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切り札の男  作者: 古野ジョン
第三部 怪物の夢

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第三十七話 三人と一人

 雄大のタイムリーのあと、芦田はレフトフライに倒れて八回裏が終わった。そして、試合は九回表へと進んでいく。この回、藤山高校の攻撃は八番からだ。


「一点取ろうぜー!!」


「頼むぞー!!」


 藤山高校のベンチからは、懸命な声援が飛んでいる。打者がバットを構えると、雄大も投球動作に入った。大きく振りかぶると、第一球を投じる。その豪快なフォームから放たれた白球は、唸りを上げて芦田のミットに収まった。


「ストライク!!」


 審判が判定を下すと、打者は目を丸くして驚いている。スコアボードには「155」の数字が表示され、またもスタジアムがどよめいた。


「ありゃ藤山はキツイぞ」


「全く打てるイメージがないな」


 観客たちもその投球を見ていろいろと話をしている。実際、藤山高校の選手たちの表情は冴えない。八回こそ佐藤が辛うじて内野安打を放ったものの、まともに雄大の球を捉えられた打者は誰一人いないのだ。


 結局、雄大は八番打者をあっさり三球三振に打ち取ってみせた。九番打者には直球でカウントを稼ぎ、最後にカットボールを振らせて三振を奪った。


「ツーアウトツーアウトー!!」


「いけるぞー!!」


 雄大は周りの選手たちとアウトカウントを確かめ合い、落ち着いた表情を見せていた。打順は一番に戻る。


「こっからこっからー!!」


「出ろよー!!」


 藤山高校の選手たちは大声で一番打者を励ましている。ツーアウトといえども、九回表。彼らにしても、簡単に攻撃を終えることは出来ないのだ。


 雄大は表情を変えずに直球を投げ込んでいく。打者も懸命に食らいついていくが、前に飛ばせない。あっという間にノーボールツーストライクとなった。


「追い込んでるぞー!!」


「落ち着いてー!!」


 リョウや青野がマウンドに向かって声を張り上げている。芦田がサインを出すと、雄大は静かに頷いた。打者は必死の表情でマウンドに対し、出塁しようと懸命な姿勢を見せている。雄大は大きく振りかぶり、その右腕を振るった。


「くっ……!」


 打者は声を漏らしながら、なんとかバットを合わせようとする。しかし、白球は鋭く変化して、スイングの軌道の下を通過していった。雄大の決め球、縦スライダーだった。


「ストライク! バッターアウト!!」


「っしゃ!!」


 雄大はガッツポーズを見せ、マウンドを降りていった。三者連続三振で九回表を抑え、藤山高校に流れを渡さない。彼はエースとしての役割を十分に果たしていた。


「ナイスピー雄大!」


「ははは、今度はナイスだな」


 ベンチでまなが笑顔を見せると、雄大もそれに応えた。一方で、藤山高校の選手たちもベンチを出て守備に向かっている。牧原は、センターに向かう前に金井に声を掛けていた。


「金井、六番からだ。気負うなよ」


「大丈夫だ。必ず延長に持っていくよ」


 九回裏、大林高校の攻撃は六番の中村からだ。応援団の声援にも一層熱がこもり、彼の背中を後押ししている。


「九回裏、大林高校の攻撃は、六番、センター、中村くん」


「決めようぜー!!」


「出てくれよー!!」


 中村は軽くバットを振りながら、打席に向かって歩き出した。先頭の彼が出塁すれば、得点の可能性が高くなる。サヨナラに向け、重要な役割を担っているのだ。


「プレイ!」


 審判が試合を再開して、金井は投球動作に入る。ノーワインドアップのフォームから、第一球を投じた。白球が外角に決まり、審判の右手が上がった。


「ストライク!」


「ナイスボール金井ー!!」


「いいぞー!!」


 中村は険しい表情になり、じっとマウンドを見た。ベンチでは、雄大とまなが金井の方を見ながら話をしていた。


「まな、金井はどうだ?」


「少し疲れてる感じはあるけど、球威は落ちてない。向こうは最後まで投げさせるつもりかもね」


「明日決勝だってのにエースを引っ張るんだな」


 決勝に備えてエースを温存していた大林高校に対して、藤山高校は金井を投げ続けさせている。前者は明日を見据えており、後者は目の前の試合に全力を注いでいるのだ。そのどちらが勝るのか、スタジアムの誰にも予想がついていなかった。


 そうこうしているうちに、中村はワンボールツーストライクと追い込まれていた。最後にはカーブを投じられてしまい、空振り三振となった。


「ストライク! バッターアウト!!」


「オッケー!」


「ナイスピー!」


 ナインは依然として金井の投球に翻弄され、なかなか捉えることが出来ていない。続く七番の加賀谷もサードフライに打ち取られ、これでツーアウトとなった。


「八番、サード、森下くん」


「出ろよ森下ー!!」


「一発打てよー!!」


 森下はネクストバッターズサークルから小走りで右打席に走って行く。その様子を見て、雄介はまなに話しかけていた。


「この打席、ちょっと面白いすね」


「え、ツーアウトなのに?」


「森下先輩、ああ見えてパワーあるじゃないすか? 一発狙ってるかもっすよ」


 雄介の言う通り、森下には長打力がある。確実性に欠けることから八番を打っているが、二死走者なしという場面では相手にとって怖い打者なのだ。


 藤山高校の捕手は森下の様子を窺いつつ、低めに構えている。金井もそれを見て投球動作に入り、第一球を投じた。低めのストレートだったが、森下は打ちに行く。タイミングが早く、打球は三塁線を切れていくファウルボールとなった。


「いいぞ森下ー!!」


「振れてる振れてるー!!」


 森下は軽くバットを振り、スイングを修正していた。続いて、金井は外角のボール球を投じる。森下はしっかりと見逃し、ワンボールワンストライクとなった。


「見えてるっすね」


「うん、たしかに面白いかも」


 雄介とまなは、森下に対して期待感を抱いていた。三球目、金井は緩いカーブを投じる。白球が山なりの軌道を描き、本塁へと向かっていくと――森下は鋭いスイングを見せた。カーンと快音が響き、打球が左方向に高く舞い上がる。


「うおっ!!」


「いった!?」


 二人は大声を上げ、打球方向を見上げている。金井も青ざめてレフトの方に振り向いたが、打球は僅かにポールの左を切れていった。


「ファウルボール!!」


「惜しい~!」


「いいぞ森下ー!!」


 二死走者なしという状況ながら、大林高校のベンチが徐々に盛り上がっていく。金井はヒヤッとしたが、ほっと息をついてマウンドに戻っていった。


 金井は四球目に外角のストレートを投じたが、これは外れてツーボールツーストライクとなった。森下は引き締まった表情でマウンドの方を向き、集中している。バッテリーはなかなかサインを決められなかったが、やがて金井が頷き、捕手がインコースに構えた。


「来るっすね」


「勝負する気だね」


 二人も息を呑んで見守っていた。金井は大きく息を吐き、投球動作に入る。そして力強いフォームで、第五球を投じた。力のあるボールが、インコースに向かっていく。


 森下はその球を見て、スイングを開始した。タイミングはしっかりと合っていたが、ボールがさらに内角へと食い込んでいった。森下は対応しきれず、バットの根元に当ててしまった。鈍い音が響き、ぼてぼてのゴロが右方向に転がっていく。


「セカン!!」


 捕手が指示を飛ばすと、二塁手が落ち着いて打球を捌いた。彼はしっかりと一塁に送球して、森下をアウトにしてみせた。これでスリーアウトとなり、決着がつかないまま九回を終えることになった。


「よく抑えたぞ金井ー!!」


「ナイスピー!!」


 藤山高校の応援席からも、金井のピッチングを讃える声が飛んでいた。しかし当の本人は、息を切らしてやや苦しそうにベンチへと戻っていく。


(金井くん、今の打席で消耗したみたいね)


 その様子を見たまなは、投球練習をしている雄大を呼び寄せた。


「まな、どうした?」


「次の十回、全力で抑えて」


「え? そりゃもちろん」


「そうじゃない。金井くんはかなり消耗してる。十回裏で勝負を決めたい」


「十回表はさっさと終わらせろってことか?」


「そういうこと。金井くんに休ませる時間を与えないで」


「おう、がってんだ」


 グラウンド整備が終わると、雄大はマウンドの方に向かっていった。この大会、大林高校にとっては初めての延長戦だ。ここから先は、相手に一点もやれない緊迫した状態が続いていく――

今日のエピソードで通算100話目となりました!

実は、この作品は一年生編で完結させる予定でした。しかし予想よりもはるかに多くの方々に読んでいただき、二年生編、そして三年生編と書き続けることが出来ています。

読者の皆様、本当にありがとうございます! これからもどうぞよろしくお願いします!

最後に勝手なお願いですが、評価や感想などいただけると執筆の励みになります。どうぞお気軽にお寄せください!

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