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消えたレニシアンナ

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「衛兵!捕らえろっ!」


凛としたリディ様の声が響いた。その声に会場内にいた兵士の方が一斉に中央に集まって来た。レニシアンナは顔色を変えて周りを見て、そしてリディ様を見て目を見開いた。


「ログリディアン?!あんたどういうつもりよっ…また私の邪魔をするの?!」


また私の邪魔?


レニシアンナは、離せっ私は妾妃よ!ノクタリウス助けて!リナファーシェ覚えてなさいよっ!…等々を叫びながら衛兵に連れて行かれた。その後を同じく捕まってしまったワイズバーデ男爵が連れて行かれる。


知らない人には分からない事だろう。レニシアンナはまた気の触れた女と思われるだろう。


だが私とリディ様は知っている。


レニシアンナは、このデビュタント会場でノクタリウスと出会って自分が妾妃になると…思っていたのだろうか?前世で出会う予定だった森の中での遭遇が空振りに終わり、男爵家の令嬢になりすましていたのだろうか?


「レアンナ、後にしよう。今は気にするな」


「…はい」


リディ様が私の肩を摩ってくれる。そう…今日は私だけではない、皆が楽しみしていたデビュタントの日だ。あんな女の乱入でぶち壊されてたまるものか。


暫く、騒ぎで中断していたがデビュタントのファーストダンスは何とか再開された。広間の中央で流れる様に美しいダンスで魅せるのはノクタリウス殿下とリナファーシェ様のお2人だ。


綺麗…思わず涙が出そうになる。


自分の時はどうだったかな?確か踊っているはずなのだけど、薄っすらとしか覚えていない。まあ、当時のノクタリウス殿下になんて興味が無かったからでしょうけど…。


「レアンナ心配か…?」


私が冴えない表情をしていたのだろうか、覗き込むようにリディ様が顔を近付けてくる。


新緑色の綺麗な瞳…前のノクタリウス陛下の時とは違うけれど…吸い込まれそうになる。ん?リディ様は本当にさり気なく…私にチュッ…と口づけを落としてきた。


「…っな!」


皆見ているでしょ!ここ外ですからっ!!リディ様はニヤリと微笑むと


「可愛いレアンナが悪い」


とんでもない当て擦りをしてきた。斜め後ろにいるメシルからニヤニヤして笑いを向けられている~!もうっ!


デビュタントのダンスは連続で三曲踊らされた。勿論、大はしゃぎのリディ様とだけだ。


「足が疲れた!」


と言うと、テラスに出て脹脛を揉んでくれる元陛下。こんなに優しかったのかな…。あのレニシアンナもこんな風に甘やかされたのなら、そりゃノクタリウスッノクタリウスッって言ってしがみ付きたくなるかもね。


「飲み物取ってこようか?」


「あ…はい、お願いしても?」


甘い微笑みを浮かべて額に口付けを落とすと、颯爽と会場内に戻って行かれるリディ様。


暫く足を揉みながら星空を見ていると、あら?ノクタリウス殿下と…近衛のマネケス副隊長がテラスに出て来られた。あら…その後ろにおられるのはログリディアン様の御父上、ムトアーリデ公爵様だわ。


慌てて立ち上がって淑女の礼をしようとしたら、公爵様が体を支えてくれた。


「座っていなさい。先程から浮かれたリディに振り回されていただろう?」


はは…ご存じでしたか。まあ婚約者とはいえ、三曲ぶっ続けで踊る馬鹿はリディ様しかいませんでしたしねぇ。


「リディは?」


「飲み物を取りに行かれて…」


ムトアーリデ公爵様も、ノクタリウス殿下も苦笑いを浮かべた。


「あいつ本当に甲斐甲斐しいな~」


「他の女性には冷徹だが、レアンナの事になると目の色を変えるな」


あらまあ…何だか恥ずかしい。という話をしていると、噂のリディ様が帰って来た。


「殿下、父上どうされましたか?」


「先程捕らえた男爵令嬢なのだが、以前リナファーシェと出向いた視察先で会ったことがあると、マネケス副隊長から報告を受けてな…それで。」


といいかけていたノクタリウス殿下の言葉に被せる様に、テラスに近衛の若い団員が走り込んで来た。


「ふ、副隊長?!…っで…が」


マネケス副隊長は近衛に耳元で何か話をされていたが、顔色を変えて私達を見た。


「大変に御座います、先程捕らえましたレニシアンナ=ワイズバーデ男爵令嬢が牢から忽然と姿を消したようです」


「何だって?!」


「!」


消えた…?リディ様と目線を交わした。


「見張りは何をしていた?」


ノクタリウス殿下がそう聞くとマネケス副隊長の横に控えていた若い近衛の方はビクンと体を強張らせた。


「2人で交代に見ていたはずです。牢の外には衛兵も常駐しています。鍵を壊した形跡も無いとのことです」


「まさに…消えたですな」


ムトアーリデ公爵がそう呟かれた。もしかして…?心臓がどきどきする。リディ様の手を握るとリディ様も手が微かに震えていた。


ノクタリウス殿下とムトアーリデ公爵、近衛の皆様と私達も急いでテラスを後にして罪人を収監している地下牢に向かった。


入口には衛兵と軍部の大将閣下と元帥閣下がおられた。大きい軍人様で威圧感がすごい…。


「殿下、ご足労頂きまして」


「ご苦労、それでどうだ」


元帥閣下は地下牢からせわしなく出てくる近衛と軍部の方々を見ながら苦々しい顔をした。


「はっきり言って不可思議ですな。地下牢の前には2人交代で見張りがついている。おまけにこの入口には門番が数人詰めている。今、捕まったばかりなので先に男爵の方から尋問を始めようかと…すでにここに出入りしていた審議官も多数いた。逃げれるわけはない」


元帥閣下の後に続けて大将閣下が顎に手を当てたまま、話を続けられた。


「あの妄執の激しい少女…レニシアンナ嬢は以前、リナファーシェ様が訪問された視察先で、マネケス副隊長達やログリディアン様方とも接触があったと聞きましたが、お間違えないですか?」


私もリディ様も頷き返した。大将閣下は鋭い眼光のまま私を見た。


「捕まっている間に、陛下の名を呼び、自分は妾妃だと叫び…ログリディアン様やレアンナ様に嵌められたや…かなり物騒な事を叫んでいたとの報告も受けています。お心当たり有りますか?」


ノクタリウス殿下とリディ様のお顔を見ると、お2人共首を捻っている。それはそうだ、あの性悪には前世で意地悪をされたが今世では初対面で接触しようがない。


「接触しようにも、その視察の時と今回と計二回しかお会いした事がないのでよく分かりません」


私がそう答えると大将閣下は、そうでしょうなぁ~。と天を向かれた。


「妄執を患っている者の戯言を真に受けるな」


元帥閣下がそう言って大将閣下を窘めた。


「ありもしない暴言や妄言を吐き、根も葉もない事を真実のように言い連ねる病だと聞くぞ?それに違いまい」


「ですが、牢から消えたことはどうご説明を?」


大将閣下にそう聞かれて元帥閣下はグゥ…と言葉を詰まらせた。


「もしかして…伝説に聞く魔物の類ではないでしょうか?」


リディ様のお父様、ムトアーリデ公爵の言葉に皆様ギョッとしてその燃えるような赤色の髪の美丈夫を見上げた。そうそう、ムトアーリデ公爵は大人になったログリディアン様にそっくりなのよね、格好いいのよ。


こんな時に思い出すことじゃなかったわね…。


「魔物とな?あれは4000年前にシノリアンテ山に封印されてこちらには入ってこれないとされているが…そんなものがいるのか?」


元帥閣下は目を公爵に向けたり、大将閣下に向けたりしている。


「文献や資料でしか見たことのない類のものです。今、実在するのかも怪しいといえば怪しい…ですがあの女は牢から消えた」


皆様が押し黙った。


大人達が牢の中に入って行ったので、私とリディ様は何となく外で待つことにした。


「リディ様…レニシアンナって魔物なのでしょうか?」


手を繋いでいるリディ様が体に力を入れたのが分かった。


「いや…違う。でも分からない…。俺と食事も同じものを食べていたはずだ。でも魔物が女性の姿を模しているのかどうかも分からないし…知能を有しているものかな、分からないな…」


分からないことだから、余計に恐ろしいと思うのは私だけだろうか?前世の記憶を持って過去へ来ている私とリディ様。もしかしたらレニシアンナの影響なのかもしれない。私達も人から見れば魔物と同じ類なのだろうか?


その日からずっとレニシアンナの捜索が続けられていたが彼女が見つかることはなかった。


ワイズバーデ男爵を尋問した所、男爵の屋敷にレニシアンナが助けてくれと駈け込んで来たのが出会いだということだった。見た所レニシアンナは小さな女の子で…身なりも値の張るドレスを着ていた。宝石も所持していて両親が早世して、親戚に家を乗っ取られた。宝石の類を持ち出したが家を追い出されたと泣きじゃくっていた…ということだ。


可哀相に思った男爵が下女として雇おうとしたが、宝石をあげるから養女にしてくれと詰め寄ったという。


男爵は迷ったが、結局はレニシアンナの可愛さに絆された。


男爵はもう老成されて、ご子息2人は他家に入り婿に行って自分はもうすぐ隠居の身。男爵位は三男に譲るし子供は全員男。女の子が欲しかったこともあり、喜んで養女に迎えた。


まあ確かにレニシアンナは庇護欲をそそる可愛らしい容姿だからね。良く見れば年は取ってるけれど…。


という訳で、レニシアンナがデビュタントに出てみたいと言うので、年齢的には過ぎているが出てみる事にしたのだという。その結果がコレ…である。


男爵はずっと泣いていたそうだ。レニシアンナは普段は慎ましやかで良い子でとてもそんな妄言や暴言を吐く子ではない。あれは一時的に気が触れただけだ…とレニシアンナを庇っていたそうだ。


そうして、事件は解決を見せないまま時間だけが過ぎ、男爵は爵位を息子さんに譲り、傷心のまま田舎に引っ越ししていかれた。


私達もあれから随分時間が経ったので、レニシアンナや魔物騒ぎも遠く記憶の彼方に仕舞っていた。


そう…仕舞いかけていたのだ。


私とログリディアン様は共に16才になっていた。



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