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8話「気持ち、伝え合う」

「エイリーンさん、ごめんなさい。本当に……。何というか……婚約者だとか何とか嘘をついてしまって」


 嵐が去った後、ローレットから謝罪を受けた。


「いいの。追い払うため、でしょう?」

「う、うん! 伝わってた?」

「ええ! だから私もその話に乗ったのよ」

「ああ~! 良かった~! そういう作戦だと伝わってて~!」


 ローレットは安堵したようで急に脱力してへなへなダンスを踊り出す。


 右足を外へ開く時、右肩を外側へずらし、少しして右腕をしならせながら肩と同じような向きへ動かす。その逆も同様。力みのない四肢の動かし方で、昆布が揺れるみたいに舞う。滑らかに、しっとりと、しかしながら自然な重みがはっきりと感じられるように。


 何をしているのだろう? というような動きだった。


「ええ、もちろん。伝わったわよ。こちらこそ、まるで婚約しているかのようなことを言ってごめんなさいね」


 あの時は厄介なアズを追い払うことに必死でローレットの気持ちなんて考えている余裕はなかった。


「いやいやいや!」

「不快だったかしら? もしそうだったらごめんなさい」

「そんなこと! ないよ! 不快だなんてあるわけがないっ」

「急に声が大きいわね……」


 よく見てみると、ふと、彼の顔が赤いことに気づく。


「ねえ、何だか顔が赤くない?」

「えっ!?」

「気のせいだったらごめんなさい。でも……何だか少しそんな風に見えたの。大丈夫? 体調不良ではない?」


 問いを放ってみるけれど、ローレットはすぐには言葉を返してはこない。

 なぜかもじもじしている。

 いつもの彼なら晴れやかに元気にすぐ答えてきそうなものなのだが。


 言いづらいことを抱えている、とか?


 内心首を傾げていると。


「あ、あの……」


 彼は勇気を振り絞るようにして声を出し始める。


 声が小さい、それだけでも十分不自然だ。

 だっていつもの彼はそんな大人しい人ではないから。

 何をどう考えても、今の彼は彼らしくない。


「言いたいこと、言ってもいいかな」


 ローレットは私の顔へと視線を向けてきた。

 女性の唇を彩る紅のような色をした瞳がこちらをじっと捉えている。


「その……実は僕、君のことが好きかもしれないんだ」


 聞き間違いかとも思ったけれど。彼の表情を見ていたら、聞き間違いではなさそうだ、と察することができた。だってとても恥ずかしそうな顔をしている。それに、目を凝らしてよく見てみると唇が微かに震えていた。


「それは……どういうこと?」

「アズさんがやり直そうとか言っているのを聞いた時、何だか嫌だった。それで気づいたんだ。僕は君を欲しているのかもしれない、って」

「本気なの」

「うん。多分僕は……君が、エイリーンさんが、欲しいんだ」


 彼の言葉はどこまでも真っ直ぐで惹かれる。


「私も」


 自然に口が動いた。


 言うべきか否か、それは分からない。

 けれども言わなくてはならないような気がして。

 たとえ、まだ確かなものではないとしても。


「ローレットのことは嫌いじゃないわ」


 視線は重なり、二人きりの世界が生まれる。


 私たちの心は、今、重なりあっている――かもしれない。


「エイリーンさん、僕の特別な人になってくれないかな?」

「正直、今はまだ、はっきりとは分からない。でも……私も貴方に惹かれてはいるわ」

「好きだよ」

「ありがとう」

「それだけ!?」


 まさかの突っ込みにロマンチックな空気が一気に去ってしまった。


「え。だって、好きと言われたら、ありがとうと返すでしょう」

「そうかなぁ」

「おかしいかしら」

「ちょっとずれてるような……」


 難しいな、色々。


「ごめんなさいね。でも私も貴方のことは好きよ」

「良かったー!」


 誰かと手を取り合って行く未来。

 そういうのも悪くはないのかもしれない。


「あ、そろそろ準備しなくちゃ」

「準備?」

「ちょっとやらなくちゃならない作業があるの」

「今から!?」

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