もうひとりの私
タイムリープの細かな定義は分かっておりません。
ソレっぽい世界観のものだということで温かい目でご覧下さいませ。
茶会会場は華やかだった。随分と久しぶりな気がする…。今回の茶会の主宰はソエビテイス公爵家だ、つまり前世の実家ね。
緊張もあるが、不思議な感じだ。自分の以前住んでいた所にお邪魔する…庭も記憶にあるままだった。そうそう、この花懐かしい。
さて…いよいよ自分、リナファーシェ=ソエビテイスとのご対面だ。母…カシミュラお母様と一緒に前世の母とリナファーシェに挨拶に伺う。
「初めまして、レアンナ=フロブレンと申します」
淑女の礼をして、直接目を見ないようにしながら…前世の母とリナファーシェの全体像を見る。
前のお母様、改めて見ると根性悪そうな顔よね…。綺麗なお顔だけど、内面って顔に出るんだね。新たな発見ね。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
心が込もってない言い方…感じ悪い。それに比べてカシミュラお母様は、笑顔を崩さず穏やかに会話を紡いで…素敵すぎる!
こうやって前の母と今のお母様が並んでいると流石従姉妹同士、顔立ちは似ているが、雰囲気が全然違うね。陰と陽だ。
カシミュラお母様がソエビテイス公爵家と付き合いが薄いのは、何となく分かりますよ。苦手なんですね?分かります。
さて、前世の自分…リナファーシェに少し近づいた。
リナファーシェは私に淑女の礼をしてご挨拶してくれた。私も勿論、完璧なご挨拶を返した。
会ってしまうとあっけない…。
あんなに前世の自分?に会う前に緊張していたけど正直、拍子抜けした。会った瞬間も何も起こらなかった。実際、私達が同時に倒れたりとか本当に起こったら困るけど。
でもこのお茶会でレアンナに会ったって記憶が私には無い…と思う。はっきり言ってしまうと前世の私は記憶力がそんなに良い方でない。忘れている確率の方が高い。
それはそうとして…リナファーシェって暗いわぁ…。表情筋は動いている?
私って人から見たらこんな印象を抱かれていたのかな?兎に角、子供なのに元気が無いの一言に尽きる。
「初めまして、アンライカ=フィスラーです」
私の背後から元気な声がして同年代っぽい令嬢が微笑んでいた。そうそう、女の子ってこんな感じよね?
さて、お姉様とお母様に鍛えられた私の社交術の見せ所ね!
アンライカ様を交えて、お庭のお花綺麗ね〜とか、ノクタリウス殿下の立太子の儀はご参加されるの?とか、今度お茶会にいらっしゃらない?とか、話しているんだけど………リナファーシェさ〜少しは会話に入ってきなさいよ!
そうそう、ノクタリウス殿下の王太子の儀、私が知っている時期より2年も後にずれたのよね。記憶と違うので怖いけど、それ以外は私の周りには大きな変化は無いようだ。
「リナファーシェ様はど…うですか?」
リナファーシェに問いかけながら、声を震わせているアンライカ様の背中を撫でた。それにしてもさ…リナファーシェのお人形みたいな無機質な顔を見る。
あのね、アンライカはまだ6才なの!あからさまに会話が続かないのに会話繋いだりとか、大人の話術はまだ無理なの!
私とばかり喋っているのはいけないと考えているのか、必死でリナファーシェに会話を振っているんだけど、リナファーシェが乗ってこない。
あ〜あ、私ってこんなに扱いにくい子供だった?これは友達出来ないわ。
今更に過去を段々と思い出してきた。そうだよ、友達いなかったわ、私。そりゃそうか、こんな雰囲気じゃ無理だわ。
「アンライカ様、テーブルのお菓子を頂きに参りましょう。リナファーシェ様、失礼致します」
そう言ってリナファーシェから、離れてやった。アンライカ様がちょっと泣きそうになっていたからだ。
「アンライカ様は頑張りましたよ」
そう言うとアンライカ様は目を赤くしたまま、何とか微笑んでいた。優しい子ね。
アンライカ様と一緒にテーブルの焼き菓子を小皿に取って、これ美味しいわね〜どこそこの店の菓子が美味しいのよ〜とか、商店街の飴屋が美味しい、とか話して楽しい時間が過ぎた。
菓子を食べている間にも何人かのご令嬢と会話が弾み、数人の女の子達と自然に仲良くなった。
前世今世合わせても、初めての友達っ!これもフロブレンのお姉様達やお母様に根暗根性と社交術を鍛えて頂いたお陰よ。
生まれ変わった社交的な私!
それに比べてさ……相変わらずリナファーシェは独りぼっちだ。此処にいる女の子達はリナファーシェにご挨拶をして、友好を深めようとしたが諦めて帰ってきた方々みたいだ。
自然と話題はリナファーシェの事に移っていった。
「元気がない方よね」
アンライカ様がズバリと言い切った。それが合図だったかのように、令嬢達は言葉を選びつつもリナファーシェの事を
暗い、元気が無い、お友達にはなりにくいかな?
と言っていた。それはそうだろう。今の私から見ても自分なのに付き合いにくい。仲良く遊べるかと聞かれたら…言葉を濁してしまう。
まだ声高に騒いで煩い令嬢の方がマシだ。少し離れたテーブルで騒いでいる、イソマイラ=シトルアーナ伯爵令嬢をチラリと見る。あの子のほうが意地悪で厚かましいけど、そういう性格だと分かっている分、対処が出来る。
まあ、イソマイラは前世も苦手だし今世も挨拶したけれど、早速嫌味を言われたし……また苦手になるだろうけれど。
しかしこうやって外側からソエビテイス家を見ると、殺伐とした活気の無いお屋敷だと思う。お庭も綺麗だしお料理も美味しいけど、決定的に何かが欠けている。
「レアンナ、楽しくしてる?」
カシミュラお母様がニコニコと笑顔を浮かべて私の所へやって来た。お母様が来ただけで場が華やかになったのが分かる。女の子達が一斉に笑顔になった
「まあ、お可愛らしいお友達が沢山!レアンナも良かったわね」
「はい、皆様とお話していると楽しくて。今度、アンライカ様のお茶会にご招待頂いたの」
私がアンライカ様をカシミュラお母様にご紹介すると、アンライカ様は嬉しそうに頬を染めていた。その場に居た女の子達で、お茶会!私もご招待して〜とキャアと可愛い歓声が上がる。
皆、可愛いな。これよ、これ。若いって素晴らしい……そうじゃないわね。
すっかり当初の目的から外れてしまったけれど、リナファーシェとの第一接触は無事と言っていいのかは分からないが、無事に済んだ。
ここまでで分かったことは、過去の自分に会ってもしっかりと別人として認識しているし、レアンナという私は意識を保っているし、今のリナファーシェは私と気持ちが通ずるとかそんな能力はないみたいだった。
結局、自分の生まれ変わった不思議が解明されないままだった。過去の自分に会えば何か変わるか?と若干期待したがそれもなかった。
一つ分かったことは過去の自分は孤独だったと言うことだ。しかも少し頑張れば手に入る友情も取り零していた。
だったら私がリナファーシェの手を取ってあげるか?
分からない…このままでは死んでしまう自分を助けたいのか?助けて未来が変わったら?レアンナとしての私は生まれなくなる?それなら私は私を助けない方がいいの?
ああ駄目だ。難しい…勉学より難しい。
それはそれとして、今はただ………
ノクタリウス=フゴル=モエリアントに拳の一つでも捩じ込んでやらねば気が済まないっ!
まあ、本当は引きちぎって踏みつけてやりたいけど、流石に不敬かな?と思うので、心の中だけで引きちぎっておいてあげるに留める。
しかし今は別人とはいえ、これから起こるかもしれないリナファーシェのレニシアンナ様への冤罪…あれだけはなんとしても阻止してあげなければ、知っているのに無視は出来ない。
こうなればノクタリウスをギタギタに踏みつけてやれるような、事務官になって…行く行くは最高事務官の地位に!
さて決意も新たに、日々の勉強に励んだ。すでに4才上のお兄様と同じ内容の勉学を学んでいる。
お兄様はそんな私に嫌な顔一つされない。寧ろ、私に宰相になれ〜とか本気か、からかいか分からない煽りをしてくる。
ニヤニヤしているから冗談だと思うけど、本気じゃないよね?
そしてノクタリウス=フゴル=モエリアント殿下の立太子の儀が行われた。
フロブレン侯爵家からはお父様とお兄様が参列された。
「二時間も立ちっぱなしだった!」
と、帰って来たお兄様が愚痴っていたので、行かなくて良かったと内心思った。
そう言えば私、前世では立太子の儀、参列していたよね?そこで初めてノクタリウス王太子殿下にお会いしてご挨拶したよね?自分の怪しい記憶力を手繰って確認する。確か…会っているはずだ。
今世は挨拶したのだろうか?しまった…二時間立ちっぱなしは辛いけど、ご挨拶の有無を確認する為に参加すれは良かったかも。
ウンウンと唸っている私の横で、ブーツを脱いで脹ら脛を揉んでいたお兄様が
「そう言えばさ、ムトアーリデ公爵家のログリディアン様がちょっと愚図ってた王太子殿下を凄く叱りつけてたよ……すげーよな、まだ6才なのにさ」
と言った時に、引っ掛かった。うん?公爵子息のムトアーリデ様って確か…。
「王太子殿下を4才も年下の方が叱っていたの?」
そう聞くと、お兄様はニヤニヤと笑っている。
「唯一許される立場じゃないかな?何て言ってもお互いの父親は同腹の兄弟、従兄弟同士だしな。」
あら、やっぱり!その方って国王陛下の政務事務官されていた方じゃない。すごく優秀な方じゃない!でも、まだ子供なのに今からアレのお守りなの?
「大変ね…」
「……6才児に心配されなくても大丈夫だと思うよ?」
ムトアーリデ様、懐かしいわ!色々思い出してきた。国王陛下の政務の殆どを代行していたと言ってもおかしくないほどの才覚と技量を持っておられて、私もよく支えて頂いたわ。
厳しいし、よく怒られていたけど真っ直ぐな方だった。レアンナ共々私の事務仕事や難しい案件を的確に指示されていた………あれ?
待って?今すごいこと思い出した。
ログリディアン=ムトアーリデ様とレアンナって婚姻してなかった?
レアンナって私じゃない?!
私、ログリディアン様と婚姻するの確定なのぉ?!
ブクマありがとうございます<(_ _)>