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先輩

作者: 綾瀬えみ

あれは、今から約半年前。中学2年生の私は、大会での野球部の応援に行っていた。今は、7回裏でツーアウト満塁。得点は3対0で私たちの学校は負けていた。次のバッターは野球部キャプテンで生徒会長も務めている先輩だ。ここで打たなければ、全国への切符は逃してしまう。

バッターボックスに立った先輩は鋭い眼差しでバットをかまえる。ピッチャーの手から離れたボールは先輩が大きく振ったバットに当たり、カキーンという威勢の良い音と共に、遥か遠くへ鳥のように飛んでいった。先輩はかけ出し、ベースを踏んでホームインする。観客席からは小さな落胆の声と大きな歓声があがる。得点は3対4。この日、私の学校の野球部は全国への切符を手に入れたのだった。仲間と喜び合う先輩の背負った1番は、少し土で汚れていて、すごくかっこ良かった。


三学期になって、すっかり日が短くなった。夕日で赤く染まる階段で、先輩とはいつもすれ違う。落ち着いた足取りでやってくる先輩とすれ違う時は、背筋がいつもより伸びて、少しだけ緊張する。私は三学期になって、先輩と毎日すれ違うようになったが、部活が違く、あまり親しくなかったため、なかなか声をかけられない。挨拶ぐらいはしても変ではないだろうと思うのたが、人見知りな性格もあって、いつも先輩の背中を見送ってしまう。

難関校を受験する先輩は、毎日塾通いだと親しい先輩から聞いた。私は毎日塾だなんて大変だなぁと思う反面、先輩なら大丈夫だろうと思っていた。


先輩の受験が翌日にひかえた日の夕暮れ。私は先輩といつものように階段ですれ違った。いつものようだと思ったのだ。先輩の顔を見るまでは。

先輩はどこか不安げな顔をして階段を下りてくる。私はすごく驚いた。だって、あんな先輩の顔見たことない。生徒会長として前であいさつするときも、全国をかけたあの日も、先輩は不安を表に出したことはなかった。いつも、俺にまかせろと言わんばかりの笑顔でみんなの前に立っていた。その先輩があんなにも不安そうな顔をするなんて。

その時、先輩のかばんの中でカチャッと筆箱が鳴った。私はその音を聞いて、思わず先輩を呼び止める。私の言葉を聞いた先輩は、少し驚いた顔をして、すぐに、あの笑顔を私に見せてくれたのだった。

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