冤罪…そして再び
出来るだけすっきりしたざまぁを目指します。ざまぁを入れつつ、ギャグや恋愛を挟み込んでいく予定です。
いきなりの胸糞展開からスタートですが、宜しくお願いします。
「リナファーシェ=ソエビテイス!貴様には私の大事なレニシアンナとお腹の子供を害した罪を償ってもらう!」
何が起こったのだろうか?
急に部屋に押し入ってきた城の近衛と、我が国のノクタリウス=フゴル=モエリアント国王陛下の姿を唖然として見詰めてしまう。
「申し開きは一切受けつけぬ!捕らえろ!」
近衛に手を押さえられて、私の手に持っていた政務の報告書や決議案の承認書類が私の手から落ちて床に散らばる。その書類を近衛が踏みつける。
「踏まないでっそれは重要な…」
顔に強烈な痛みが走った。国王陛下が私の顔を叩いたのだ。
「そんなものより私のレニシアンナの方が重要だ!」
そんなもの?その治水工事の計画案は次の雨期まで工事を着工し、補強しておかねばならない重要案件だ。工事の日程が延びれば延びるほど、川沿いの地域の住人が危険だ…毎年数百人規模で死傷者が出ている沿岸もある。
私が尚も書類を拾い上げようとすると、今度は反対の頬を叩きつけられた。叩かれた反動でよろめいて執務机の角で頭を打った。
痛みにより一瞬、意識が飛びそうになる。しかし割れるような頭の痛さより何より、国民の為にと作成して検討してきた計画案を踏みにじられたのが悔しかった。
意識が朦朧とするなか、捕らえられた。散々陛下に蹴られたりしていたけれど、私の気持ちは痛みを感じるとかそれどころではなかった。私を蹴る前にやることがあるでしょう?早く政務に戻って下さい。
しかし国王陛下は私を引きずりながら玉座の間に連れて来ると、レニシアンナと2人でニタニタと笑いながら私を見下ろして酒を飲んでいるばかりだ。
何をしているのだ…。早く政務をして欲しい。いつまで私に全部を押し付けるのか…。いや、私だけでは無い。実質、国王陛下の政務は8割方は事務補佐官の方々が片付けているあの方々は本当に優秀だ。
事務官に丸投げで、それでは駄目だと国王陛下には何度も進言を繰り返してきた。
しかし…それの答えはこれか?私がレニシアンナ様の御子を害そうとした?そんな暇があるのなら、ゆっくり食事も取りたいし、たっぷり睡眠が取りたい。
というか…もうどうでもいい。何の為に頑張ってきたのか…誰を助けたいのか分からなくなった。
信じ支えていたものが足元から崩れて落ちた感覚だ。
どうしてこの男は分かってくれない。何か喋ろうかと息を吸い込んだら激痛で、胸が裂けそうだ…。
「…っ…ひ…ぐ…」
「哀れだな!私のレニシアンナを害そうとするからだ!」
国王陛下からお酒を頭上から投げかけられた。ゴン…と音がして投げつけられたグラスが鼻頭に当たった。痛い…傷口にお酒が沁み込んで痛みで体に痙攣が起こる。
先程から頭も痛い…とてつもなく痛い。先ほど机の角で頭を打ち付けた時、打ち所が悪かったようだ。
目が開かない…半分視界が暗くなってきている。近衛が立たせようとしたが足に力が入らない…。そんな私の姿を見て大笑いしているノクタリウス陛下の邪悪…と言ってもいいような顔が見える。
ふざけるなよ。あなたの補佐として…国王妃として全て承知でこの婚姻を受けたのだ。例え妾妃が居ようとも、自分の与えられた公務と半ば放置されていた国王陛下の政務も兼任して私と事務官達で肩代わりしてきた。妾妃なんて興味はまるで無い。あんな子と2人で好きにしたらいいのに…害する?あなたに興味が無いのに?
この国の安寧秩序の為…それが私の…私達臣下の働くうえでの誇りであり全てだったはずなのに。
近衛にぞんざいにどこかの床に体を投げられた。力も入らないので受け身も取れず、激痛を上げて体が変な方向に捩れて、転がった。
ああ、痛い。
昔から今までの苦しいことや悲しいことを次々と思い出していた。
そう言えば、地場産業の無い辺境の村で作物の根付けが上手く行き、安定した収穫が見込める様になった。あの時は収穫時期に農民達と泣きながら喜びながら畑に入って収穫したなぁ、あれは楽しかった。
ああ……嫌な事ばかりじゃなかった。でも、もういいわ。こんな人生もう嫌だ。力の入らない体から血と体液…がじわじわと体から流れて出て行くのを感じる。
もうこんな人生二度と味わいたくない。次があるなら………。
…。
……。
そして私は生まれ変わったようだった。生まれ変わった先はどこかの裕福なご家庭のようだ。部屋に置いている調度品が良い品揃えだ。私に会いに来てくれる夫人も育ちの良さそうな綺麗で優しい方だ。
しかし前の生の記憶があるので、眠っては嫌なことを思い出して泣いたりしていた。私はその優しい夫人に随分と心配をかけていただろう。生まれて少し経ってから何とか気持ちを整理しようとして…ある時とんでもないことに気が付いた。
ようやく伝え歩きが出来るようになった時の頃、優しい夫人…母が侍女と廊下で立ち話をしている内容を小耳に挟んだのだ。
「もうすぐノクタリウス殿下の6才の生誕記念日ね~」
「屋台も出るのですよね。マーライラ地方の香油今年も販売しますかね~」
ノクタリウス…殿下?殿下ですって?その時思い出していた。確か…ノクタリウス殿下は8才の時に立太子して…前国王陛下が崩御された為に14才で即位されたはずだ。
ちょっと待って?私は生まれ変わって…何年か先の世に生まれ落ちたものだと勝手に思い込んでいたけれど…。
もしかして逆に過去に戻って来ているの?
冷や汗が背中を伝う。何か明確に年号を確かめる術は…。あ、お母様がいつも読んでいる週刊本があるわ。あれの発売年月日を見てみましょう。
ヨロヨロしながらサイドテーブルに置いてある週刊本の所まで伝い歩きで移動した。本の裏表紙を開いた。
年号を見る…。私が死んだ年より前、16年前の本だった。逆算すると私は一度死んでから遡って18年前に戻って生まれてきたようだった。
しかも別人になって…。
暫く放心状態だった。記憶を所持したまま別人に生まれ変わっている事態にも驚いているのに、しかも過去に戻っている?ノクタリウス陛下がまだ殿下ですって?
部屋の壁にたてかけられている鏡を見る。私が映っている。くすんだハニーブラウン色の髪に茶色の瞳…顔立ちだけは前の顔に似ている。
そして名前はレアンナ=フロブレン。侯爵家令嬢だった。彼女のことは知っている…だってレアンナは…前の国王妃付きの政務事務官だったのだから…。レアンナってこんな顔だったっけ?もう少し可愛らしい顔じゃなかった?
どういうことなんだろう?
すでに生まれ変わって2年が過ぎているが私がレアンナ=フロブレン?不思議で仕方がない。
そしてレアンナの父のパール=フロブレンは宰相付きの補佐官だった。このままいけば前世?の通りに私は国王妃付きの政務事務官として王宮勤めになるはずだ。
それじゃあそもそも国王妃って誰なの?私じゃない、リナファーシェ=ソエビテイスがいるの?
そうそう今世の父フロブレン侯爵はすごく穏やかで優しい人だった。上に姉2人と兄がいるのだが、その姉兄も穏やかで優しい。
私は当たり前だけど赤ん坊の時から聡明で賢い。家族皆も大いに期待しているし、父親と同じ事務官の道に進むのは構わないのだけれど、それって大丈夫なのかしら?
そんな私は今、やっと6才です。巷じゃノクタリウス=フゴル=モエリアント殿下の立太子の儀がもうすぐね~という話になっている。
着実に時代は進んでいる。私は家の中にある図書室に向かった。あまり自身が小さい時に難しい本を見ていると家族を逆に心配させるかもしれない…と遠慮していたがそうも言っていられない。
本当にリナファーシェ=ソエビテイス元公爵家令嬢、第一国王妃である私は死んで、レアンナ=フロブレン侯爵家令嬢として生まれ変わったのか?
何としてもこの事態を把握しなくてはならない。
結果、貴族年鑑という一覧を見てみたが、確かにリナファーシェ=ソエビテイス公爵家令嬢は存在する。おまけに私の又従姉妹というお家柄だ。どうりで顔立ちが似ていると思った。
私はまだ6才。デビュタントはまだ先だが、貴族の茶会に呼ばれて自分に遭遇するのはそろそろ起こるかもしれない。
そこで会うリナファーシェ=ソエビテイスって誰なの?正直、会うのが怖い。
私はここにいるのに?頭が混乱する…。
「レア?」
図書室の扉が開いて、すぐ上のルイミナお姉様が顔を出した。
「はい、お姉様」
返事をするとルミィ姉様はパアッと微笑んだ。
「レア、クッキー焼いたのよ」
「食べる!」
ルミィ姉様が差し出した手を握り返して、笑顔の姉様と図書室を後にした。
最近つくづく実感することがあるのだけど、人って変われるのね、ということだった。前世では私は暗くて真面目で頭の固い女だったと思う。
まあソエビテイス公爵家の父や母が子供に愛情をかけてくれる人達じゃなかったし、家族の仲は良くなかったので家の中は暗かった。私も必然的に根暗で笑顔の少ない女に成長していたと思う。
ところがどうだ。このフロブレン侯爵家の皆は毎日笑い声が絶えなくて、皆優しくて暖かくて…家族って本来はこういう温もりがあるんだと毎日毎日感じさせてくれる。
今では私も根暗から随分と成長した。人って環境でいくらでも変われるのだ。
さて明日はいよいよ…茶会デビューである。
姉2人が私のドレスを、随分と悩んで決めてくれた。時々レアはどの色がいい?と聞いてくるけど、こっち!と答えると…ええ?それちょっとレアには似合わなくない?とか否定を入れてくる。
だったら聞かなきゃいいのに、それでも何度も聞いてきて否定する謎の姉達。でも楽しそうだ。
私は姉2人に当日可愛い可愛いと褒めちぎられて、お母様に連れられて茶会会場に到着した。
ヒーローが出て来るのは数年先です^^;