前世という名の夢
沢山のブクマありがとうございます。
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緊急決議会議から戻って来た、ミイサン事務次官は執務室内を見回して
「緊急性の高い案件以外は暫くは試案提出などは控える様に」
ミイサン事務次官はそう言って副次官とまた執務室を出て行った。
「どうしたんだろう?」
「立案が出て作業や内勤に日程を取らないように…」
「それって…」
私はハッとして暦表を見た。今日は二の月の中頃…もしかして国王陛下が?確か前世ではご病気で身罷られたと公示されたけど、私の存じている国王陛下は元気だった…。少なくとも3日前にお会いしてログリディアン…リディ様のことを話されて散々冷やかされたもの…。
隣の机に座っているリディ様を見詰めた。その顔には激しい動揺は見受けられない。
その時に机にソッ…と紙が差し出された。隣のリディ様からだ。紙に何か書いてある。
『後で話す』
緊張した…。やはり何か、時期的に国王陛下のことだろうか…。
その後黙々と仕事をこなして昼食時間になった。リディ様と連れ立って城の食堂に向かった。
お昼休憩の時に私とリディ様は許嫁同士と言う事で、一緒に居ても別におかしくはないはずなのだが…それでもわざわざ声をかけてくる女官はいる。
あからさまにご自分の方が年上なのは分かっているはずなのに、甘えるような可愛い雰囲気を出してくる人はどういうつもりなのだろうか?10才男児に甘えてくる1〇才…痛々しい。
「今日は~是非夕食をご一緒してその後で私の事を色々と分かって頂けたらな~って」
「……」
そのお色気?のようなものは年上の男性武官や役人の方なら有効でしょうが、デビュタント前の子供には効かない作戦じゃないかしら…ああ、きっと今まではソレで落とせてきたから同じ戦法をしてきたのでしょうけど…。
リディ様は食べていたシチューの匙をトレーに一度置くと、その1〇才らしき女官の方を見た。
「目が老眼で見えにくくなっているみたいだから説明すると~俺は愛する許嫁と束の間の2人っきりの食事を楽しんでるの?分かる?ご年配の方ならこの意味理解出来るよね?ご配慮願えますか?」
ふわあぁ!辛辣っ…。食堂内は物凄い静寂に包まれている。
「な…何よっ…私の魅力が分からないなんて…おかしい…」
「ええ、俺はまだ9才の子供だからあなたの性的な誘いは非常におかしいことだね。警邏を呼ぼうか?」
私達から見てギリギリお姉さん?な年齢の女官の方は顔を真っ赤にして走り去って行った。周りからは小さく拍手が起こっている。
「毎度毎度鬱陶しいな。レアンナが来る前はもっとあからさまだったよ?幼児偏愛者かな?」
声を落としなさいよっ!お兄様方やお姉様方が食べ物を喉に詰まらせて、むせている音が聞こえるからっ!
「ところでレアンナは来月の俺の誕生日会来てくれるよね?あ~あ、これでやっと10才だよ!これまでの人生長かったぁ」
もっと声を落としなさいよぉ!また食べ物で喉を詰まらせている方々の悲痛な咳払いが聞こえるから!
「お誕生日会なんてしている時間…ありますの?」
先程の後で話す…の会話が出来るかと話を向けてみた。リディ様は少し目を細めた。
「ここで言ってもいいの?」
「何をです?」
リディ様はスゥ…と息を吸い込んだ。
「俺とレアンナはもう一緒に住んじゃえばって言われた」
「ぶぶっ!」
私以外にも何人か飲み物を吹き出している人がいるようだ。私は咳き込みながらリディ様を見た。それはそれは嬉しそうな笑顔で私を見ている若干9才の許嫁。
「だ…誰がそんなこと…ゴホッ」
「こくおうへーか」
「なっ?!あのですねっ私まだ9才なんです!ど…どう……同棲はこまりま」
「何で同棲なの?この城の空き部屋に住んでそこから出勤すればって話だろ?毎日、家からの送り迎えも煩わしいだろうから…って」
「紛らわしい言い方なさらないで下さいっ!」
「誤解したレアンナがやーらしい」
もうっ!絶対からかっているんだからっ…。周りの喧騒が元に戻ってきた所にリディ様が小声で呟いた。
「本当の話は後で」
と言われた。その日の夕刻…。城の一角に私の荷物が運び入れられていた。城に住む話は本当だったのね。侯爵家から来てくれた侍女のスナージとシュリナが荷解きをしてくれている。
「今日から王城暮らしですね、私達のお部屋も侍女専用棟にご準備して頂けたのですよ~」
「へぇ~それは便利ね」
スナージの言葉に相槌を打ちながらも、リディ様から聞かされた『後で言う』話の件で気持ちがそっちに向いている。すると、扉がノックされてリディ様が訪ねていらした。いよいよね…。
人払いをされて対面に座られたリディ様を見る。リディ様は静かに話し出された。
「今日、国王妃の飲み物に毒が盛られた」
「っ!」
国王陛下でなくて、国王妃っ?! 私は戦慄いて思わず立ち上がった。すぐにリディ様が私の横に来ると、肩を抱いて摩りながら一緒にソファに座ってくれた。
「大丈夫だ、妃殿下に大事は無い。父に話していて色々と警戒はしていたんだ」
事情はよく分からないけれど、国王妃はご無事だったみたいだ。前世では二の月の中頃に国王陛下が身罷られた時期だから、そうだと早合点した。驚いた…。
「妃殿下は身籠られてるんだ、それで狙われたのかもしれない」
「っひ!」
お腹に赤子が…それを毒だなんて、なんて卑劣な…。
リディ様が私の肩を更に抱き寄せてくれた。背中も摩ってくれる。
「大丈夫だ、妃殿下も陛下にも大事ないように、今も護衛や暗部をつけている。この時期さえ過ぎれば…恐らく…」
「え?」
「いや…こんな時期だからこそ俺とレアンナが城に住むことになったんだ」
「どうしてです?」
リディ様は困ったような…何だか不思議な顔をしている。
「王家の血筋を守る為。血族の者を手元に置いて血を絶やさないようにする為かな。レアンナも俺の伴侶になる訳だから…守られる対象者という訳だ」
あ…そうか。私とリディ様との間に子供が出来たら…当然王位継承者になる。まだそんな先のことだし…私がこのリディ様と?まだ全然実感が湧かないわ。
リディ様がトントン…と背中を撫でながら私の頭も撫でてくれている。
「レアンナには怖い思いはさせない。まだ時間はある…悪辣な奴らは炙り出して始末する」
何だか10才にしては物騒な事を発言しているけれど、この細身で綺麗な美少年は色々と賢くていらっしゃるから、何かを画策していると思うのだけど、あのね…いいかしら?
「リディ様…」
「何?」
「先ほどからリディ様の左手が私の腰とおしりを撫でている気がするのですが…」
「何だ、バレたか」
私はリディ様の手を振り払うと立ち上がって声を張り上げた。
「っ…スナージッ!シュリナ!リディ様がお帰りよっ!」
何がっ『俺はまだ9才の子供だからあなたの性的な誘いは非常におかしいことだね』っだ!充~分っ性的な何かが分かっていらっしゃるじゃないか!
ニヤニヤしながら手を振り帰って行く、9才だか10才だか知らない私の許嫁。
男の子というか、男の人って嫌だわっ!すぐに破廉恥なことを………そう、すぐに破廉恥なことをして妾妃なんて迎えてしまって…私には目もくれなくなって…蹴ったり叩いたり、お酒をかけたりするんだわ…。
何だか久々に泥水腐れ陛下の事を思い出したわ…。ああ腹の立つ…。くそぉ!
「〇〇〇が腐れてもげてしまえっ!」
あら嫌だ…湯殿とはいえ、誰に聞かれているか分からないわね。オホホ…。本当にもげてしまえばいいけれど…。
湯中りしたのか…少し疲れたので、庭先にあるベランダに出た。夜風に当たっていると、隣の部屋のベランダの扉が開いて…。
「リディ様!」
「やあ」
「やあ、じゃ御座いませんよ?!お住まいのお部屋、隣だったのですか?」
知らなかったっ!何故隣室?!許嫁だし、近い方がいいだろうという配慮からだろうけど…ああっ!いやだ私、こんな薄手の夜着で…。
「レアンナ…」
「は、はいぃ」
ゆ…湯殿に入られていたのか…何となくしっとりとした雰囲気のリディ様…。男の子に使うには適切な言葉ではないかもしれないけれど、とても艶があって美しいと素直に思った。
このログリディアン=ムトアーリデという男の人はとても美しい人なのだ。今まさに少年と青年の狭間にあるとても儚くて脆い耽美な甘さを含んだ果実のような…。
「〇〇〇が腐れてもげてしまえ…」
リディ様の言葉に驚いて飛び上がってしまった。な…な…何故それを知っているのだぁぁあ?!
「知ってる?ここの湯殿、割と声が外まで響くんだよ?」
聞いていたの?!とんでもない破廉恥なことを……いや破廉恥なのは私の方だわ。
「とんだお耳汚しを…」
リディ様は暫く黙っていた後に…静かに口を開かれた。
「誰か…その、もげて欲しいぐらいに恨んでいる男がいるのか?」
何故もげるとか、それを重点的に聞いてきますの?全部の話を教える訳にはいかないので掻い摘んで説明した。
「夢の中で…私の事を叩いたり蹴ったり、飲んでいたお酒をかけてきたり…その夢ですけどっ、夢ですけどっ………私の事を詰ったりする方がいましたの。夢ですけどね…ですが、とても悔しくて悲しくて…私そんなことしていませんのにって言いたいのに…蹴られて声が出なくて…」
「……」
リディ様は静かになっていた。どうしたのだろう…とお顔を見るとリディ様は真っ青になっていた。
「それ…夢なの…?」
静かに震える声でリディ様は私に聞かれた。夢…本当は夢じゃないけど、今話していると何だか色々と鮮明に思い出してきて、悔しくなってきて少し涙が出て来た。少し打ち明けたくなった。どうせ彼はこれから起こることはまだ知らないことだし…。
「そういう未来に起こることを夢に見ましたの!」
私が少し泣きながらリディ様を見ると、リディ様は小さく悲鳴を上げられた。
「リナファーシェ…」
リディ様が小さく呟いた言葉に戦慄した…どうしてその名前を?どうして今その名前を口にするの?
やっとお話が少し進みだしました。