そしてやっとデビュタント
やっとデビュタントです。
誤字修正しています
「じゃあレニシアンナは一度死んで生まれ変わったという訳じゃないのでしょうか?」
私がそう聞くとリディ様は首を捻って天井を向いていた。
「う~ん、彼女の年齢はレアンナが言うには20代の後半だろう?もしかすると、もっと以前にこの世界に生まれていたとも考えられないかな?」
あっそうか!それはあるかも!
ちょっと待てよ?そうすると~私達と会うまであのレニシアンナは順調に年を取ってしまっててぇ~前世でノクタリウスに会えた森のあの木の所でぇ~ずーーっと待ってて現れたのが私とリディ様とリナファーシェ様でぇ~しかも気味悪がられて置いて行かれてぇ~ウフフ…これは面白いっ俗に言う、ざまあみろの一連の流れが出来上がってますねぇ。
「レアンナ……悪い顔になってるぞ」
私はニタニタ笑いながらリディ様を見た。
「当たり前じゃないですかっなんと言われようとも胸のすく瞬間に立ち会えたのですよ。これこそ、ざまあみろでございます。あの置いて行かれて必死の形相のレニシアンナの顔ってば!ああっお茶が美味しゅうございますわっオーホホホ!」
私が高笑いをしている間、リディ様はモソモソとお菓子を食べていた。私はひとしきり笑い終わると、ソファに座り直してお菓子を頂いた。ああ、焼き菓子も美味しい。
「あ~あこんなことなら、必死に走って追いかけて来る姿を見て、もっと高笑いしておくんだった」
「……」
まあいいか、これでレニシアンナとノクタリウス殿下との遭遇は避けられそうだし。
「時系列の年表を…あら?そう言えば…あの…」
「なんだ?」
「私の聞き間違いかと思うのですが…その前世でノクタリウス陛下に冤罪を告げられて捕まえられた時に、レニシアンナとお腹の子を害した罪を償え!とかなんとかを陛下に言われた気がするのですが…」
私がそう言いかけるとリディ様は物凄く不機嫌な顔になった。
「やはり…憶えていたか?」
「そうですか、やはり殿下言っていましたよね?」
リディ様はお茶を一気飲みしてから、頭をガシガシと掻いた。
「レニシアンナに子が出来たと告げられ…その子供はリナファーシェに盛られた毒のせいで流れたと…伝えられたんだ」
「誰に?」
「レニシアンナに」
「はあっ?!そんな重大なことを事実確認もしないで言われただけで、信じてしまったのですかっ?!」
リディ様は暫くブスッとしていたが、一瞬で騎士の礼をして床に膝を突き、そして私に頭を下げた。
「私が短慮だったのだ…言い訳も出来ないっ!どうぞ…好きなだけ踏みつけてくれ!」
この泥水腐れ元殿下は実は踏まれるのが好きなんだろうか…こういうの被虐趣味というのだったかしら?…怖っ。
「リディ様…ログリディアン様のお顔でとんでもない性癖を暴露するのは止めて下さい。ログリディアン様の高潔で清廉な印象が崩れてしまいます」
この後リディ様は、俺よりログリディアンが好きなのかっ!とか訳の分からないことを言って暫く怒っていた。あなたもちびっ子ログリディアンでしょうに…。
さて、レニシアンナ遭遇事件から数日が過ぎた。あれから心配していたレニシアンナが直接城に突撃してくることもなく、平穏な毎日に戻っている。
「それはそうともうすぐデビュタントですね~」
政務資料を読んでいたリディ様はパッと表情を明るくされて私の座っているソファの隣に並んで座って来た。
「俺が頼んでいたレアンナのドレスももうすぐ出来上がってくるな」
私はログリディアン様…リディ様の婚約者なので、デビュタント用のドレスから装飾品の類は全部リディ様からの贈り物だ。
このデビュタントの為に、熱心に意匠を決めたり布地を選んだりして非常に楽しみにしていたリディ様が、この話題で絶対に機嫌が良くなることは分かっている。
「早くレアンナのドレス姿が見たいな~」
そう言ってチュッ…と口づけてくる、婚約者様12才。
ところがそんな浮かれていたリディ様と、それにつられて若干浮かれていた私が、デビュタント会場でとんでもないものを見ることになるとは、この時は想像もしていなかった。
デビュタント当日
私の実家、フロブレン家は大忙しだった。デビュタントの前日から実家に帰ってデビュタントに備えて準備をしていたのだが…。
朝から湯殿→体の指圧→下着着付け→ドレス着付け→一旦休憩→化粧と髪型の整え→最終確認→今ここ!
長い…長い…準備に何時間かかるんだろう。確か前のソエビテイス家の時は親が決めてきたドレスを適当に着せられて、化粧も簡単で…数時間もかからずに、夜会の会場に連れて来られていたはずだ。
今頃前世を思い出してきて、デビュタント前に気持ちが沈む…いけないいけないっ。もうあれは過去だ。今世のリナファーシェ様は朝から王室御用達の職人に一から磨き上げられているはず…。
何と言ってもノクタリウス殿下がデロデロにリナファーシェ様を愛しているからね~。可愛い可愛いリナファーシェ様の為にとんでもない金額のデビュタントの衣裳が準備されて、勿論エスコートとファーストダンスは殿下ご自身。
おまけに本日デビュタントの令嬢は本来、王子殿下と一曲踊らなきゃいけない決まりなのだが、リナファーシェ様にくっついていたいが為に、最後まで令嬢方と踊りたくない嫌だ!とごねていた。
そうして城に向かう時間になった。エスコート役の供に今日がデビュタントのリディ様が私を迎えに来てくれた。
はああ~!リディ様格好いい!益々身長が伸びて最近はお体も鍛えていらっしゃるから正装がとてもよく似合う!
そうそう
私もリディ様も最近、体を鍛えている。何故かというとまた前世の時のように近衛に捕まって殺されちゃ敵わないということで、複数人の賊に囲まれても切り抜けられるように剣術と体術を学んでいる。
リディ様は玄関先に現れた私の姿を見て固まっている。どうしたの?似合わないのかな?
「レアンナ…美しい。俺の…愛しい人!」
…ちょっと大丈夫かしら?今頃レニシアンナに抱き付かれて卒倒した時の後遺症が出て来たのかしら?
「大丈夫ですの?」
「大丈夫なものかっ!美しい俺のレアンナの姿を見て興奮している!最高だ」
「そう…ですか。私もログリディアン様の正装を拝見しまして胸躍る気持ちで一杯でございます。ログリディアン様とデビュタントをご一緒出来てありがたき幸せに御座います」
今日のご挨拶の為に暗記していた文をスラスラと口に出して、淑女の礼をしてリディ様にご挨拶をした。
リディ様は女子のような悲鳴を上げてずっと顔を赤くして悶絶していた。身悶えはいいから早く馬車に乗って下さいませ!
さすがに城に入り私をエスコートする頃には平常心を思い出したリディ様は優雅に私と会場横の控えの間に入った。
控えの間には友人のアンライカ=フィスラーやメシルアーデ=コート伯爵令嬢の姿も見える。
「アンライカ!メシル!」
「レアンナ~お元気?まあ、ログリディアン様も御機嫌よう」
「相変わらず旦那とべったりね~!」
アンライカとメシルとご挨拶をして、近況を報告し合っているとリディ様が私の肩を揺さぶってきた。
「もう何ですの?」
「いる…いる…」
「え?」
リディ様が震える指で差す方向に………嘘でしょう?レニシアンナが居た。御年2〇才自称15才が堂々とデビュタントの中に居た。厚かましい…。その一言に尽きます。
リディ様が怯えたようにしているので、アンライカとメシルも一緒に指差す方向を見ている。
「え~?どうしましたの?あの方が何か?」
「あ~もしかしてログリディアン様あの子に迫られたことあったとかぁ?」
メシル、中らずと雖も遠からずでございます。抱き付かれて卒倒したなんて不名誉な事は、ここでの発表は差し控えさせて頂きますね…。
「しかし彼女は爵位のあるご実家出身でしたか?」
私がリディ様に尋ねるとリディ様は素早く切り返してきた。
「いいや、出身地は不明だったはずだ。彼女の横に居るのはワイズバーデ男爵だ」
ワイズバーデ…確か地方領を収めている男爵だ。私がチラリとリディ様を見るとリディ様は頷かれた。
「後で調べておこう」
そうですね、何故レニシアンナが男爵とご一緒しているのか…自称15才なのにデビュタント会場に来ているのか…調べないといけませんね。
そしてデビュタントが始まった。一組ずつ名前が呼ばれ会場に入る。私達は高位貴族なので順番はまだ先だ。
「それでは順番にお呼びします。レニシアンナ=ワイズバーデ男爵令嬢!」
一番最初にレニシアンナが呼ばれた。え?男爵令嬢?!思わずリディ様と見詰め合ってしまう。
「男爵令嬢だって…」
「どういう事でしょうか…」
レニシアンナは先日会った時よりは15才っぽく見える化粧をして清楚な雰囲気を出している。まあちょっと大人っぽい15才だね?という範囲には収まっているようには見える。
黒色の瞳に黒い髪…確かに女神の奇跡と呼びたくなる神秘的な色だ。会場内にいる貴族子息から感嘆の溜め息が漏れている。
そして順番に名前が呼ばれて行く。まだ先かな~と順番待ちをしている私の背中をトントンと誰かが叩いた。振り向くと本物の女神様、リナファーシェ様とノクタリウス殿下が立っておられた。
「まああ!リナファーシェ様ぁ今日は一段とお美しくて~!」
「ウフフ、レアンナも素敵な色合いのドレスね」
「レアンナ素敵だね、似合っているよ」
「まあまあ、ノクタリウス殿下もリナファーシェ様と共に輝いていらっしゃいますわ!」
とか、殿下ご夫妻(予定)を褒めちぎっていると私とリディ様の名前が呼ばれた。背筋を伸ばしてリディ様と広間に入って行った。
「レニシアンナがこっち見てるな」
「無視、無視ですわ…」
ゆっくりと会場内の上座にいらっしゃる国王陛下夫妻に礼をしてご挨拶をし、そのお隣に居るまだお小さいノリューシャ王女殿下が笑顔で私とリディ様に手を振っているので小さく振り返してから、リディ様と横に控えた。
そして
ノクタリウス殿下とリナファーシェ様が優雅に気品溢れるお姿で来場された。ああ、お互いに笑みを浮かべて時折見詰め合ったりして…ウフフ。
そして楽団が音楽を鳴らした。先ずは、ノクタリウス殿下とリナファーシェ様のデビュタントのファーストダンスを皆で見る…予定だったのだが、突然、広間の中央に走り出てきた人物が居た。
レニシアンナだっ?!
まさかのことにデビュタント会場内に居る人々は、固まったまま手を広げたレニシアンナを見詰めている。
「ノクタリウス!私と踊って!」
えええっ?!