「かまわん! わが姫のおいでの場所であれば、このシャルル・ド・ベルナール、たとえ奈落の底であれお供いたすだろう!」
何やら朗々と叫ぶなり、気の毒なフレデリカの手を振り払って門の中へと入ってきてしまう。
そしていきなりアマーリエの前に跪いた。
「わが姫君、アマーリエどのよ。ご案じ召されるな。あなたがいわれなき罪を問われて名誉を奪われようと、酷薄な継母に疎まれて生家を追われようと、この世のすべてがあなたの敵に回ろうとも、必ずこの私があなたを御守りする故」
「はああ――」
「すごいわ――」
「熱烈ねえ――」
アマーリエが返答に窮していると、背後からため息みたいな声が重なって響いてきた。
はっと見れば、土のままの中庭に、アーデルハイト他三名のご婦人たちが群がって、目をウルウルさせながら口元に手を当てているのだった。




