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剣術試練―――?

一切の容赦のないレイグと、それに泣く泣く―――と行かなくても胸式呼吸をしながら付いていく俺。

去年の春からすっかりなじみとなった光景だが、今年からはある物が入る、と昨日レイグから伝えられた。


「ようやくレイヴンも僕についてこれるようになったからね、これからは剣術も行っていこうかな」

そう、俺の大得意ともいえる唯一のもの、剣。

それが、遂に解放されるのだ!

これを喜ばずして、何に喜べというのか。


その開放が、明日行われる。

そう思うだけで、今晩は眠れなかった。



―――



朝の日課であるランニング+筋トレの二種類をこなしてから、家の庭にいくと、そこにはすでに木刀を持ったレイグがいた。

「ようこそ、剣術訓練場へ」

レイグは前置きをそう語ってから、続きとばかりに木刀を渡そうとし―――そして、二本両方とも俺の方向に飛ばしてきた。

それを難なく受け止めると、「お父様、もう一本下さい」と我儘とも受け取れる言葉を放ち、レイグはそのままに木刀をもう一本持ってきた。


「まさか、両方を振る気じゃないだろうね?」

仰る通りです、パパン。

まあ、そのように馬鹿らしく言えるわけもなく、「勿論です、お父様」と馬鹿正直に答える。


「...成程ね」

すうっと目を細めるレイグ。

なんだかそれは俺を見定めているようで、少しだけ恐ろしかった。

「...まあ、最初は片方で動かせばいいと思うよ?僕も小さい頃は双剣使いになるんだー、って夢見てた時もあったけど、結局片手剣に落ち着いてね」

俺は両方振ってたがな!

だが、そんな俺の心の声が届くわけもなく、「さあ、素振りしてみて」とレイグに急かされるままに剣を振るう。


その様子を見たレイグは、些か意外そうな顔をしていた。

今日ぶんの剣術訓練を終えると、レイグは語った。

「...まさか、僕の子にこんな才能があるなんてね。

最高に素晴らしい子だ。この才能があるなら、王子の剣術指南役も夢ではないんじゃないかな?」

俺は自由気ままに剣をふるいたいものだが―――そのような事、レイグの耳に入れたらさらに厳しくなるだろうと思って口を噤む。


だ・が。

「...ここまで才能があるのなら、もっと毎日の剣術の時間を増やしてもいいかもしれないなあ...。」

と、悪い顔をしながらそう呟くレイグが見えてしまい、俺は急いで言い訳を用意する。

「いやいや、前たまたまお父様が剣を振っているのが見えてまねて上手くいっただけで、才能なんてありませんよ!」

「いいや、すぐに真似られるのならば、覚えやすい子供のうちに剣術の基礎を仕組んだ方がいいだろう?」

「そ、それは...。」

「ともかく、明日からは朝練をもっと多くする。励むように」


何を言うにしても、裏目に出る可能性の方が高い、でなくても言い包められてやらされる。

おとなしく従うほか俺には残されていないと、俺は遅まきながら気づいた。



―――



前の冬で思ったことは、この場は夏と冬の温度差が言うほど大きくないということだ。

農村が下に広がる中、上にあるここは川の上流と言う事もあって裕福な町となっていた。

伯爵がここにいるのもおかしい話だが、「僕が支配なんてしたくない、って言ったらせめて辺境伯にするって言われてね」という話から王族からの最大限の配慮だったことが分かる。

ともかく、夏の温度が最大でも25度ほどで、冬が氷点下5度程まで下がることから、ここら辺は東ヨーロッパ当たりなのだろうか、と考えさせられる理由にもなった。


その冬にも下の農村まで下りて、坂上の家に戻る朝のマラソンがどれだけ辛いかもわかってもらえるだろうか。

...往復6キロ程度ではまだまだ足りないね、と語るレイグが俺には異物に見えた。

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