3話「心、見抜かれて」
「何かあった?」
ローレットはカウンターに肘をついて顔をこちらへ近づけてくる。
瞳がより一層近くへやって来て。
その宝石のごとき煌めきに何とも言えない気分になる。
「実は……その、ええと」
「言いづらいこと?」
「婚約、破棄されたの」
すると彼は後ろへ吹っ飛ぶ。
「えええ!?」
かなり驚いているようだ。
「婚約破棄!?」
彼は何度も目をぱちぱちさせる。
「ええ、他に好きな女性ができたみたいで」
「何それ!? そんなのアリ!?」
この際、事実を隠す必要などないだろう。
もうすべて明かしてしまおう。
一度口を開いてしまったのならもはや情報を隠しておく必要なんてない。
それに、ローレットは口の固い人だから勝手に言い広めたりはしないだろう。
「もはや何を言っても無駄そうだったから、受け入れたわ。愛されないまま婚約者でいてもお互い不幸でしょう」
「それは、そうかもだけど……」
「何か言いたいことがあるのなら言っていいわよ」
「酷いよ! その男!」
「言いたいことはそれだけ?」
「え」
「心配させるようなことを言ってごめんなさいね、気にしないで」
すると彼は黒い革手袋をはめた手で私の手を掴んでくる。
「大丈夫!?」
凄まじい接近具合だ。
彼はもはやカウンターから奥側へ身を乗り出している。
「辛いなら休んだ方がいいよ!?」
心配してもらえるのはありがたいけれど。
「本当に、平気なの」
「そ、そういうものかな……?」
「ええ。だから気にしないで」
「分かった……そうするよ。でも、もし辛かったら、そう言ってね?」
「ありがとうローレット」
でも、うじうじしているのは私には似合わない。
仕事に関係することを淡々と進めよう。
「取り敢えず、この謎物体について少し調べてみるわ。それから買い取るわね」
「あ、その話?」
「ええそうよ」
「調べるのは急がないよ。それに、それは全部君への贈り物にすることにしたよ」
「……贈り物、ですって?」
かけられたのは意外な言葉。
つい眉間にしわを寄せてしまう。
いつも、彼が持ってきてくれた材料は、買い取る形としている。
「本気で言っているの?」
「うん! もちろん!」
「私は嫌よ、そんなの。後からあれこれ言われても困るし」
一応そう言ってみると。
「いいんだ! 本当に!」
彼は再びカウンターから乗り出すようにして大きな声で言ってきた。
「贈りたいんだ、君に」
「女を口説きたいならよそでやったら?」
「ええー、そんなんじゃないよ」
「じゃあ何なの? 贈りたい、とか」
「言葉のままの意味だよ!」
真剣そのものな彼の顔を見ていたら次第に何だか面白く思えてきて。
ふふっ、と笑みをこぼしてしまう。
「いいわ。ありがとう、じゃあいただくわね」
そう言うと、彼はにっこり。
「うん!」
まるで子どものようだ。
しかし、キラリンヌルリンなる魔物から採れたらしいカラフルな謎物体、これは何に使えるのだろう……。