死に対する考察
哲学者は問う。
「なぜ、詩人は歌うのか」と
詩人は答える。
「消えゆく言葉の美しさを知っているから」
愚者は問う。
「なぜ、哲学者は考えるのか」と
哲学者は答える。
「自分の知りたい答えに辿り着きたいから」
詩人は問う。
「なぜ、愚者は屈するのか」と
愚者は答える。
「諦める以外の未来を知らないから」
賢者だけが理解している
哀しみの中で生きてゆくすべを。
だから、
三者はみな賢者に問いかけた
「賢者よ、貴方は何を信じるのか」と
賢者は答えない
答えるすべを知らない
嘆く詩人
黙り込む哲学者
怒り狂う愚者
賢者は何もしない
ただ理解するだけ
「言葉を知らぬか 私が教えよう」
「思惟を知らぬか 我が教えよう」
「諦めを知らんか 俺が教えよう」
詩人は詠い
哲学者は沈み
愚者は眠る
賢者はただ
そこにいるだけ
生きているだけ。
「さぁ詠ってごらん」
「それでは人形となんら変わらぬ」
「せめて見限っておくれ」
三者はそれぞれ指南した
賢者は知った
歌を
思いを
諦めを
時がたち
最初に詩人の人生の舞台に幕が落ちた
次に哲学者の命の炎が燃え尽きた
最後に愚者の柩のふたが覆われた
そして残った賢者は最期につぶやいた。
「我らは死ぬために生きるのだ」
と。