幼木~
荒廃した世界の話です。ここはかつて樅の木の原生林だった場所でした。その地下の空洞に1本のもみの木の芽が生えてきました。
彼が幼木のいたずらっこに成長すると、この子は上ばかり見上げていました。
「はやく大きくならないかなー」
天井には、かつてもみの木だったもの達の渇れ果てた残骸がいくつも重なっており、その隙間からは日の光がたまにしか入ってこなかったのです。
「大きくなったらあそこどかしてー、日の光をいーっぱいあびてー、お日さまいっぱいあびるんだー」
そこにかつてもみの木だったもみの木の精霊おじさんがあらわれました。
「ほら見てみー、綺麗な水だねー。砂もサラサラで綺麗だよー」
「えーそれもーあきたー、つまんなーいよツルッパゲおじさん」
グサ!
【精霊おじさんは心にダメージをうけた】
どこからか機械的な女性のアナウンスが、それは読者にしかわからない、それはそんな声だった。
話を戻します。
「禿げておらんわい、ほれ見てみー、1本生えとるわい」
もみの木おじさんは、誇らしげに見せつけてきました。確かに頭に1本の針のような葉が生えています。
「ハハハ、はぁー、僕あの向こうでいっぱいお日さまにあたりたーい、早く大きくなっていろんな世界を見たいんだー」
その話に飽きてきたもみの木の幼子は、乾いた笑いをしてため息をつくとそう言ったのでした。
「そうかい」
精霊おじさんは苦笑いしています。彼は枯れ果てたもみの木達から生まれた、いわいるモブキャラのパイセンおじさんAです。彼はただただ見守るだけでした。
━━━やがてもみの木は、若木のもみの木小僧になりました。
「早くでっかくなりたいなー、でっかくなってーあの天井を突き破るぜー、そしたら太陽いっぱい浴びてー、もみの木の神様になるー」
「ほらみてみー、綺麗な水だねー。砂もサラサラで綺麗だよー」
「俺は向こうの世界が見てみたいんよ、つるおじさん」
グサ!
【精霊おじさんは心にダメージをうけた】
「禿げておらんわい、ほれこれを見るんじゃ!」
もみの木の精霊おじさんは笑いながら一本の針葉を突きつけて見せました。
「ハハハー、はぁー、あの向こうにはなにあがあるんだろー……」
「水がー」
「ん?なにか言った?」
「なーんも」
もみの木おじさんはそっぽを向いて、苦笑いしています。
それからだんだんと、なにも言わなくなっていきました。それでも景色を眺め、一人言のようにおんなじ言葉をボヤきながら、ただただもみの木小僧を見守っていました。
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