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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 三節・南国
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六十五話:幼き日、ある時の記憶

兄さんの過去編だーーー! やったー!!


所で、やはり要所要所をもう少し詰め込んで、お話をもう少し短くしたい……じゃないといつまでも終わらな……ウッッ。


後はn回目の直しもしたい。時間よこせください。

 

 これは今よりも過去の話。


 幼き日の兄が、今に至るまでの——。



 抗い始めるまでの、物語である。








 中央国。


 唯一四季の巡る土地を持つ国であり、大陸一の軍事国家。

 そこまで登り詰めた要因は明かされてはいない。

 王族の血だとか、厳しい政治が人を厳しく育て上げるだとか、好き勝手な噂が舞い込んではいる。

 噂の風というのは真と偽りが飛び交うもので、判別するのは証拠がなければ難しい。

 現在の国王、クラウディオ・リゼルト・シェレイは、侯爵令嬢であったシャルロッテ・コーデリアを妻に迎えて二人間には二人の男児が産まれた。

 クラウディオは光属性魔法に長けており、シャルロッテは剣術を使用する。当然、息子達もそれらを叩き込まれる訳だが——。



「兄さん! 一周遅れだよ!」


「ちょっ……えええ……」



 城は外部からの侵入を防ぐ為に城壁で覆われてはいるが、内部の面積はとても広い。なので、兵士の訓練では体力作りにと白の内部を壁沿いに走る訓練が取り入れられている。鍛えられた成人男性の兵士でも十周でいよいよ根を上げ始める訓練を、兄弟は二日に一回の単位でこなし続けた。

 弟は息を切らしつつはあるものの、声をかける程度の体力は残っているようで、ペースをがくんと落している兄を追い越していく。流石に弟——レフィシアに負ける訳にはいかない。兄としてのプライドを見せようとしても、身体は素直で、その想いに追い付いてはくれなかった。

 数十分の時を経過してようやく基準である七周を走り終わると、途端に膝が地面に降りる。早く呼吸を整える為にゆっくりと息を吸おうとしても、身体はそれ以上の空気を要求し、全然ゆっくりとは程遠い。中央国の季節は夏真っ盛り。空は清々しいくらいに快晴。スフェルセ大陸最高気温の南国には劣るとは言われてはいるものの、太陽の光が発する熱は追い討ちをかけるように兄——アリュヴェージュの体力を奪ってゆく。



「お疲れ様、アリュヴェージュ」


「……ッ、キアー……な、なんで、そんな、よ……ゆうなの……」


「そりゃラビリッツとのハーフなんだから体力と脚力、跳躍力には自信あるよ」


「レ、レフィシア……」


「レフィシアが何処かって? ボクの次に終わったから、次は勉強だって言って部屋に戻っていったよ」




 数十日前に保護し、ルファニア公爵家の養子となったキアー。戦闘能力は子供とは思えない理由は、彼が人と魔物との間に産まれた〝奇跡の子〟であるのが由来される。しかし彼の生い立ちを思えば奇跡などという大層な言葉は返って失礼に値する。人種差別は未だに無くなることがない社会問題の一つだ。実際、早くに歴戦の兵達を薙ぎ倒したキアーに向けられているのは、妬みと憎悪しかない。自分だけは彼にそれを向けてはならないと、アリュヴェージュは日頃から肝に銘じている。


 レフィシアはアリュヴェージュよりも活発で、体力はもちろんの事、実践訓練もキアーに負けず劣らずの実力を持つ。剣術は光のように速く鋭く、光速に達する速度を前に将来は〝中央四将〟の肩書きを背負うだろうと周囲から期待を寄せられている。

 一方アリュヴェージュはというと、元より持ち合わせている頭脳から実践訓練よりも勉学に励み、リゼルト・シェレイに連なる証の光魔法を極めていた。当然レフィシアのような体力も瞬発力も剣術も持ち合わせていないアリュヴェージュだが、役割分担が出来ていいではないかと割り切っている。



「アリュヴェージュ殿下。クラウディオ様とシャルロッテ様がお呼びになられてます」



 地べたにぐったりと座り込むアリュヴェージュと呆れ目で見下すキアーに割って入るように、野太い男の声がかかる。

 彼はオーバス・グレアバンス。

 つい最近、最高戦力〝中央四将〟の名を賜った筋肉質の男性。見た目に合わず魔法剣士として成り上がった彼は、頭を下げてからアリュヴェージュを呼ぶ。



「そういう訳だから。キアー、行ってくるよ」



 オーバスの後ろについていったアリュヴェージュの背を最後まで見届けたキアーは、居なくなったと同時に疑いの眼をぎらりと灯す。その矛先はオーバスに向けられていた。

 オーバスは男爵位の貴族ではあるが、そもそもグレアバンス家には黒い噂が絶えない。だったら男爵位を剥奪させればいいのではないかと言うが、決定的な証拠を隠滅するのが上手く、納得のいく処罰に至っていないのが現状だ。

 公爵家の義息として、何より、同じ年頃であるが故に息子達を守ってほしい。クラウディオとシャルロッテから密かに下された使命をキアーはひたすら胸に秘め、一人で訓練を再開し始めた。





 とある一室。

 王族の為に用意されたその部屋は、とても高価で煌びやかな家具達がずらりと並んで置かれている。それこそ壊すものなら数十万以上は軽く弾むほどで、とても平民では支払う事のできない額だ。

 部屋には長く続く黒のテーブルは光沢を施されており窓から差し込む太陽の光を反射する。

 ソファに腰を下ろすは母、シャルロッテ・リゼルト・シェレイ。薔薇のような鮮やかなローズレッドの長い髪と、ミントの葉のような明るいグリーンの瞳の色を持つ。見に纏うは夏真っ盛りでありながらドレスだが、室内はとても冷房が効いているので、そう暑くは感じていないのだろう。シャルロッテの実家、コーデリア家は代々多くの武の猛者を送り出してきた名家。ルファニア家が政治の関係に多く携わってきたなら、コーデリア家は武で貢献してきたといっていい。その中でもシャルロッテ・コーデリアは令嬢という立場や恋愛には目をくれず、軍兵になってから僅か三ヶ月で〝中央四将〟の名を賜わった歴代屈指の剣士。クラウディオと婚約し妃となってからは引退しているものの、その腕の衰えは著しくはない。



「疲れている所、ごめんなさいね? アリュヴェージュ」


「い、いえ……大丈夫、です」


「あら。やはり疲れているのね? 体力は基本よ。今度から倍に増やそうかしら」


「やめてください!!」



 コーデリア家は余程体力作りに励んでいたのか、それともシャルロッテが脳筋なだけなのか。

 アリュヴェージュは自分の母親の鬼教官っぷりに顔を青く染め、身体をフルに使って拒絶を露わにした。同意を求めようとシャルロッテの隣に座る父に助けを求める。アリュヴェージュやレフィシアと同じ温かな橙の髪を持ち、華やかなラベンダーの瞳は目を伏せった。


 ——これだけは諦めろ。シャルロッテは脳筋だ。


 言葉にはしていないが、そう聞こえてきてしまう。

 この夫婦は国や政治の決定権こそ国王の父、クラウディオが所有している。しかし、夫婦間の関係だけでいうなら完全に妻の尻に敷かれてしまい、クラウディオは逆らえない。



「コーデリア家の四女の婚約記念のパーティーにアリュヴェージュやレフィシアにも来てほしいんだ。七日後の正午ほどに行われる」


「四女……エメリー侯爵令嬢様ですか。分かりました」


「その後も色々と予定が詰まっているからな。レフィシアの勉強が終わったら、レフィシアとキアーと共に城下に出かけてくるがいい。息抜きは必要だからな」


「!! ありがとうございます!!」



 侯爵令嬢には興味は無いが、休暇を貰えるのは嬉しい限りだ。用件はそれが主のようで、他に軽く話を弾ませる。もう用はないようだと足取りを軽くして部屋を後にしようとするアリュヴェージュに、また何かを思い出したかのようにシャルロッテが声を上げて引き止めた。




「ねえアリュヴェージュ。貴方もそろそろ出逢いを求めてみてはいかが?」


「母様。申し訳ありませんが今はレフィシアの世話を焼いているので精一杯です」


「あら。貴方は世話を焼いているというよりも、焼かれてる方が多く無いかしら? キアーに」


「……し、失礼します!」



 誤魔化すように部屋を退室し、少し勢い余って大きな音を立てて扉が閉じられた。

 王族としては幼少期から婚約者を決めておくべきなのは頭では理解している。しかし、シャルロッテに向かった発言もそうなのだが、アリュヴェージュはご令嬢に苦手意識を持つ。自分を巡って数十人の女性が妃の座を巡って目に見えない戦いを繰り広げているのだ。中には将来の妃に選ばれる為ならばと他の令嬢に嫌がらせ行為をする令嬢も少なくは無く、

 そういった独特の輪の中に喜んで飛び込むほど、アリュヴェージュは女性を求めていない。


 レフィシアが幸せならそれでいいと、今も、これからもそう願いながら赤絨毯の廊下をゆったりとした足取りで歩む。



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