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まだデビュタント前です

中々幼少期から進みません。

宜しくお願いします


「大人げない夫人だな…」


誰が…とは明言しないけれど、ソエビテイス公爵夫人のことだろう。私があの人と交わした会話も聞いておられたみたいね。本当にこの方9才なの?人の事は言えないけれど…。


「確かに…ソエビテイス家…国王妃のご実家筋の方からリナファーシェ嬢を王太子妃に…という推挙は受けている」


「!」


「リナファーシェ嬢かぁ…このままいったら確かに王太子妃だろう、もし王太子妃候補から外れても…俺にだろうしな~」


俺?あ…!ログリディアン様は継承権第二位だわ、リナファーシェが嫁いで来てもおかしくない。


ログリディアン様は頭を掻きながら何かブツブツと呟いているが、ゆっくりと私の方を見た。


「そうか…そうだな。君…リカルドの妹だもんな、侯爵家か問題は無い…よし!」


何がよし!なの?


「レアンナ嬢は行く行くは事務官として城勤めを希望しているのか?」


「あ、はい。出来れば…」


このまま行けばリナファーシェが王太子妃に選ばれる…。その時にあの泥水腐れ殿下からの冤罪からも守ってあげれるのでは、と思っている。


難しい事は色々と考えたが、もうこの不可思議な現象は考えても始まらないと腹を括った。ならば今を精一杯生きて、自分の正義を貫こうと決めたのだ。


「じゃあ利害は一致しているかな…俺は王太子殿下の側で王太子の教育に専念して、道を正したい」


「はぁ」


何だか9才とは思えない教育者みたいな発言を始めましたけど、いきなりどうしたの?


「君は事務官として城勤めをしてみたい。俺の補佐として君を事務職として推挙を出来るけど、どうする?」


まあ!王太子付きの補佐官からのご推薦なら、内務省の事務次官も夢じゃないわ!出世間違いなしじゃない!


「ぜ、是非っお願いしま…」


「その代わりレアンナ嬢には、俺の恋人つまり許嫁として存分に存在感を発揮して欲しい」


ん?んん?これからも頑張りたまえみたいな発言が聞こえたけれど…今、許嫁って言った?恋人って言った?


「恋人?許嫁?」


ログリディアン様は綺麗な顔に胡散臭い笑顔を乗せて、私を見てきた。


「そう、レアンナ嬢は俺の恋人で許嫁になってもらうよ。これで煩わしい貴族の令嬢からのお誘いも断れるし、一番の懸念材料だったリナファーシェ嬢を薦められる危険性も回避できるしな。」


色々聞こうとしたが、一番にひっかかったことを代表して聞いてみた。


「リナファーシェ様を薦められる?」


「そうなんだよ~自分が優秀過ぎるのも考え物だね…王太子殿下より俺に王位を継がせようかと馬鹿なことを考える奴らがいてさ。そうしたらリナファーシェ嬢を俺に嫁がせようとしてきてね、慌てて王太子付き補佐官に就任して逃げたんだよ。正直に言ってさ、リナファーシェ嬢じゃ俺の嫁には物足りないかな、と思っているしね」


若干9才が物凄く失礼な発言を連発していることは分かる。しかし彼は王位継承権第二位の公爵子息だ。誰かがこの失礼な物言いの頭の切れる9才児を担ぎ上げようとしたというのか?


そして担ぎ上げる時にリナファーシェ様も一緒にくっつけておこうと、恐らくソエビテイス家から打診されたのだろう。それを嫌がったログリディアン様は、城勤めの事務官に逃げた。


ソエビテイス家としては公爵家の次期王太子候補の子息に嫁がせたいのに、城勤めのただの事務官じゃ困る。実質事務官になっているのは『補佐』ですと対外的に主張している訳だから、王位には興味ありませんとソエビテイス家に知らしめたと言っても過言ではない。


「リナファーシェ嬢には申し訳ないけど、俺は料理の付け合わせみたいな女の子には、興味は無いな」


付け合わせ…言い得て妙だ。自己主張の無い、可もなく不可もない令嬢。確かに自分で前世の自分を貶す表現をするのは忍びないけれど、あの子は王太子妃にも公爵家の夫人として立つにも向いていない。


そう…向いていないのに無理やり王太子妃教育を受けさせられた。そして王太子妃にさせられた。自分でも無理なのは分かっていた…。毎日毎日ログリディアン様に叱られた。レアンナに励まされて助けてもらった。2人に支えてもらって何とか王太子妃として過ごしていた。


だけど当時の私は毎日の政務をこなすだけで、ログリディアン様やレアンナの私生活にまるで目を向けようともしていなかった。


当時、ログリディアン様はどんな思いでお仕事をこなされていたのですか?私があまりに仕事が出来なくて歯痒くて、腹が立っておいででしたか?


まだ9才の彼に聞いてみたところで意味はないけれど、その聡明そうな眼差しを持つこの子なら全てを知っていそうで聞いてみたくなる。


「ま、そう言う訳だから正式に打診しておくな!」


物思いに耽っていた意識が戻って来る。打診?え、もしかして許嫁の話?


パッとソファから立ち上がったログリディアン様は手を差し出してこられた。


「今日からレアンナと俺は共にこの国を支える礎になる。過酷な道だ、だがやりがいもある。これから王家も国民も支えて行かねばならない…それにこれから起こる全ての害悪を退ける算段にも知恵を貸して欲しい」


この台詞…9才の言うことかしら?まるで…ノクタリウス=フゴル=モエリアント、あの泥水腐れ陛下が言う台詞みたいじゃない。いえ、あの頼りない陛下がこういう物言いすらも出来ないことは知っているけれど。


「分かりましたわ、若輩者ですがご助力させて頂きます」


私はログリディアン様の手を取った。立ち上がり歩き出した私の腰を支えて、エスコートの姿勢を取る9歳男児…。この人本当に9才児?人の事は言えないけれど。横に並んで歩き出したログリディアン様を見上げる。


「そう言えば暫くお会いにならない間に、背丈が伸びましたね?」


「うん?そう…?あ、レアンナもう恋人なんだから、砕けた物言いでいいからな」


何故、いきなり恋人なの?!


そして王太子殿下の生誕のお祝い会場の広間に戻って…何故9才児がエスコートしてぴったり私にくっ付いて来るのか…理由が分かった。


ログリディアン様は少し年上の…いやかなり年上のお姉様から、そしてギリギリお姉様ぐらいの年齢の令嬢からも頻繁に秋波を送られている。送ってくるだけならまだマシだ。私が隣にいるのに腕を振り払うぐらいの勢いでわざわざ2人の間に割り込んできて、ログリディアン様を客間の奥へ行こうと誘ったりするのだ。勿論、私とログリディアン様が連携してそんな令嬢にはご退場頂いているのだが、本当に次から次にやってくるのだ。


「ログリディアン様は…」


「リディ!」


「リディ様は…」


ログリディアン…リディ様は渋い顔をして私を見たけど、今はまあいいか…と呟いた。


「リディ様はいつも令嬢方にこのような…感じで?」


リディは綺麗な新緑色の瞳を私に向けた。顔にお疲れが出てますね…まだ若いのに…。


「あの令嬢…夫人方の中にはそういう幼児が好きな偏愛者もいるんだろうね」


「…っ!」


「まあ後は、俺がそこそこの年になるまで、手元に抱え込んでいて自分が年増の公爵夫人に収まるつもりなんだろうけど…」


物凄く辛辣っ!9才児なのに…全部当たっていると思うけど。多分彼が美少年で、家柄も良いから色んな方面の方に狙われているのだということは分かったわ。


そういう意味でも私という『恋人兼許嫁』という盾が欲しいのね。分かりました。


という訳で、正式にムトアーリデ公爵家から打診を受けてログリディアン様とレアンナ=フロブレンは許嫁になりました。


フロブレン家ではこの婚姻は大賛成の大絶賛だった。私は知らなかったけどログリディアン様って妙齢のご令嬢から物凄ーく狙われていたらしい。


リカルドお兄様も随分心配していたけれど、相手が私なら毒牙から守ってあげられるから、安心した!とか言われた。何だか男女逆な立ち位置のような気がするけど?まあ守って差し上げますけど?


それからは私も勉学の合間に、王太子殿下付のリディ様のお仕事の雑用も手伝うようになったのだけど、何故リディ様が王太子殿下の教育を~とか道を正したい~とか言っているのか手伝い始めてその訳が分かったのだ。


「もういいじゃないか…今日は伯爵家主催の夜会が…」


「その夜会に参加されるのは勿論構いません。ですがその前にこちらの確認と…」


殿下とリディ様…これじゃあ、どっちが年上か分からないわ…。前世ではもう少し年を取られた殿下しか知らなかったけれど、こんなに我儘で始終だらけて、やる気の無い方だったっていうのは存じ上げなかったわ…。


リディ様9才もうすぐ10才に何度も叱られながら、渋々確認書類を見て、何だかのんびりしながら署名し、お茶やお菓子をまたダラダラしながら口に入れ…そして分厚い資料の上にお茶を零してまたリディ様に叱られる。


先程からこれの繰り返しだ。


今日確認して決済出来た書類を手に、リディ様は溜め息をつきながら事務官の執務室に戻って来た。体全体からお疲れが滲み出ているもうすぐ10才の男児…。


「どうしてあんなにダラダラする必要があるのだろう?ダラケ病でも患っておられるのだろうか?」


完全に不敬発言だけれど、王太子殿下の従兄弟で継承権第二位の補佐官を誰も咎めることはしない。正直、リディ様の立場でなければあれほどに王太子殿下を叱ったり、進言したりは出来ないから有難いはずなのだ。そう…最高事務次官のミイサン伯爵からお聞きしたことがある。


そしてそのリディ様に進言したり出来るのも今の所私1人だけのようだ。


「リディ様、あまり頭ごなしに叱るのも逆効果ですよ。私の兄も同い年ですし、あの年頃の殿方は年頃ならではの矜恃を持っておられて、出来ないことをあげつらうと余計に反発されますよ」


わたしがそうリディ様に言うと執務室内に居た、かつてあれぐらいの殿方で矜恃を持ち合わせていたであろうお兄様とおじ様達が一斉に頷いていた。その事務官の様子を見てリディ様は眉間に皺を寄せていた。


「年頃の矜恃ねぇ…そんなものだったかな~」


何でしょうか、ご年配の方の反応みたいなお返事をされた後、リディ様は書類をミイサン最高事務次官の机の上の決裁済の箱の中にぽいっと放り込んでいる。


「レアンナ~お茶!」


「はい」


私が花の香りのお茶を入れてリディ様の前にお出しすると、それを見ていたマットルさんが


「まるで老成されたご夫婦みたいだね」


と、仰った。


「君達本当にデビュタント前なの?」


「まだ10才だ」


「怖いわ~」


そう言ってお茶をすするリディ様を見ているマットルさん。そこへミイサン最高事務次官が戻ってこられた。


「緊急の最高決議会議が招集されたよ。ログリディアン補佐官、君にも無関係ではない」


緊急…。執務室内に緊張が走った。何かあったのだろうか…手早く机の上を片付けたリディが私に、行って来ると告げてミイサン次官と副事務官と3人で出て行った。


その後ろ姿を見ながらマットルさんがボソッと呟いていた。


「こりゃ夜会どころではないな…」



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