身近な旅路の終わりには
ユキが俺の許に来てから3年。
ユキは少女と言うほど若くない―――とはいうが、俺と同じか、少し上ぐらいの年齢のようだ。
意外なことだが、こうやって俺の横で双剣をふるっているユキを見ていると、何故か幸せに思える。
こうして平和に―――しかし安全とは言えない状態での行動が、一番俺には似合っているのかもしれない。
「イア?起きてるー?」
「...あ、ああ。寝てはないぞ」
「ほんとに―――?」
嘘を咎めるような顔をしているが、実際俺がさっきまで寝ていたのもあってか、これ以上何かを言う気にはなれなかった。
ともかくユキはそれで満足したとまではいかないまでも納得はしたようで、何とか追及をやめてくれた。
それで命拾いしたとため息をついていると―――「...寝てたんだよね?」と、笑顔で聞いてくるものだから敵わない。
どうせ、こうやって二人暮らしする中ではずっと俺の方が弱いんだろうなあ、と思うと、尻に敷かれる旦那と尻に敷く妻、という図が出てきて、俺はつい頭を振る。
―――いつか、そうなってもいいと思える人がいたような気がしたが―――思い出せない。
ただ、彼女の笑い声は―――ユキと同じもののように思えた。
―――
年齢的には俺もこの世界での成人をしたわけだが、元の世界では俺はまだ成人していなかった気がする。
斉太のせいで12年も別世界に居させられたせいか、現実で俺がどこまで年を取っているのか理解できない。
そういえば、今由紀は何をしているのだろうか。もしかすれば、ユキがそうなのかもしれない。
「いや、ないか」一人呟き、俺は言う。
ユキに変な目で見られたが、それでもいいか、と思った。
と、久しぶりに家の戸が開けられる音が聞こえた。
此処に来るのは決して少ないわけではない。
下は酒や薬を揃え、魔物の素材を売り、たまに鍛冶の真似事もするなどいろいろなことをしていた。
だから、酒飲みや老人、それに魔物素材で防具や靴を作ろうとするような奴、それに剣がボロボロになった奴などの様子を見るのも俺の楽しみだった。
が、下の奴はそんなのではなく、俺の名前を呼んでいた。
誰なのだろうか、と思っていると。
「...久しぶりに見えることになるのではないのだろうか、威亜?」
そう、今まで聞いてこなかった野郎の声が聞こえた段階で俺は耳を塞ごうとしたが、やはりと言うかなんというかその声は俺に言ってくる。
「...君はこの世界でようやく由紀君と邂逅したようだから連れ戻しに来たのに、元の場所にいないのだからな。困り者だよ」
結局、この世界に入れるのもここまでのようだった。
最後にレイとレイヴァの顔を拝んでおきたいものだったが、それも叶いそうにない。
―――書いているこちら側からすれば、こんなに直ぐだったのか、と思える事象でもあったのだが―――時間の流れと言うものは非情だからそんなものなのかもしれない、と今更思う。
ま、その後は普通に帰っていった。
現実時間から1か月程度しかたっていなかったのは僥倖と言えるかもしれないが―――まあ、現実時間とは引き裂かれてしまった。
その分、由紀の意外な所を見れたのが良かった。
その点で気持ちが変わらなかったのも―――それが俺のいいところだった。
...これで―――終わり...?