9話「宝石、その力を活かして」
あれから数ヶ月が経った。
今も私は魔道具屋の店主として忙しい日々を送っている。
そうそう、そういえば。
前にローレットから貰ったキラリンヌルリンから採れた宝石の粒のようなあれは指輪にしてみた。
もちろん、ただの装飾品の指輪ではない。
というのも、色々調べていってみたところキラリンヌルリンが落とす粒には色ごとに異なる種類の魔力が宿っているようだったのだ。で、試しに一つ使ってみると、確かにその欠片から魔法を発動することができた。そこで、これは指輪にしよう、と思いついたのだ。
指輪であれば苦労なく常に持ち運ぶことができる。
身につけていれば魔法を使える――それはかなり便利だ。
「こんな感じになったわ」
「うわぁ! 綺麗!」
今はその完成した指輪たちをローレットに見せているところだ。
そもそもこれは彼が入手してきてくれたものだ、彼に見せなくてどうするというのか。
「これも魔道具?」
「ええ。昨年の魔物本にキラリンヌルリンが載っていたから、これが魔力を持ったものだということが分かって。それでこういう形にしてみたの」
「魔力があったのかぁ……ただ綺麗なだけかと思った」
「ふふ、そうよね。本のおかげで正体が分かって良かったわ」
いくつもある指輪を彼の目の前へ出して見せる。
「どれかいる?」
「え、僕!?」
こうして指輪型に仕上げていてもなお、欠片はキャンディのようだ。
光を浴びればきらきらと輝いている。
「そうそう。こんなにあってもあれだし……」
「それはエイリーンさんにあげたんだよ。だから僕はいいよ」
遠慮しているのか、本気でそう思っているのか――いや、真っ直ぐな彼のことだからきっと本心なのだろう。
「そう?」
「エイリーンさんが気分に合わせて使って?」
「そう……」
「嫌かな!?」
「いえ、でも……」
「言いたいことがあるなら言ってよ~?」
「お揃い、とか、どうかなって……」
すると彼はハッとして目を光らせる。
「それいいね!!」
驚きの大声だった。
思わず心臓が大きく一度鳴ったほど。
その時、扉が開く。
店内へ入ってきたのは常連客の女性だ。
「こんにちは! 久々に来てみましたー」
彼女は若々しく美しい人だが家庭を持っている既婚者だ。
以前本人から聞いた話によれば、夫婦仲は良く、子も複数人いるらしい。
「こんにちは、来てくださりありがとうございます」
確かに彼女はとても美しい人だ。それに気さくで性格も良さそう。だから旦那さんもきっと彼女を愛おしく思っていることだろう。他人の私からしても、幸せな家庭だろうなと想像できる。私が彼女の夫だったら、多分、一日中一緒にいたいなどと思っていたことだろう。
「新商品、ありますー?」
「どういったものがご希望でしょうか」
「えーと、何というか、家族で楽しく使えそうなものとかー?」
柔らかく微笑む横顔さえも整っていて美しい。
「そうですね……瞬間湯沸かしとか、魔法で綿菓子製造とか、壁天井兼用のライトアップとか、ありますよ」
視界の端に入っているローレットは少々退屈そうにしている。
「へぇー! 興味ありますー! 見てみてもいいですか?」
「はい、ではこちらへどうぞ」
けれども今は接客優先だ。
「あ、ありがとうございますー。って、うわこれ素敵! デザインが良いですねー、って、あ! こっちも! 綺麗ですね。で、こちらは? ああ、綿菓子作る道具ですかー。へぇ、面白そうですねー」
もっとも、接客、なんていうたいしたことはしていないのだけれど。
で、女性はというと、綿菓子作り道具を買ってくれた。
彼女はいつも購入後さっさと帰ってしまう。
でもそれは感じの悪いことではないのだ。
彼女はいつだってそんな感じ、それが彼女の普通なのである。