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第十話:ロイドの意外な魔術

 今日も今日とてダイナは一樹の頭の上でその短い足を懸命に伸ばして顔を洗っている。

 その光景も見慣れたもので、三人は特に気にしないでいた。しかし昨日の件が起きてから一樹だけは、ダイナ行動を見続けるようになった。

 やはり自分があの獣に襲われずに済んだのはこいつのおかげなのだろうか。


「守ってくれたもんなぁお前」


 頭の上に腕を伸ばし、ダイナをなでる。嬉しそうに、みーと鳴く。


「それにしても、ガウサンドウルフがいるなんてなあ。よく無事だったもんだ」

「ガウサンドウルフ?」


 一樹は首をかしげる。


「お前の話を聞いた限り、そいつで間違いないと思う。ここ数年ここらには出没してなかったはずなんだけどな。腹でも減って降りてきたのかね」


 道をふさぐように生えている植物を払いのけ、ロイドが先を歩いている。

 横で一緒に歩いていたリィナが、


「私たちが偵察したところは何にもなかったのにね。群れじゃなくてよかったね、カズキ君」

「うん。けっこう危なかったけど。それで、今日もこの山を進んでいくのか?」

「そのつもりだったんだけど、ガウサンドウルフが出たってんなら別ルートから行こうかと思ってな。今は下山中だ」

「別ルートって、遠回りになるんじゃないのか?」

「まぁな、でも安全第一だからな俺らは」


 折れそうでなかなか折れない枝に四苦八苦しながら、ロイドは緩やかな坂を下りていく。

 下山するということは、草原を越えていくことになるのだろうか。特にこれといって運動をしていなかった自分の足は耐えてくれるだろうか。


「足場気をつけてねー」


 リィナに心配されながら、段差を飛び降りる。なんとなくなさけない。


「それじゃベッツに着く日ってあとどのくらいになるんだ?」

「うーん、あと三日くらいかなぁ。でも、運が良かったら行商人の人たちの馬車に乗せてもらえるかもしれないよ」


 是非ともその行商人の団体に出会いたいものだ。


「なぁリィナ」

「ん、なに?」

「俺に魔術教えてくれないか……?」

「え、いいけど、なんで?」


 リィナは驚いた顔をして一樹の顔を覗き込む。


「ほら、昨日みたいな出来事あっても自分じゃ何もできない、なんて嫌なんだよ。自分の身くらい自分で守れるようになりたいんだよ」

「それじゃあ私より、ロイド君に教えてもらったほうが……」


 リィナが指さす先では、鼻歌を歌いながらきょろきょろと首を動かしているロイドがいる。


「ロイドは……ほら、なあ?」


 あれじゃん、と一樹は言った。身も蓋もない。

 しかしリィナもリィナで、あー、と何となく納得したような表情になった。本当に友達なのだろうか。


「わかった、じゃあベッツの街に着いたら本格的に教えるね」

「ありがとう!」

「あれ……でもベッツに着いたらもう元の世界に帰るんじゃないの……?」

「そりゃ帰るけど、もう少しだけここの世界にいようかなって思ってるよ。せっかく来たんだし」


 元の世界に戻れるのが期間限定だったら別だけど、と付け加える。


「それじゃ魔術の基本を教えまーす。心してきくよーに」


 リィナはなぜか人にものを教える時、小学校の先生のような口調になる。


「魔術っていうのは、火をつけたり簡単な治療をしたりと幅広いものになってます」

「ふむふむ」

「でもそのすべてを扱える人はなかなかいません。なぜでしょー」


 知るわけがない。

 なのでわかりませんと正直に伝えたところ、リィナはふっふっふと笑った。


「得手不得手があるからです。もちろんこれは魔法にも言えることだけどね」

「へー、意外と不便なんだな。リィナは何が苦手なんだ?」

「私? 私はあれかな、炎系以外はあんまり得意じゃないかな」

「炎ってあれか、炎の柱を巻き上げたり……」


 だとしたら焼かれる前に、リィナへの態度を改めるかもしれない。女王様、とか。

 しかしリィナは首を横に振る。


「ううん、そんなに強い魔法はできないよ。それより、その得手不得手を判断するんだけど、ちょっと両腕前に出して」


 言われるがままに両腕を前に出す。前ならえをしているようで少し恥ずかしい。


「それで、えーと、目をつぶってもらいます」


 歩くのをいったんやめて、瞼を閉じる。強い日差しが当たるので視界は少しだけ明るい。

 と、伸ばした一樹の両指に何かが乗る感触。


「え、なに乗せたの?」

「あ、目開けちゃだめだからねっ! で、じっと乗った何かを意識してて」

「? まあやってみるけど……」


 なんだか自分は馬鹿馬鹿しいことをやっているのではないかと思い始めるが、それでも指に神経を集中させた。

 固く、ごつごつした感触。石ではないようだ。触るのをやめ、今までの人生の中で一番似た感触のものをひたすらに思い出す。

 枝、違う。筒、違う。芯、違う。

 完全に何かを思い出す前に、指に乗せられた何かは取り上げられた。何かがしまわれる音。


「はい、もう目開けていいよ」


 ゆっくりと瞼を開ける。


「なに乗っけてたんだ?」

「ひみつー。それで、カズキ君の得意なものだけど、特になにもありません」

「―――え?」


 予想外の言葉に一瞬反応が遅れた。それが驚いたのか、多少怖気づきながらリィナが答える。


「た、たまにいるんだよ、こんな結果の人。でも、こういう人って、身体能力とか知略とかが長けるんだって。ガロンさんもそうなんだよ」

「ガロンさんも魔術使えないの?」

「うん。魔術なんか無くっても俺にこの肉体がある! っていつも言ってたし」


 魔術を使う熊というのも個人的には見てみたかった気もする。しかし知略が長けるというのは納得いかない。ガロンに知略がないというつもりはないが。


「でもおかしいなー……、もうちょっとで結果出そうだったのに」

「そうなのか?」

「うん。なにか頭の中に風景とか思い浮かばなかった?」

「いや……特にないかな」


 なんでだろう、とリィナは頭をひねる。


「身体能力、か。別段変った様子もないけどなあ」

「気付かないところで変わってるんだよ、きっと。もしかしたら、もっとすごい何かがあるかもしれないし!」


 慰めなどではなく、リィナは本気でそう思っている。

 と、二人が歩みを止めていることにやっと気がついたロイドは、豆粒ほどの大きさからとは思えないほどの大声を叫ぶ。


「おーい! 何やってんだおまえらー! 先行くぞー!」

「今行く! そっか、ロイドのことすっかり忘れてた」


 歩き出して、ふと思いついた疑問を口にする。


「ロイドの得意な魔術は?」

「え? うーん……言っていいのかなぁ」


 そう言われると余計気になる。

 本人には黙ってるから、と一樹はリィナにしつこいほど頼み込んだ。その熱心さについに心が折れたのか、リィナは周りに誰もいないというのに耳打ちした。


「……魅了の魔術。効果は低いけど、ね」


 一樹はその言葉を聞いて、前方で待っているロイドをじっと見つめる。

 似合わん。

 心の中でそう呟いた。

次は明後日の9時を予想してます。

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