レイ PART1
題名は、遠い先の伏線です。
(多分)
セルブ連邦国都市、ミザレア。そこに俺はいた。
何故ここにいるかって?俺も聞きたい。
ただ、理由ならわかる。
―――レイグがここにやったのだ。
俺は、父親がくそだ、というジンクスにでもかかっているんだろうか?
かかっていなければいいのだが、結局は俺がひどい目にあうらしい。
ずっと振り回されるのは俺の人生、変わらないのは命の尊さ。
其のことを聞かせてやりたいものだが、恐らくは「【そんなものだろう?】」と二重奏で言われそうな気がするので、萎える。
ともかく、何故ここに来させられたのか?
それは、今目の前にいる奴が関係していた―――。
―――
「.........」
「...ええと...。」
目の前にいる奴と、俺の初の会話はそれだった。
なんとなーくぶすっとしたような表情を取るその男は、
「...アイツの差し金か」と呟く。
「アイツとは?」そう問いてみると、
「レイグの事だ。私は奴の兄でな、まああんな男弟だとは思っていないが」
驚きの回答が得られた。
まさか、あんな自由奔放なイメージの男が弟だったとは。
「...とにかく、お前の名は何だ?あと、心を隠す必要はない」
その言葉に『嘘を言っている場合、お前をどうすることもできるのだぞ』と言われている気がして、素直に言うことにした。
「レイヴンだ。それと...氷華威亜」
その言葉にさして驚いた様子もなく、ただ「...そうか。私に付いてくるがいい」その二言のみを発して、どこかにすたすたと歩いて行った。
それに素直についていき、俺は目の前の男がとてもやさしい事に気付いた。
何故か。それは、俺の歩幅に合わせて時々止まっては、俺がしっかりと付いてきているかを見てくるからだ。
レイグの『優しげな表の皮』を見てきただけに、そう言った不器用さと言うものがおかしかったが、少なくともこちらの方が信用に足る男だ、とは常々思わされることになりそうだとも思った。
―――
「...ついたぞ」
「...此処って、確か...。」
俺が何かを言うよりも早く、「そうだ」と言う男。
名を聞いていなかったためにこういう言い方しかできないが、俺は目の前の場所に少しだけ驚愕していた。
そうだ、という事にはそうなのだろう。
此処は―――。
「...奴にはお前に魔物の倒し方と言うものを伝授しろ、と言われている」
―――魔物の森、とレイグが語っていた森だ。
「...。」
俺が驚きで何も言えないでいると、
「...まだ、魔物と言うものが怖いか?」
優しく、男が訪ねてきた。
確かに、魔物は怖い。だがそれ以前に―――。
「...いや、剣を二本くれれば何とかするさ」
「...良いだろう」
―――俺のこの世界での努力があの世界にどれだけ近づいたか、それを図れると思うと胸が高鳴った。
―――
「...若いうちにしては、上々だ。
この程度であるのならば、現段階でも騎士になることは可能だろう。鍛錬を怠ることが無ければ、『至高の剣聖』と呼ばれた、ア・バオカに並ぶことも可能だろう」
約1時間、俺を横で見続けた男は、そう言った。
けなされているのかどうかは分からない。だが、なんとなく不器用なのだろうと思えるこの男だ、恐らくほめようとしているのだろう。
それにしても―――。
「ア・バオカって誰だ?」
「...ああ。奴は、私が奴を一騎打ちにて打ち倒すまで、『至高の剣聖』と呼ばれ最強の名を一途だにしていた男だ」
...なんとなくだが、レイグがなぜこの男に俺を任せたか分かる気がした。
そういうほどに剣が強いこの男に、剣を習ってこい。
そういう事なのだろう。
いや、単純に俺が邪魔だっただけかもしれないが...。
―――
因みに、俺はア・バオカの事を男に許可を得て聞き出しに行った。
実在する人物だったが、『古今無双の剣豪』レイ・ファルジャに敗北し、今は小さな町の町長をしているらしい。
よく魔物に襲われるらしいが、そのたびに町長が追い払っているらしい。
また、剣を持たないものはいないらしい。
帰った後、男に「あんたの本名はレイ・ファルジャって言うのか?」と聞いた。
「...私はその名は捨てた。私の名など、もうない。だが―――」
そこで一呼吸置くと、珍しい笑みを浮かべてこう言った。
「―――お前がレイと呼びたいのなら好きにするがいい、レイヴン」
レイの笑みを見るのは、これから一桁もなかった気がする。




