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『最果て』の先、『終わり』を望む魔女  作者: まるまるくまぐま
見習い魔法使いフレデリカ
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始まりは割と最低

 草木が風に揺れ、揺れた葉から光の胞子が天へと昇っていく。木々に覆われ、太陽は隠れているのに明るい、全ての動植物が光を発する幻想的な場に二人の女が向かい合っていた。

「お師匠様、私を殺して下さい。」

 その内の一人が発した言葉に、もう一方は一瞬だけ驚きを目で表し、溜息を吐いた。

「お前もか…」

 その言葉の後、一つの大きな光の粒が天へと昇って行った。


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―――




 『魔法』そう呼ばれる特別な力。


 人類の誕生以来、人の、人と人との争いは絶えることは無い。人が絶えるまで争いは絶えないのかもしれない。

 争い、それは命の奪い合いとなる時もあれば、土地や権力、金や権利、時には心や愛…

 奪うものは違えど常に何処かで争いが起こっている。


 そんな争いの絶えない世界には広大な海と、七つの大陸が存在している。

 どの地でも争いは絶えないが、それなりに文明を持ち、それなりに進歩を続けて、それなりに争いにルールを、要するに法や道徳を持って行動をするようになった。

 とはいえ、人の欲はそんなものでは収まらない。それなりに争いは絶えないし、やっぱり何処かしらで争いは起こっているし不正もある。

 そんな荒れてはいるがそれなりに上手く回っている世界。


 そんな世界には様々な職業がある。農家、漁師、商人に職人、教師や軍人、貴族や王族…それこそ数え切れない程の職業がある。

 そんな無数に存在する職業の中で、突出して特殊な職業がある。

 それは、『魔法使い』と呼ばれる。

 『魔法』という特別な力を使える、選ばれた存在にのみ許された職業。そんな魔法使いは、時には戦場で一騎当千の英雄にもなるし、時には文明を飛躍させる発明家にもなる。しかし、その様に、歴史に深く名を刻むことが無くとも、『魔法』を使える者と使えない者では、スタート地点が違っている。

 そんな生まれながらのアドバンテージを持つ者たちが『魔法使い』なのだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 人の歴史が始まり既に数万年が経った。

 人と魔法使い、本来ならば同一の生物である筈のそれらには、当初絶対的な差と溝があった。


 魔法使いには『魔法』という特別な力による優位性があり、人はそんな魔法使いを恐れながらも憎み、憎悪の対象としていた。

 そんな両者の溝が次第に埋まり、共存を始めたのは、長い歴史で見れば五、六百年程前。つい最近と言えるが、両者依存する形で世界が回り始めたのだったが、魔法使いの優位性というのは、一部を除いて変わってはいなかった。


「それじゃあ、これらの荷物をナッポルまで頼むよ。」

 でっぷりと肥えた中年男性が馬車数台分の積荷を横にしてそう言った。

「これで十万シック?私たちが見習い以下の学生だからって足元見たわね。」

「し、仕方ないよフェーニャ。見習いで仕事貰えるだけでも有り難いんだから…」

 ギロリと男を睨む少女を怯えながら諭す少女。その後ろで数人の少女たちが頷いている。

「あんたたちに誇りはないの?こんなにも安く見られて腹が立たないの!?」

 怒りの標的が増えた少女は回れ右をして静かに、しかし威圧的に少女たちに向けて言った。漏れ出す怒気に真っ青になる少女たちと肥えた男。

 何も言葉を発することが出来ない面々に呆れたのか、その少女は大きな溜息を吐き、

「しょうもない。あんたたちだけでやりなさい。」

 そう言ってポンッと箒を出現させ、それに跨り大空へと飛び立った。

「ま、待ってよフェーニャ!!フェーニャがいなきゃ仕事貰えないんだよ!!」

 地上から慌てた様子で少女が叫ぶ。

「知らないわよ。そもそも、あんたたちが割りの良い仕事を紹介するって言ったから来てやっただけ。何で私がこの程度の仕事をしなきゃならないわけ?何より、私頼りに稼ごうっていうのが一番気に入らないわ。何で天才の私が劣等生共の為に働くのよ、逆でしょう?」

 地上にいる少女たちだけではない、地上いる全てを見下した様な表情で少女は言った。

「なに?何か間違ってるかしら?言いたいことがあるなら相手になるわよ?」

 睨みつける者たちにそう言い放ち、ジッと辺りを見下ろしながら眺める少女。そんな少女と目が合うと、殺気立った者たちも目を伏せた。

「何の言い分もないってことね。ホント、情けない連中。」

 そう言うと箒を走らせ空を駆ける。それは、地上からそれを見る者たちの視界から消えるまで、僅かな時間も必要としなかった。


「天才か何か知らないけど、何様のつもり!!ホント性格悪過ぎ!!」

「折角私たちが仕事を用意してあげたのに!!」

 件の少女がいなければ仕事は任せないと断られた少女たちは、口々にその少女を罵りながら進んで行く。

「あんな奴が同期生とかホント最悪。さっさと戦争にでも駆り出されて死んでくれればいいのに。」

 その言葉に皆が口々に賛同した。


「魔法使いとしての誇りもない、この世で一番しょうもない連中。あんなのが同期生ってだけで私の人生における汚点ね。」

 天高く空を駆ける少女は更に上空を見つめながらそう言った。

 魔法使い、そう呼ばれるまでに幾つかの過程がある。少女の住むゴーシュ大陸における制度の場合、先ず大前提として魔力を有すること。そして十歳から入学を許される魔法学校で最低三年学び、卒業試験に合格すること。

 それで漸く魔法使い見習いとなれる。見習いとなった後、魔法協会の定めた師の下で働き、認められることで見習い修了試験を受験することが可能となる。その試験に合格することで魔法使いとなれるのだ。

 要するに現在、少女は魔法使いではないし、見習いですらない学生なのだが、魔法使いとなることは決定事項であると本人は確信しているし、その程度で終わる筈がないとも確信していた。

 魔法使いとなれば終わりではないのが魔法界。その先にある魔導士、更に先にあるのが魔女(男性の場合は大魔導士となる)。しかし、少女が見ている未来はその程度では止まらない。

「『果て』の魔女。先ず目指すべき所はそこね。」

 現在の魔法界で数人しか存在しない不死の魔法使いに与えられる称号、それが『果て』。通常の魔法使いならその頂きを臨むことさえ夢物語なのだが、少女は違った。

 その頂きさえ容易に超越する可能性を持つ。『千年に一度の天才』、そう称される少女が彼女、メヌエール・ド・サン・フレデリカ。

 燦然と輝く金髪と青灰色の瞳、透き通る様な白色肌に整った顔立ち。性格以外は全て完璧と評された天才少女は、現在十三歳。魔法学校卒業試験を間近に控えた学生であった。




 

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