ペンダント
1つの爆弾を拾った。
長身の彼とは対照的で小さな爆弾である。
「なんでこんな近所に……」
幸いにもまだ冬が明けたばかりで、早朝6時にも関わらず辺りは生活道路を挟んでおり真っ暗。キジバトの独唱や虫の音がバックグラウンドミュージックのように馴染んでいる。
「妙な背徳感だな……まあ、その……。これは確認、これは確認なんだ」
自身を納得させ、手中に収まる爆弾を興味本位で動かす。
ひと昔前にSNS上の大きなお友達が言っていた、『空から美女』ならぬ『ゴミ捨て場に爆弾』の状況になんだか笑えてきた。
うぅ、という声が漏れた、気がした。ぱっ、と反射的に手を放してしまい、『爆弾』がコンクリに打ちつけられてしまう。
「ちょっと……、なにすんのよ!」
『爆弾』による襲撃右フックが彼のこめかみへ到着。反射でしゃがむ彼への攻撃は刹那というべきだった。痛みで蹲っている間に『爆弾』は挙動不審ながら自身の纏うセーラー服をはたき、確認している。
「ねーえ、ねえってば。私のペンダントしらない?」
「はあ? まず、どついたこと謝れし、あと知らん」
「あのさー、女の子にその態度なくない? 絶対モテない。キノコみたいな頭だし」
「これはマッシュなの。ったく、爆弾だからって脳筋かよ」
そう言い切るとネットフェンスにもたれ、背中を預け、煙草を取り出し火をつける。
少し肌寒い為、吐息と煙草の白煙が薄暗い闇へと混ざり、消える。
何も言い返さなくなった『爆弾』にどうした? なんて問うと声を絞り出してきた。聞こえずらいので聞き返すと「何で知っているのよ」と語気を荒げる。
街灯の白い光が瞬きをした。
「……爆弾のこと」
適当に相槌を打った。
そして、「だってさ」と続けて煙草を加え指をさす。
「背中に思いっきり張り紙されてるし」
え? と驚嘆が重なる。
勢いよく立ち上がる『爆弾』は自身の由来と直面する。チラシの裏地に赤ペンで記載された『爆弾』に体を震わせているではないか。
マジで最悪、と幾度か深いため息交じりに紙を勢いよく破り始める。
「寒い」
には、「だろうな」と相槌を返す。
「紳士さないの? 君さ」
「ガキは嫌いなのでね」
ムキッー、と声に出す爆弾こと彼女は悔しさからコンクリを叩く。
「暇でしょ」
「煙草で忙しい」
間髪入れずに答えた。それに、と言いかけて辞めた。
彼女は立ち上がり、手で煙を払いながら彼へ詰め寄る。
「煙草と初対面の私どっちが」「煙草」
破られて丸められた紙の塊が投擲された。
なんだよ、と怪訝そうにする彼。
「言いかけたの何? 気になるとゴミ捨て場でしか寝られないんだけど」
「それは重症だな。まあその、素性も分からないやつの――」
「凛々。以上。」
「いや締め方履歴書か」
「ほら、手伝ってよ」
煙草の火が手元にまで迫り、少し湿ったアスファルトへ擦りつける。
ポイ捨てダメ、と注意され舌打ちし、ポケット灰皿を取り出した。
彼は手櫛をして、空を見上げて、ため息をこぼした。
「うわっ、人に頼られているのに態度がちょー面倒臭い人だ」
あのなー、と凛々へと視線を送る。
「人に頼む時ってのは面倒くさいんだよ。だから殆どの事柄は自分で解決しなきゃいけないんだよ。煩わしい指標が高くなるにつれて比例していくの」
分かった、分かったよ、と流す強心臓に彼はしかめっ面で対応した。
「じゃあ、おじさんの名前は?」
そっぽを向いたはずの彼の視線が再度、凛々へと注がれる。
「お兄さんの名前は春だ。春夏秋冬の。分かったかガキ」
「煙草吸ったらおじさんだって親戚のおじさんの友達の親戚の奥さんが言ってたもん」
家系図はみ出してるじゃん、というツッコミはスルー。
凛々は自身の影のシルエットを踏み、両手を天へと突きあげる。
先ほどまでゴミ捨て場で寝て過ごしていたとは思えないツヤのある髪質と小さな身体に疑問が浮かんでいた。
「マジガキ?」
は? 意表を突かれたのか、口が半開きのまま視線が重なる。
「いいから探すよ」
ボリュームの少し多いボブヘアーが揺れた