7話「嵐、過ぎ去るまで」
「っ!?」
「さっきから話を聞いていましたけど、あまりに酷いです」
「何だお前!?」
「ふざけた話ばかりして。いい加減にしてくださいよ」
怒ったローレットが剣をアズへ向けていたのだ。
「そんなくらいで武器を向けるか!?」
「取り敢えずエイリーンさんから離れてください」
「はぁ? 何様のつもりだ、お前」
「僕ですか? 僕は将来の夫! エイリーンさんの婚約者ですよ!」
えええー!? と思ったけれど、これもまた彼の作戦なのだろう――ならばそれに乗っておいた方が良さそうだ。
判断して、口を開く。
「そうなんです。実は私、もう、婚約者がいるのです」
ここはローレットの発言に乗る!
後でどうなっても知らない。
今はそんなことを考えていられる状況ではない。
「なっ……何だと!? こんなちんちくりんと!?」
いや、それはさすがに酷い。
「婚約者を侮辱するのですか。アズさん、さすがに失礼ですよ」
「ぐっ……」
「ま、そういうことですので、私はアズさんのところへは戻れません。すみませんがもうそろそろお帰りください」
するとアズは急に眉尻をかっと引き上げる。
まるで鬼のような顔つき。
見るからに優しさなどなさそうな面持ち。
「はん! もういい! お前なんぞどうでもいい!」
くるりと身体の向きを変えて入り口の方へと進んでいく。
「二度と来るか!!」
彼は足の裏で強く地面を踏んでから出ていった。
扉は開けっ放しで。
「はぁ~、疲れ、たぁ~」
へにゃりと座り込んでしまう。
「大丈夫!? エイリーンさん!?」
ローレットは、剣はその場に捨てて駆け寄ってくる。
「……ええ、平気よ、何でもないの」
彼は真っ直ぐな心で私のことを心配してくれているみたいだ。
だからこそ、少し申し訳なくも思う。
心配なんてしてほしくないのに、思いきりさせてしまって、罪悪感がある。
「体調が悪い?」
「いいえ、ちょっと疲れてしまっただけ」
こんな時に優しくされたら――何だか彼がとても魅力的に見えてしまうではないか!?
意外と単純だな、私も。
「そっか。……災難だったね」
「ほんとよ。ああもう嫌だわ。でも、ありがとう。ローレット、貴方のおかげで厄介な人を追い払うことができた」
「どういたしましてー!」
「頭痛い……」
「ええっ!?」
「テンション高過ぎよ」
「ええー」
妙に高いテンションにはついていけないけれど、でも、胸の奥に小さな何かが少し芽生えたような気がした。




