頑張るな
『花』
言えない傷を抱えた大人ばかりが生きている。
そんな世界に生まれた君は、傷つかないよう生きている。
温かな日差しを浴びて咲き誇る花にも失敗はたくさんある。
すぐ傍に物が置かれて日陰になるかもしれないし、雨が降りすぎて流されるかもしれない。
踏まれて折れて、萎れるかもしれない。
誰かがやってきて面白半分に踏みつけることもあるだろう。
突然工事が始まって、掘り返されて捨てられる。
そんな未来だってあるだろう。
だから、その日まで、淡々と力の限り咲き続ける。
生まれ落ちる場所を選べなかった君もまた、花だと思って咲けば良い。
『空を飛ぶ』
本当に空が飛びたいか?
空は寒いし、風除けもない。
空気は凍り付き、高く飛べば飛ぶほど死が近づく。
空を飛べたとしても人間であることは変わらない。
酸素だって必要だ。
地上で作られた汚染されたガスの中を、気持ち良く飛べるのか。
宇宙に近づけば、皮膚にだって悪影響。
有毒な空気を吸い、寒さに凍え、病気のリスクを抱えながら、そんなに空が飛びたいか?
そうだろう?思うだろう?
本当に、大人になるって、つまらない。
『矛盾する愛』
痛ましいニュースを見ながら考える。
私ならどうやって復讐するだろう。
死後の世界があるのなら、私は悪霊になるだろう。
復讐が悪だというなら、私は喜んで悪になろう。
大切なものを奪われた人の痛みを誰が本当に理解してニュースを見ているのだろう。
もし自分なら、この世界で一番残酷な復讐方法を考えて、一秒でも長く苦しめて生かしてやろう。
生きる方が辛いから。
死ねない方が辛いから。
この世界には一欠けらの幸せも残っていないだろうから。
地獄のようなこの世界で、一秒でも長く生かして苦しめ、それでも私は絶対に許さない。
そんなことを考えながら、私は娘に念を押す。
もし家族が殺されたとしても、絶対復讐してはいけないよ。
あなたの幸せを守りなさい。
憎い人のために、あなたの素敵な人生を一秒だって使わなくて良い。
幽霊になって自分で仕返しに行くから、あなたは何もしなくて良い。
ただ幸せに生きなさい。
『私は鬼』
机に向かう君を見て、きれいだなと考える。
真剣に戦う君は、いつだってきれいだ。
笑顔も素敵だし、さぼってしまう君も好きだ。
君に嫌なところなんて一つもない。
白状すれば、勉強をさぼってゲームをしている君だって可愛いと思う。
心配な気持ちがすごくこみ上げて来るけど、君のすることの全てが私には輝いて見える。
私が死んだ後も、君が笑っていてくれたらいい。
ただそれだけを心に願い、私は毎日、鬼になる。
『心臓を刺す』
冷え切った微笑みを浮かべ、私は何度も自分の心臓を刺す。
走り抜けと人は言う。
諦めるなと人は言う。
夢を持てと人は言う。
愛想笑いをするたびに、私は何度も自分を殺す。
それが普通で常識で、誰もが刃物を隠し持ち、自分を殺して平和を作る。
隠した心を何度も何度も切り付けて、自分が悪いと責め立てる。
許しは自分のためにある。
誰かを傷つけたいわけじゃない。
平和を望まないわけじゃない。
波風立てず静かに生きたい。
あなたはあなたのままでいいのだと、自分で教える他はない。
あなたの幸せを世界中の誰も願っていなかったとしても、あなたは胸を張って生きて良い。
その心があなた自身に誇れるものならば。
人の目を気にせず、刃物を捨てて、生きて良い。
『頑張る』
頑張りなさいと言うたびに考える。
頑張らなかったら負けなのか?
負けたあとだって人生は続くだろう?
頑張れなかった人生を否定しながら生きるのか?
頑張れない人間だ。頑張れない人間だ。頑張れない人間だ。
それは頑張れという言葉が生んだ呪いじゃないのか?
甘えるなと人は言う。
子供じゃないんだからと人は言う。
皆が出来ることがどうして君には出来ないのかと人は言う。
頑張れる人もいるだろう。
だけど、頑張れない人だっているだろう?
頑張れと口に出すたびに、頑張れなくてもいいと言いたくなる。
あなたはあなたのままで良い。
ただ、私はあなたに幸せになってほしいだけなのだと。
拙い文章を読んで下さり、ありがとうございました。