オレは話を聞く。
「俺には小さな頃から……いやそれどころか、親世代が小学校の頃からの付き合いという、もはや付き合いがないとおかしいレベルの兄妹のみたいな関係で過ごしてきた幼馴染がいるんだ。それこそ毎日顔を突き合わせるような関係で今に至ったが、どうにも俺はその幼馴染が好きらしい」
この恋に気がついたのは小学校時代まで遡る。
「小学4年のある日、両親の経営する会社の事業拡大で都会に移住と移転が決まったんだ。まぁ、地元は過疎化の進む町で、店舗や売上を増やすにはやはり都会での商売が必要だった。元々からして裕福とはいえ、父も母も趣味が高じての仕事だったために手が広くなることを喜んだ」
「まぁ、その時だな。俺は何よりも先にアイツのことを思い出したんだわ。その頃、色恋に敏感で誰それが付き合っただのを聞いては冷やかしに行くようなマセガキだった俺は、直感的に『あぁ、俺アイツが好きなんだ』って気が付いてな』
「そっからの俺はもう嫌だ嫌だと駄々を捏ねまくるわけよ。引っ越しなんてするもんかと。どうしても離れちまうのは嫌だったんだ。離れたら最後な気がしてな」
「そして俺が『1人ででもここに残る!』って言っちまったんだ。そしたら母が『これからお前には家事の全てをやって貰う、私達は一切家事を手伝わない』ってさ。俺はまた直感的にテストなんだって気が付いてな。そりゃもう死に物狂いで家事をこなして勉強もしたよ。1ヶ月だぜ?その間、両親は本当に家事を一つもしねぇの。後で聞いた話だと、1ヶ月の間に何か問題があれば問答無用で連れてく気だったみたいでさ。あの時は大学受験の時よりも必死だったわ」
「その甲斐あって、無理難題ふっかけて連れてくつもりだった両親が折れてくれてな。月一で両親の元に行って、毎日電話して、学校行事を前もって知らせる事って約束で一人暮らしをさせてもらったんだ。しかしまぁ、今思えば小学生に一人暮らしさせるってかなりすげぇ決断だよな。俺が同じことできるかって聞かれたら、確実に言い渋るわ」
「そんなこんなで始まった一人暮らし。家に帰ったら誰も居ねぇから常にテレビつけっぱなしでよ。やっぱり両親のいない寂しさってのがあったんだわ。それでも微塵も後悔はしてなかったな。アイツと連んで中学も、高校も、大学も全く同じ。めちゃくちゃ勉強してアイツと一緒に結構いいところに入ったんだぜ?」
「でもさ、アイツはさ、その時もう好きな奴がいたんだってよ。高校の頃から好きだったらしくてな。3年前に初めてその事を打ち明けられた時、かなりショックだったよ。それこそ茫然自失だわな」
「そして話が終わって別れた後、泣いたよ。しこたま泣いた、それこそ赤ん坊みたいに泣いて喚いたよ。一通り泣き喚いてさ、やっぱり諦めきれなくてな。どうしてもアイツの隣にいたかったし、他の奴と歩いてるところは、まぁ見たくなかったんだ」
「で、その後も恋愛相談に付き合ったりしてさ。アイツが『話せないか』って聞いてきたら、できるだけ時間作ったりしてな。でもアイツは一途にソイツを思ってるみたいでな。その事実がちょっと、いや大分キツかったんだわ。そんでさ………」
その後、コイツは最近あった出来事や愚痴を吐露して満足したのか奢ってくれた。“オレ”の気も知らねぇでよ。
俺=コイツ=長々話してた男
幼馴染=アイツ
オレ=主人公=長々話してた男に惚れてる女