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神眼転生 ~光と闇の物語~  作者: 照師
松の木の章 アバン
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琴姫の話

ある孤島の話です。

 海から遠く離れ、ぽつんと浮かんだ無人道には、たくさんの松の木が生えていました。

 その島には不思議なことが一つありました。松の葉が一つも落ちていなかったのです。

 それは食いしん坊のスライム達が松の葉を食べていたからでした。 

「スライムか、あいからわず君は食べてばかりだねー。あー琴の音が聞きたいなー、もう、流れてこないかなー」

「うまうま。琴かー、僕も聴きたいなー、どうしたんだろうねー。うまうま」

 毎日どこからか流れてきた琴の音が、ある日から流れがれてこなくなり、もう何日も聞こえてこなくなっていたのです。

「笛を吹いて聞いてみるか」

 松の木から精霊が出て来ると、男の精霊は笛を吹きました。

「琴の音を聞かせておくれ、私の笛が聞こえてますか?」

 待てども待てども琴の音は聞こえてきません。それでも松の精霊は毎日笛を吹きました。

 それはある晴れた日の出来事でした。急に天候が崩れて、荒れだすとひどい嵐になったのです。

 するとどこからか嵐の音に紛れて、かすかに琴の音が聞こえたのでした。

 松の木の精霊はすぐに笛を鳴らし、応えました。

 「琴の音が聞こえました。私の笛は聞こえていますか?」

 琴の返事はありません。

 それでも松の精霊は懸命に、なんども、なんども、笛を鳴らしました。

 しかし琴の音は聞こえてきません。

 それでも松の精霊は懸命に、なんども、なんども、笛を鳴らして呼びかけますが、笛の音は嵐の音にかき消されてしまいました。



 ある小国にそれはそれは美しい長い黒髪のお姫様がいました。彼女には不思議な力がありました。それは音をどこにでも運ぶことができたのでした。

 彼女がお城の自室から琴を弾いて音を運べば。遠くの町で喧嘩している人が、その音を聞くと喧嘩を止め。どこか遠くで悲しんでいる人がいれば、慰めてくれる音を運んで癒してあげました。

 いつからか彼女は琴姫と呼ばれ人々から敬愛されていました。

 そして彼女は松のおとぎ話が大好きで、琴を弾いては、松の木の無事を毎日祈っていました。

 ある日のことです。空から巨大な隕石が落ちてきて、二つに割れました。割れた片割れの隕石は隣の大国大和ヤマトへ落ちていき、もう片割れは遥か西の大陸へと落ちていきました。

 ヤマトの辺境に落ちた隕石は、辺りを焼き尽くし、やがて火が止むと、そこから瘴気が吹き荒れて、中から邪悪な竜が次々と出てきました。竜達は散り散りに別れ、ヤマトの国を隅々まで略奪し、都に集結するとヤマトの人々の抵抗も虚しく、国を乗っ取りました。

 ヤマトを我がものとした竜達は、次にヤマトの兵を使って周りの小国へと侵略しようとします。

 このとき琴姫は音を使って、国々をまとめ包囲網を作って対抗しましたが、竜達は次々と周りの小国を滅ぼしていきました。しかし、小国の中に最後まで抵抗した国がありました。それはエミシと呼ばれた琴姫の国でした。しかし多勢に無勢、敗北を悟ったエミシの重臣たちは姫を逃がそうと、東へ、東へと逃れました。

「エミシの兵は強者つわもの揃い、我一人で100人分なり」

 エミシの重臣の一人がそう叫ぶと、ヤマトの兵を次々と倒していきました。しかしドラゴンを切ると剣が折れてしまい、最後にその命を散らして時を稼いでは、姫を逃がしました。

 そして琴姫がなんとか逃げ延びて、海へ出ようと小舟に乗った時には、もう全ての家臣が亡くなってしまいました。

 彼女は涙を流しながら小舟を漕いでると、天気が崩れ、荒れだすとひどい嵐となり、荒れ狂う波が姫の船に襲いかかります。もうダメかと思ったその時、白い影が現れ、歌い出します。

「エミシの兵は強者つわもの揃い、我一人で100人分なり」

 その声に姫は正気を取り戻しました。そうです。この嵐はエミシの亡霊達が起こしていました。ドラゴンの襲撃から姫を守るためです。

 姫は琴を弾いて助けを求めます。

 しかしどこからも応答はありません。

 なんども、なんども助けを求め弾きました。

 しかしどこからも応答はありません。

 ついに姫は倒れてしまいました。

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