2話「魔道具屋、平常運転」
街から少し離れたところにある木々に囲まれた木造の小屋、それこそが私が営む魔道具屋だ。
この店を開けてからもう数年になるが、大盛況とまではいかないにしても、そこそこ人気はある。
常連客となってくれている人もいて、おかげで生活には困っていない。
「エイリーンさん、頼んでいたアレもうできた?」
「あ、はい、できていますよ」
店での対応は基本的には一人で行っている。そのため忙しかった日などは閉店するなり疲れて倒れてしまうこともある。けれどもそれを嫌なことだとは思わない。むしろ、店が賑わっているというのはありがたいことだ。
「通りかかったからちょっと聞いてみようと思って」
「魔術カメラでしたよね?」
「そうそう!」
「M型でしたっけ」
「そうそう」
「ええと、この辺に……あっ、ありました」
婚約破棄されても、仕事内容は何も変わらない。
私は今やるべきことをやるだけ。
「こちらでお間違いないですか?」
「はい!」
「ではお支払お願いします」
――お客さんを見送って、無人になった店内でふぅと息を吐き出す。
それにしても、婚約破棄は驚きだった。
改めてそう思う。
忙しい時は考える間もないけれど。
どうして破棄されてしまったのだろう? なんて少し考えていたら、考えても無駄よ、と自分に言ってやる。
そもそも、他人の心なんてよく分からないものだ。
だからきっと私には彼の心は理解できない。
その時、からんと乾いた鐘の音が鳴り、扉が開いた。
お客さんかと思い身を引き締める。
だが入ってきたのはお客さんではなかった。
「こんにちは~」
ローレット・リアス、彼は私の仕事に協力してくれている人だ。
今日も大きなかごと袋を持っている。
素材を売りに来てくれたのだろう。
そういう予定にはなっていなかった気もするが。
「あれ? ローレット、今日来る予定だった?」
「ううん」
「えっ。じゃあ何しに来たの」
「いや実はさ、珍しい素材がたくさん集まってさ。それで、こういうの何かに使えないかなーって聞いてみようと思って」
彼は元々冒険者だった。
その彼を拾ったのが私だったのだ。
いや、拾った、という言い方はおかしいかもしれないが……。
初めて出会った時、彼は、味方のいないところで負傷して死を待っているだけの状態だった。だが、その時の私はたまたま魔道具の一種である癒やしの杖を持っていて。とはいえまだ試作品の段階だったのだが、駄目でもいいと思いつつ彼に対してそれを使ってみた。すると、彼の傷は想像以上に癒えた。
その一件以降、彼は私に力を貸してくれている。
「こんなのなんだけど」
そう言って、彼は、店内のカウンターに置いた袋の口を縛っている紐をほどく。
袋から転がるようにして出てきたのは宝石のような物体。
すべてほぼ同じ形だがいろんな色がある。
カラフルなキャンディのようにも見える。
「これ、どうしたの?」
「キラリンヌルリンっていう珍しい魔物がいるんだけど、たまたまそれの群れに襲われて。で、取り敢えず倒してみたんだ。そうしたらこれがいっぱい出てきた。それで一応拾ってみたんだ、何かに使えないかなーと」
「そう……」
どうしたものか、と考えていると、ローレットは紅の瞳でこちらをじっと見つめてきた。
「ところでさ」
「何かしら」
「今日エイリーンさん何だか元気ないよね?」
……婚約破棄のせい?
いや、そんな風になっている自覚はないのだが。
でも外から見ればそういうのは分かるものなのか?
もしかしたらそうなのかもしれない。
見慣れているからこそ分かる、というものもあるのかもしれない。