バンパイアの女王、勇者に討伐され、転生する
私の名はミレニア。
美しきバンパイアの女王だった。
ある日、勇者パーティーに倒されるまでは。
油断したのよねえ。
まさかこの私の絶世の美貌に魅了されないとは思いもよらないじゃない?
最初に聖剣で一太刀喰らって、後はなし崩しに殺られてしまったの。
頑張ったんだけど、聖女の神聖魔法も地味に痛くて。
あっと言う間に白い灰にされちゃったの。
悔しい!
第一、卑怯よ!
私1人に複数で取り囲むなんて。
勇者と聖女と、あとえーっと誰だったかしら、何人かいたのよ、忘れたけど。
あ〜悔しい、情けない。
千年も生きてきた私がこんな風にあっさり殺られるなんて。
魔界の広報部長が『ミレニア? 彼女は四天王の中でも最弱でしたからね』とかコメントするかと思うと、悔しくて悔しくて。
悔しいから、黙って消滅なんかしなかった。
転生の秘術を施したの。
私はやればできる子なのよ。
一時的に死ぬけど、時空の間で微睡んで、魂が十分に癒されたら新たな生命として生まれることができるのよ。
転生前の記憶と人格とある程度の能力を維持してね!
新たな生命として生まれる以上、バンパイアには戻れないと思うけど、この際、贅沢は言わないわ。
美しければエルフでもOKよ!
そうして時満ちて私はこの世に生まれ出た。
ふむ、どうやら人間の赤子ね。
人間か〜。
ちょっとがっかりだけど、まあいいか。
人間にも美男美女はいるんだし、美しく育てばいいだけよ。
ところで、手足が上手く動かせないし、目もぼんやりとしか見えないんだけど。
これどうなってるのかしら。
もしかしてレベルアップしないとこうなのかしら?
人間って不便ね。
「生まれたか」
「可愛い女の子ね」
男女の会話が聞こえるわ。
さてはこの身体の親ね?
どれどれ、どんな親かしら。
顔が見たいわ。
魔法で視力強化してみましょう。
無詠唱で視力強化を発動させた私は次の瞬間、驚愕した。
男の方は勇者だわ!
女の方は聖女じゃないの!
おのれ、よくも私を殺してくれたわね!
今、この場で、前世の仇をとってやるわ!
いざ必殺の…
「なんかガン見されてんなー」
「今度は私に抱っこさせて」
「ホイ、落とすなよ」
何受け渡してんのよ!
必殺の攻撃魔法が止まっちゃったじゃないのよ!
「よーしよし、いい子でちゅねー」
いい年して赤ちゃん言葉喋ってんじゃないわよ!
いい年して…いい年?
ふと見た聖女の口元には小ジワがあった。
よく見ると目元にも。
あんた…老いたの?
あの頃はピチピチの美少女だったのに。
よく見るとお肌もくすんで…。
なんか…しんみりしちゃう…。
そうよね、人間って寿命が短いのよね。
きっともうすぐ死んでしまうんだわ。
短い命を燃やし尽くして。
産卵を終えた鮭みたいに…。
私は聖女を赦した。
「この子の名前、何がいいかしら」
「マリアとかでいんじゃね?」
ミレニアにしなさいよ!
ギン! と睨んでやった勇者に何やら違和感が。
こんな頭だったかしら?
…薄いわね。
気の所為ではないわ。
確実に来てるわ。
頭頂部が地肌見えちゃう感じね。
髪型で誤魔化そうとしても、私の目は誤魔化せないわ。
ヘルメットで蒸れるとなりやすいって聞いたけど。
生え際も、かなり後退してるし、男性ホルモンのせいね、きっと。
あっはっは〜。
ざまあみろってのよ、筋肉野郎。
私を殺したバチが当たったんだわ。
短い余生を残り少ない髪の毛を数えながら生きるのね!
私は良い気分で勇者を赦した。
(その日の夜、別の場所にて)
「赤ちゃん可愛かったわね」
「うーん、なんか変わった子だったぞ?」
「あら、そう?」
「表情が有りすぎだろ。目を丸くしたかと思えば、今にも殴りかかりそうな目で睨んでくるし、かと思えばしんみり憐れむような顔したり、また睨んだり、小馬鹿にするような感じで笑ったり。最後は赤ん坊らしく満足そうに寝たけど」
「そう言われれば表情筋がよく動いていたわね。新生児なのに」
「なんか変な物の生まれ変わりじゃねーの?」
「そんなこと言わないの。公爵様に失礼よ。初孫の名付け親にと呼んでくださったのに」
「へいへい、余所では言わねえよ。てか名付けなー。面倒だよな」
「可愛らしい名前を付けてあげましょうね」
「だな。あの子、変な名前付けたら絶対怒って殴りかかってくるぜ。駄々っ子パンチで」
「まあ、あなたったら」
勇者と聖女が親でもなんでもなく、祖父が名付けを依頼しただけの赤の他人であること、人間は小ジワができたり薄毛になったくらいでは死なないこと、体が丈夫なあいつらならもう後50年くらい生きるであろうことを私が知るのはかなり後の話になる。