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切り札の男  作者: 古野ジョン
第三部 怪物の夢

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第四十一話 最後の壁

 試合開始前、雄大と森山は先攻後攻を決めるために顔を合わせていた。審判立ち合いのもとでじゃんけんを行い、大林高校が先攻に決まった。その後二人はメンバー表を交換し、互いに確かめ合っている。雄大は、自英学院のスタメンを注意深く眺めていた。


(やはり森山の先発は回避か。二番手の松下が八番に入ってるな)


 森山は「五番・左翼手」としてスタメンに名を連ねており、ミーティングで予想された通り先発投手ではなかったのだ。一方の森山は大林高校のメンバー表を眺め、少し驚いたような表情を見せていた。


「じゃあ、これにて一旦解散で。ナイスゲームを期待しているよ」


「「はいっ!!」」


 審判の一言に、二人は大声で返事をした。そして、各々のベンチに向かって歩き出す。二人が別れる直前、森山が声を掛けた。


「おい、久保」


「なんだ?」


「お前、投げるんだよな?」


 雄大は森山の意図を察した。「必ず投げる」と約束したのに、今日の先発投手じゃないじゃないか――と言わんばかりの表情の森山に対し、雄大はからかうように返事をする。


「さあね、うちの後輩は優秀だから。完封しちゃうかもな」


「ふん、すぐに引きずりだしてやるよ」


 そんな捨て台詞を残し、森山は去っていく。雄大はクスリと笑みを浮かべ、自分のベンチへと足を早めた。


 試合前練習の時間となり、まず自英学院の選手たちがグラウンドに現れた。ノックではキビキビとした動きを見せ、鍛え上げられた実力を示している。


「やっぱ動きいいな」


「他の高校とは違うな」


 一方で、雄大とまなは隅で投球練習を行う松下に視線を送っていた。松下は、直球を軸にチェンジアップとカーブを交えて打者を打ち取る三年生の投手である。森山に次ぐ二番手投手として、この大会でも多く登板していた。


「まな、どう思う?」


「調子は悪くなさそうだね。でも、すごく良いって感じでもない」


「だよな。森山が出る前に先制点を取りたいが」


 雄介はというと、各選手に指示を送る健二をじっと眺めていた。準決勝のときと同じく、健二は自英学院の選手たちの中でも十分に存在感を発揮している。


「やっぱり気になるのか?」


「な、なんだよあに……久保先輩」


「いや、ずっと健二の方見てるじゃねえか」


「まあね」


「喧嘩したままなのか?」


「別にいいだろ……いいじゃないすか」


「まあ、俺は別に構わん。変に力入れるなよ」


「分かってるっすよ」


 雄介はやや鬱陶しそうに雄大を追い払っていた。雄大と森山、そして雄介と健二。それぞれの因縁が、この決勝戦に横たわっているのだ。


 自英学院の練習が終わり、今度は大林高校の番だ。まなが中心となり、ノックを行っている。スタンドでは、神林と岩沢がその動きを眺めていた。


「自英学院には負けますけど、なかなかよくやってますよね」


「そうだな。俺がいた頃よりもずっと上手いよ」


「あの頃は竜司さんと先輩だけが飛びぬけてましたよ」


 二人がそんな会話をしていると、後ろからある人物が現れた。


「あれ、神林さんに岩沢くん?」


 そこにいたのは、松澤健太だった。彼は健二の兄で、去年と一昨年に自英学院の正捕手として大林高校と戦った人物でもある。


「おや、松澤くんじゃないか! 自英学院は三塁側だぜ」


「そうか、間違えたよ。でもせっかくだし、こっちで観ようかな」


「懐かしいなあ。竜司が君にホームランを打たれたの、よく覚えてるよ」


 健太は近くの席に腰掛け、二人と会話を交わした。現在の彼は東京の名門大学で野球をしているが、弟の姿を見るためにわざわざ駆けつけたのだという。一通り話したあと、岩沢が健二について尋ねた。


「君の弟はかなり打つらしいね」


「健二は俺なんかよりよほど才能があるよ。四番と聞いたときも驚かなかった」


 すると、今度は神林が口を挟んできた。


「俺もキャッチャーだけど、羨ましい限りだよ。捕手としてはどうだい?」


「肩も強いし、捕るのも問題ないですね。でも、経験値が足りない」


「へえ、そうなのか?」


「神林さんもお分かりだと思いますが、捕手として成長するには試合で実戦経験を積むのが一番です。アイツにはまだそれが足りません」


 健太ははっきりとそう言った。彼の意外な言葉に、神林と岩沢を顔を見合わせている。ここまで自英学院の投手陣を完璧にまとめ、打撃でも大きな貢献を見せている健二。一年生にしては十分すぎる活躍だが、それでも健太にはまだ物足りなかったのだ。


 大林高校の練習も終わり、両校のスタメンが発表される。観客たちは今か今かとその瞬間を待ちわびていた。スタンドはかなり埋まっており、この試合に対する期待感が大きいことがはっきりと示されている。


「先行の大林高校、一番、ライト、久保雄介くん、二番、セカンド、青野くん――」


「三番、ピッチャー、平塚くん」


 リョウの名前とポジションがコールされた瞬間、観客席がどよめいた。雄大の先発が予想されていただけに、観客たちにとって予想外のオーダーだったのだ。


「久保が先発じゃないのか」


「強気だな、大林」


 口々に驚きの声が上がる中、両校の選手たちはベンチでじっとその放送を聞いていた。大林高校にとっては甲子園に向けた最後の壁であり、自英学院にとっては二度も苦戦を強いられた相手との試合である。それぞれのナインが抱える思いは大きかった。


 間もなく試合開始の時間となり、両校の選手たちがベンチ前に並んだ。審判団が本塁前に集まり、号令をかける。


「整列!!」


「「「っしゃあ!!!」」」


 球児たちが一斉に駆け出し、本塁を挟んで向かい合うように整列した。互いに威圧感を放つように背筋を伸ばし、見合っている。


「これより大林高校と自英学院高校の試合を開始する。礼!!!」


「「「「お願いします!!!!」」」」


 両軍の選手が礼をすると、スタジアム全体から大きな拍手が巻き起こった。自英学院のナインが散らばって行き、各ポジションに就く。昼の試合ということもあり、気温は既に三十度を超えていた。球児たちは額に汗を浮かべながら、大きな声を張り上げている。


「お待たせいたしました。宮城県大会決勝戦、大林高校と自英学院高校の試合、まもなく試合開始です。守ります、自英学院高校のピッチャーは、松下くん。キャッチャー、松澤くん……」


 アナウンスで自英学院の守備位置と審判団が紹介され、球場の雰囲気はますます張り詰めていく。雄介は既にベンチを出て待機しており、松下の投球練習をじっと見つめている。まなは他の選手たちに対し、声を掛けていた。


「泣いても笑っても、今日が決勝戦。後悔しないように全力でね!!」


「「おうっ!!!」」


 ナインは威勢よく返事をして、彼女に応えた。スタンドではブラスバンドが演奏の準備を終え、その時を待ちわびている。全校から応援のために集まった生徒たちも、ワクワクした表情でグラウンドの方を見つめていた。そして松下が投球練習を終え、健二が内野陣にボールを回している。アナウンスが流れ、雄介が打席に向かった。


「一回表、大林高校の攻撃は、一番、ライト、久保雄介くん」


「雄介ー!!」


「出ろよー!!」


 雄介は左打席に入ると、ちらりと後ろを見た。健二もそれに気づき、睨み返すように視線を送っている。言葉はなくとも、既に二人の間で火花が飛び散っているのだ。


「プレイ!!」


 審判が試合を開始すると、スタジアム全体の視線が一斉にグラウンドへと集まった。健二は外角に構え、サインを出している。松下もそれに頷き、投球動作に入った。足を上げ、テイクバックを取る。右腕を振るい、第一球に直球を投じた。雄介はそれを見逃さず、素早くスイングを開始する。そして――


 快音とともに、打球がセンター前に抜けていった。

すごい今さらですが、大林高校の所在地は宮城県です。

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