飛竜と俺と愛刀と。
読み切りです。
「おぉう!おぉう!扉を開けろぉい!!我ぁーれーこぉそわぁー!!」
「やかましいわぃ!!」
バッコーンと扉が開かれ、白髪だらけの髭モジャが顔を覗かせ、
「お前にやる酒はもうないわい!」
パタリと扉を閉める。
「なんでだよおお!おい!オヤジィ!カネ持ってくりゃいくらでも売ってやるって言ってただろぉ!」
「うるっさいの〜。いくらカネがあっても売るモノがないなら渡せんわ!
店中の酒、全部飲み尽くしおって…」
どうやら在庫全部飲み尽くしてしまったらしい。
「む…、じぁあどうしろってんだ」
「知らんわっ!どうしても欲しけりゃ自分で酒仕入れてこい!」
しかめっ面でオヤジは言う。
「はぁーん。その手があったか。おいオヤジ!しゃーないから手伝ってやるよ!ガッハッハッ」
「お前、片腕でどうやって荷物運ぶってんだ。まったく飲んだくれてばかりいやがって」
「はっは、この腕じゃどこも雇ってくれねぇ。
それにな、オレ様は世界を旅する冒険者。荒くれを狩り、荒くれを乗りこなす
猛獣ハンターなのよ!」
胸をドーンと叩き、自慢げに。
隻腕に背中に大きな刀を携えた若者は名乗る。
「やぁやぁ!我こそは東の果て。
はるか彼方はジンバンヌの国から訪れたジェークスという者なりぃ!我の先に道はあらず!また我の後にも道はあらず!ゆ…」
「聞き飽きたわ、そのセリフ。それにお前の名前は次郎ノ助じゃろ」
「最後まで名乗らせろ!ジジイ!まったく」
耳まで両手で塞いで、なんてジジイだ。
まぁいい。
こっちは酒さえ手に入れば何でもいいのさ。
「さ、それじゃどうすればいいんだ?何でも言ってくれ」
「やれやれ、本当に行くのか。それじゃこっちに牛車があるでそれに目一杯積んできてくれ。金は後で渡すと言えば通じる」
「おいおい、牛車って…。そんなトロくさい物に乗ってったら日が暮れちまわぁ」
「当たり前じゃ。こっからいくら距離あると思ってんだ。二日だぞ、二日」
「はぁーーー!?するってぇと、なんだ?オレが酒にありつけるのは二日後ってことか?そんなに待てるかよ!」
「当たり前じゃろ。何言ってんだ」
「待て待て待て待て!オレがもっといい物持ってきてやる!」
「いいものぉ?」
「そう!飛竜だ!飛竜の背に乗っていきゃあ、そんな距離あっという間よ」
「飛竜って、おめぇそんな絶滅しかけの代物どこにあるってんだ」
「そりゃオレ様が探してくるに決まってんだろが!待ってろオヤジ!オレ様がちゃっちゃと見つけてきてやっからよ!」
「あっ待て!おいこら!荷物はどうなってんだ!」
「そんなもん後だ!じゃあなー!」
「おい!待てって!…行っちまった。まったく」
よぉし飛竜だ!飛竜を探す!
そおして酒を仕入れて飲み放題だ!
ま!闇雲に駆け回ってりゃなんとかなるだろ!
手掛かりもなーんもないけどよぉ!
残量が残り僅かになった徳利を咥え込んで酒をあおる。
こーいう時は悪者を探すってのが定石ってなもんだ。そうすりゃあ大体、話は進む。
悪者、悪者…っと。
はっはー。さっそくいたぜぇ?
駆け抜ける先に少女に迫る悪者二人組を見つける。
ダンッ!と足を踏み締め大地を蹴る。
そのまま間に割って入るように
「おぉう!おぉう!こいつは見過ごしておけねぇなぁ!なんだなんだ!いい大人がこんな子供に寄ってたかって!」
「なんだてめぇ!」
「なんだぁ?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれたぁ。我こそは…」
「やかましい!いきなり降ってきやがって!やっちまえ!」
「名乗らせろやっ!ちっ!嬢ちゃん、後ろに下がってな!」
振り向き一閃、悪者成敗。
チン、と刀を鞘に仕舞えば悪者二人はパタリと地面に突っ伏したのさ。
「なんでぇ、口ほどにもねぇ。嬢ちゃん大丈夫かよ。怪我はないか?」
うなずく子供に近づいて、手を差し出す。
「起き上がれるか?」
「うん…」
「よぉし、いい子だ。どうしたってんだ?一体」
「…」
子供は何も言わずにオレ様に抱き着いてきた。
「パパと、ママと…村のみんなが…」
「おうおう!どうしたぃ!」
「パパと、ママと…村のみんなが…」
「おう!だからどうしたぃ!」
「パパと…ママ…」
「お、…う。こりゃあ話になんねーな。ジジイのとこに連れてくかぁ」
「嬢ちゃんしっかり捕まってな」
嬢ちゃんを背負い、いざゆかん。
背中の子供がちょいちょいと着物を引っ張ってあっちを指差す。
「ん?なんでぇ。あっちに荷物があんのか」
さらに荷物も背負い、今度こそ。
「ずり落ちないようにしっかり捕まってなぁ!」
カミナリよりも速い速度で草っ原を駆け抜ける。
多少の崖もなんのその。
あっという間にジジイの酒屋に到着、ってなもんだ。
「おう!ジジイ!開けろぉ!」
「なんじゃい!まったく…って、うわああ!ボンズが人さらって来おったーー!!」
「人聞きの悪い!違うわぃ!」
酒屋の中で樽に腰掛け、詳しく話を聞こうじゃないか。
「さて、お嬢さん。どうした?」
「パパとママと…村の…」
「さっきから同じ事しか言わねぇな。こりゃ困った」
「うーむ、どうしたもんか」
考えあぐねてると、嬢ちゃんがトテトテと荷物の中から卵のカゴを抱えて持ってくる。
「なんだ?卵?」
「鶏?にしちゃデカイな。他の動物…」
「これ…パパが絶対に守ってって」
「ふーむ、そんなに大事なもんかねぇ。希少…」
「あ!?まさか、飛竜か!こりゃ」
コクリと頷く少女。
「おいおいおいおい!ボンズ!おめぇはホントに運だきゃいいな!」
「はっ!こいつぁ驚きだぁ!するってぇとなんだ?嬢ちゃんは逃げてきたのか?」
「うん…」
「ほうほう、悪者二人に、パパとママ。そして村の人…。
襲われてんのかい、村が」
その言葉を聞き、ポロポロと涙を流す少女。
そのちっちゃな頭をポンと撫でて
「そりゃ聞き捨てなんねぇな。どこだい?嬢ちゃん」
「あ…」
ジジイは腕組んで、うんうんと頷いてる。
まぁよ!そんな話聞いてそのままじゃあ、男が廃るってもんよ。
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あちこちで火が燃え盛っている。
「ギャハハ!こりゃお宝だ!野郎共!皮も牙も全部持っていくぞ!」
「ヒャハハ!おら!大人しろ!」
力無く倒れた飛竜の群れをいかつい男達が襲っている。
「流石の飛竜様も封龍石の前じゃ手も足も出ないだろ!運び込むの苦労したぜぇ!
こいつはぁ…」
「ほー、なんでぇそのインチキみてぇなの」
空の彼方からでっかい石ィ目掛けて真っ逆さまに落ちる。
雷音のような轟きを上げて、真っ二つに叩き割ってやったぜ!
「な、なんだてめぇは!」
「はーん?悪党共に名乗る名ぁは持ち合わせちゃいねぇのよ」
おいおい、なんだこりゃあ。
なーにオレ様の飛竜達をいたぶってんだ?コイツら。
「なんだコイツは!やっちまえ!てめぇら!」
「おらああっ!くたばれやぁ!」
ザリッと草鞋を鳴らし、ひとっ飛び。
おっせぇ、おせえ。あくびが出ちまぁ。
瞬く間に雑魚共を蹴散らし、おっと。
「なんだテメェ!オレ達の邪魔しやがって!」
「なんだそりゃ、デカイ猫か」
体長二、三メートルほどのでっけぇネコの上に、
バケツみてぇな全身鎧の野郎が乗っかってやがる。
でけぇ爪を伸ばして引っ掻いてきやがるのは厄介だな、こりゃ。
「ふん、コイツは西の化物の王者さ。獰猛だからよ、テメェもさっさと食い殺されちまえ」
「そいつぁ出来ねえ相談だ」
キンキンと金属音が響き、火花が飛び散る。さぁて、どうしたもんか。
僅かな段差を使用し、空中へ。要は操ってる奴を斬りゃいいんだろ?
ガギィン、と固い音。
「ちっ、なんだそりゃ」
「はっはっはっ。普通の人間の武器じゃこの鎧は傷ひとつ付けれぬわ!
ましてやそんなナマクラじゃな!」
「ナマクラだぁ?」
ソイツは聞き捨てならねぇ。
しっかし、意外とすばしっこい猫だな。
「ふん、どうした。もう手が止まってるぞ」
「分かっちゃいねぇな、誘いこんだのよ。
おい、ネコ。こっちの目ぇ見ろ」
目に闘気を宿し、猫を見据える。燃え盛るような瞳の色にやがて、
「なっ!バカなっ!お、おいっ!」
「よーしよし、いい子だぁ。ここで大人しくしときなぁ」
「ニャーン」
猫を手懐け、傍に座らせる。鎧野郎は置き去りだぁ。
さぁて、ここは二階の屋根の上。
「さて、と。さっきこの刀をナマクラって言いやがったな。ナマクラかどうか自分の身でしっかり確かめてみろやぁぁぁぁ!!」
「待て!待ってくれ!ま…」
刀を肩に担ぎ込んでそのまま全身鎧の胴にぶち当てる。斬れるか斬れないかは問題じゃねぇ。
斬れるまで、ブった斬るのみだぁ!!
「うおおおおおおおおおっ!!」
刀でクソ鎧を引きずり倒して屋根を駆け抜けてくぜぇぇぇぇぇぇ!!!!!
いやっべええ!!いろんな屋根に大穴開けちまったぃ!ま、いいか!そのまま地べたまで真っ逆さまさ!!
「おっらぁ!くたばれ!!」
「ぎゃっふぅぅん!!」
蛙がおっ潰れたような情けねぇ声出して、全身鎧はひしゃげちまった!
後は、親玉ひとりのみ。
「や、やめてくれ…たすけ…たすけて」
「あ?聞く耳持つかよ」
「もう金輪際ここには関わらないから!頼む!頼む!」
「はーん」
刀をちゃきりと鍔鳴らしゃあ、パタリと倒れて悪者成敗完了。
ってなもんよ。
「帰ったぜぇ、嬢ちゃん元気かい?」
タッタっと駆けてきてオレの着物にしがみ付く。
「おっ、どうしたい?」
「パパ達、無事…?」
「ああ、みんなケガはあるが、頑丈な人達だぁ。
無事だぜ?」
「!!」
「おいおい、着物で涙を拭っちゃあ、せっかくのかわいいお顔が汚れちまうぞ」
「ん…」
小さな手には一輪の花があり、それを差し出される。
「お?なんだい?こりゃ」
「あのね、オジさんが言ってたの。お兄さんはぷろ?の人だから、ちゃんとほうしゅうがないとダメだって…。だ、だからね?ほ、ほうしゅう…」
そりゃあ大したもんだ。オレはしゃがんでソイツを受け取る。
「おう、確かに報酬受け取ったぜ。毎度あり」
そう言って頭を撫でてやる。
おっと、花と一緒にもう一個「満面の笑顔」の報酬も受け取っちまったな、こりゃ。
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後日、
助けた飛竜の村の者が宴会を開いてくれるらしい。
タダ酒飲めるってんなら、行くしかあるめぇ。
しかし、コイツらが人型にも化けれるなんて思いもしなかったがな!はっはっ。
「いやぁー、うめぇ!」
「こちらもありますよ!さぁさ遠慮なさらずに!」
「うめぇ!うめぇ!こいつは天国だぁ!」
山のようなご馳走にたっぷりの酒。
いやぁ!
人?助けした後の酒は格別、ってなもんよぉ!
ま、オレは酒が飲めりゃあ何でもいいけどな!
ガッハッハッ!!